第八話 Reason for captivity
天夜と緑間は死んだ。
残ったのは、俺、武田、早乙女、青葉の四人。裏切り者たる緑間が死亡し、ゲームは終了した。
『さて、ゲームはこれにて終了です。生き残った皆様は、お帰り下さ
「待て」
『なんでしょう?』
「このゲームは、牢屋を舞台にして行われた。そこを舞台にしたんだとすると、お前達はここの警官達を殺した、ということだな?」
『そうですが、それがなんだと言うんです?』
「俺達に、真実を話してくれ。
俺達は、どうやって囚われたのか」
『皆様がそこまで言うなら、ゲームをクリアしたご褒美にお話いたしますが。
その前に。そちらに向かいます』
映像が途切れた。
その数秒後。天井が破壊される。
そこから現れたのは。
男と、小学生くらいの少女。
男は紫の三白眼だが、優しそうな顔。少女も整った顔をしているが、その顔はとても小学生くらいの少女のものとは思えない程冷たい表情。この少女も、そこの男と共にゲームを見ていたのだろうか。
男が口を開く。
「貴方達をここに拉致した、松田信繁と申します。そっちは、娘の小日奈です」
小日奈は頭を下げる。
「それで、俺達はなんで、ここで目覚めたんだ?
それはどういう手段で、だ?」
「厳密に言えば、私が捕らえたわけではありません。
貴方方は、私達以外の手によって、ここに囚われたんです」
それは、つまり・・・・・・。
「貴方達は、犯罪者だったんです」
俺が!? いやそんな筈はない。生まれてからの二十三年間、そんなことをした記憶は無い。いや、問題はそこじゃない。
問題は、俺が犯罪者だったとして、どのような犯罪を起こしたのか。
そして、それはどういう動機で行ったのか。
「ですが、貴方方を犯罪者にしたのは、私の兄です。
私の兄の名は、松田信虎。
これだけなら分かるでしょう。大量殺人犯の名前です」
松田信虎――。日本で大量殺人鬼として恐れられ、警察すら手の付けられなかった凶悪犯。だけど、何故そいつが俺達を犯罪者に?
「確かに、兄や私に、貴方方を洗脳する技術はありません。
だから、洗脳させたんです。
とある、心理学科の学生に」
俺達は、学生に洗脳させられたのか?
「その人を生身のまま呼びたかったのですが、残念ながらその人は三ヶ月前にとある事件で死んでしまいましてね。
ですが、AIデータならこちらにあるので、紹介しましょう」
松田は俺達に向かって携帯端末の画面を向ける。
そこに映っているのは、金髪に青い瞳の少年。容貌は、人間離れして美しかった。
『私は、上杉読心。死ぬ前は心理学科の学生でした。
そうです。貴方達を洗脳したのは私です。半年前、私が松田さん達に人を洗脳する映像を与え、それによって貴方達は洗脳され、凶悪犯罪者として、松田さん達と多くの人に手を掛けました。
ですが、それも四ヶ月前に終わった。リーダーだった松田信虎さんのみが一人で逃走し、私が映像を渡したことは裁判で証言されることはなく、松田信繁さんと貴方方十二名は老若男女関係無く全員死刑となり、母を既に信虎さんに殺されていた小日奈さんはこの刑務所で預かることになりました。
そして私と信虎さんは、同じとある事件に巻き込まれ、命を落としました』
俺達が、死刑囚・・・・・・?
「待て! だったらなんで、俺達は平気なんだ?
洗脳されたんだとしたら、今俺達が平気でいられるのはおかしい。
それに、そんな記憶は無い!」
『あくまで記憶が無いだけです。
記憶がないからと言って、事実までが消えるわけではない。
裏切り者に人格を植え付ける時に使った装置で、貴方方の死刑囚としての記憶を奪ったんです』
そういうことか・・・・・・。
じゃあ俺達は、外の世界に出られないのか?
「じゃあ、何故こんなデスゲームを開いた?」
「それは私が答えます。ただ、退屈だったのですよ。監獄に閉じ込められるだけの人生が。
貴方方は囚われた後は大人しかった。だがそれでは退屈過ぎました。
だからここの警官を殺し、あらゆる警備が来られないようにここを厳重に封鎖し、
貴方方から死刑囚としての記憶を奪い、殺人鬼の人格を緑間彩さんに植え付け、再び個室に戻して、貴方方は目覚めたんです。
なので、デスゲームの賞金も、ここから出られるという話も全て嘘です。
私がデスゲームを見たいが為に作り出した偽の動機です」
「ふざけるな! そのせいで裏切り者は皆を殺した! そして天夜は賞金の話を信じて、あんなことをした!」
「だから言っているでしょう。貴方方はただの駒に過ぎないのです。
駒は主人の言うことを聞くモノですよ?」
「ふざけるな! お前の駒になった記憶は
ない、からなんなんだ? さっきも言っていたじゃないか。無いのは記憶。事実はきちんとある。
『そうですねえ、実は貴方方の中に、自分から加入した者がいたんですよ。二人ほどね。
その二人の話をしましょう。それは、
天夜さんと、藍田さんです』
天夜と俺が?
何故だ? 何故なんだ?
『まずは、死んだ天夜さんについて話しましょう。
彼は途中、豹変しましたよね?
あれは別に賞金が目当てなわけではなく、人を殺すこと自体があの人の目当てだったのです。
彼はゲームが好きな姉の弟。姉はゲームの中では最強で、天夜さんは姉に勝つことが出来ませんでした。
なので天夜さんは現実での強さに目覚めた。死ぬほど鍛錬を重ね、姉や家族の目の届かない所で犬や猫などを殺していたそうです
その内人を殺したいと思うようになった天夜さんは、松田さん達の仲間になる前から十人くらい人を殺し、松田さん達と出会い仲間となった。
勿論洗脳はしましたが。
因みに私は、彼の姉と一度会ったことがあります。例の事件でね』
その話を全て聞いて吐き気がした。
俺は研修医ではある――正確にはあったが、医者でもあった。事実心の中ではまだ医者のつもりだ。医者として自分や人、他の生物の生命は何よりも尊く、軽々しく奪うことなど決して許されない代物。それを自分の快楽の為に奪うなど、そんなこと、あってはならない。
『では、次に藍田さんの話をします』
やめろ、と言いたかったが口が開かない。
『藍田さんは、天夜さんとは対照的に生物の命を尊ぶ性格です。
藍田さんが何故松田さん達のメンバーに加入することになったのかというと、それは親友の女性にフられたかららしいです』
親友? しかも女性の?
確かにこのゲームでタイムリミットが来て眠る度に、俺はあの女性の夢を見た。最後、自分は俺の親友と名乗っていた。
しかし俺の記憶上では、親友がいた記憶は無い。女友達すらいたことがない。
それも、改ざんされたということか。
『それに絶望し、貴方は自分からその女性の記憶を消したいと願った。
貴方は自分から記憶を消す為に、松田さんの仲間になった。
洗脳された後に、自分が人殺しになるとも知らずにね。
そしてそれを知った親友の女性は、そのあとどうなったと思います?』
彼女が、どうなったか?
ひょっとして!
「もしかして、まさか・・・・・・」
『そう、貴方は』
もうやめてくれ。
『貴方を心配して駆けつけた親友の女性、結城彩花さんを自らの手で殺したんですよ!』
それを聞いて、口が開いた。
そして直ぐに、声が出た。
う、う、う。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そんなの、そんなの俺じゃない!
『ですがその後、少しだけ我を取り戻したのか、彼女の記憶が無いのに彼女を手術して治したいと言っていましたがね。
殺したのは他でもない、自分なのに』
もう、嫌だ。
なんで、なんで。
俺が、そんなことを。
「これが、私たちの全てです。どうですか?」
絶望したに、決まってる。
そして、目の前にいる人物は、人を欺して洗脳した上多くの命を奪わせた奴。
もう、俺は医者としても、一人の人間としても、彼を生かしておくなど出来ない。
「お前を、倒す!」
メスを握って、俺は構えた。