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コガメ と カエル 

 広い公園の中に、小さな池がありました。


 そこに、コガメとカエル。


 そして、お魚がたくさん住んでいました。


 コガメは『けること』が大好き。


 公園で人間のこどもが、サッカーボールと一緒に遊んでいるのを、池からよく見ていました。


「大きくなったら サッカーボールになるんだ」



 カエルは『動くこと』が大好き。


 コガメと一緒に公園へ行っては、白と黒の、キレイで早く動くサッカーボールに、あこがれていました。


「大きくなったら サッカーボールになるんだ」



 コガメとカエルは、とっても仲良し。


 雨が水をたたく日に、フナのおじさんがコガメとカエルに、


「夢は あるかい?」


 と、聞きました。


「大きくなったら サッカーボールになるの」


 コガメとカエルは、元気よく答えます。


 フナのおじさんは首をかしげて、もう一度、聞きました。


 しかし、コガメとカエルの答えは変わりません。


「サッカーボールというものは けるもの なんだよ?」


 フナのおじさんがそう言いますと、


「うん 知ってるよ」


 コガメとカエルは、声を合わせて うなずきます。


 フナのおじさんは困ったように口をまげ、池の深いほうへと、泳いでいってしまいました。


「フナのおじさん なにが言いたかったのかな?」


 コガメはそう言って、首をかしげました。


「なにが言いたかったのかな?」


 カエルもマネして、首をかしげました。




 晴れた日に、コガメとカエルは池を出て、散歩することにしました。


 ゆっくりと歩くコガメの周りを、ぴょんぴょんと元気よくはねるカエル。


「カエルくんは いいな。早く動けて。もうすぐ サッカーボールになれるのかな?」


 カエルは、首を横にふりました。


「まだまだだよ。サッカーボールは、ずっと飛びはねたりしないもの」


 コガメの背中にのぼり、カエルは言いました。


「コガメくんこそ 背中にサッカーボールのもようがあるね。もうすぐサッカーボールになれるのかな?」


 しかし、コガメは首を横にふりました。


「まだまだ。サッカーボールのもようは五角形。ぼくのは 六角形だもの」


 コガメとカエルは、人間のこどもたちに甲羅こうらをたたかれたり、足を引っぱったりされましたが、なんとか、公園の外に出ることができました。


「ふう。だいぶ歩いたね」


 コガメは、首を長くしてのびをしました。


 カエルは疲れたようすもなく、高くはねています。


 と、その時、コガメとカエルの頭の上を飛んでいくものがありました。


「あっ! あれは、サッカーボールさん!」


 コガメとカエルは、同時にさけびました。


 キレイなサッカーボールが、道路で二、三回、はずみます。


「あぶないよ。車がくるよ!」


 コガメとカエルは、なんども なんども呼びました。


 けれども、サッカーボールは動きません。


「どうして 動かないのかな?」


「どうして 動かないんだろう?」


 コガメとカエルは、不思議に思いました。


 サッカーボールに心がないことを、コガメもカエルも知りません。



 そこに車が来て、ボールを ぽんとはねました。


 サッカーボールが、コガメとカエルのほうにころがってきました。


 キレイだったボールは、いまでは黒くなり、空気が抜けて ふにゃふにゃになっています。


 人間のこどもが、そのボールを見て言いました。


「あーあ。ぼくのボール、もう使えないよ。


 そうだ! これはもういらないから、新しいの買ってもらおう」


 そして、ボールをひろって、行ってしまいました。



 コガメとカエルは、しずかにそれを見送りました。


 こどもの言葉も、悲しいものでしたが、


 泣くことも、


 車をよけることも、


 こどもに悲しみを伝えることもできない、


 そんなサッカーボールを見て、気づいたのです。


「かなしいね」


 コガメは、池へとかえりながら、ぽつりと言いました。


「かなしいな」


 カエルは、はねることを やめて、コガメの横を歩きました。


 フナのおじさんの言いたかったことが、分かったような気がしました。




 それから、何日かが過ぎました。


 コイのおばさんが、コガメとカエルに聞きました。


「夢は ある?」


 コガメとカエルは、元気よく答えました。


「大きくなったら になるの」


「藻 に?」


 コイのおばさんは、目を丸くしました。


「藻になって ふわふわするの」


 コガメが、楽しそうに言いました。


「池の中を ふわふわするの」


 カエルも、楽しそうに言いました。


 コイのおばさんは、困ったように言いました。


「でも お魚に食べられてしまうわよ?」


 やっぱり困った顔をした、コイのおばさんの言葉に、コガメとカエルはかんがえました。


「それじゃあ 大きくなったら……」




 ある晴れた、のどかな日。


 コガメとカエルは、かんがえます。


 あれもいいね。


 これもいいね。


 なんだってなれるんだ。と、コガメとカエルの夢は、大きく大きくふくらみました。



読んで下さって、大変ありがとうございました。

今日より明日の精神で、執筆向上を願いながら、今後も精進していきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 分かりやすく親しみやすい。 行間が読みやすい [気になる点] 見つかりません。 [一言] 楽しませていただきました。ありがとうございます。
[一言]  依頼を受けてやってまいました、でん助です。  童話……絵本にしたい。そんな感じですね。  ツッコミを一つ。  カエルとコガメが大きくなったら、ですよね。カエルは大人に分類されるのでは? …
2008/04/29 14:52 退会済み
管理
[一言] うーわー、かわいいですね! 微笑ましいです。いろんなものを見て、いろんなことを考えて、夢見るんだろうなと、なんだか気持ちがほんわかしました。子どもに読ませたい>< テンポも良くて、声に出して…
感想一覧
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