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2.温かいポトフと兄妹



おんぼろアパートの扉を乱暴に開けば、中からこじんまりとした光が漏れていて、そしてすぐにパタパタと足音が近づいてきた。

その間に靴を脱いでしまう。


「お兄ちゃんっ、」


どしっと強い衝撃。

時々分からなくなりそうになるが、タックルではない。

確かにハグをされているのである。


「ごめん、ごめんな、緑里。

一人で寂しかったろ」


「無事で、よかった…! し、心配したの!」


「ほんとごめんな、忙しくて連絡もできなくて」


「うん、うん…」


顔を俺の胸に押し付けて、未だに見せてはくれない。

緑里は外では大人しいが、家の中では甘えん坊だ。

そんな緑里が可愛くて可愛くて。

小さい頃はあんなに憎たらしかったというのに、人生とは何が起こるのか分からないもんだ。


「緑里、ごめんな。飯は食ったか?」


「ううん、一緒に食べようと思って…」


「そっか、そっか!なら今から食べようぜ!

そうだ、今日はお兄ちゃんが用意してやるから緑里は座っとけ、な?」


「えへへっ、うん!」


そう言って、ようやく可愛い顔を見せてくれた。

ああ、なんて良い子なんだろう。

もっと怒ってもいいのに。



松野家は所謂母子家庭だった。

子供は俺と緑里の二人だけで、この家では俺だけが男なんだからしっかり二人を守ってやらないと、というのが父さんが死んでからいつも頭の中にあることだった。

母さんは看護師をしていて、日勤や休みだと会えるが、最近になって準夜勤や夜勤が多く会えない日々が続いていた。


「今日母さんは?」


手洗いうがいをして、スウェットに着替えると、それだけで解放感。帰ってきたんだなあ、って。


「お仕事だって。準夜だからって、今日のご飯作ってくれたの」


「へえ、母さんのご飯って久々だなあ」


どうやら晩御飯はポトフとグラタンのようだ。

どちらも小さい頃からの緑里の大好物で、なんだか胸が温かくなってくる。

それらを温めたり、パンを切ったりしていると、やることがないらしい緑里はニコニコと頬杖をついて俺を見ていた。


いつもの松野家では大抵ご飯を作るのは緑里だった。

いつからか、と言われると分からないけど、お手伝いから始まり、いつの間にか母さんとバトンタッチをしていた。

そして今では母さんと俺は外で働き、緑里は家のことをするスタンスが定着している。

勿論時間があれば俺も手伝うようにはしているし、買い物は出来るだけ付いていって荷物持ちを買って出ている。

それでもやっぱり高校生の緑里が家のことで縛られているのが、すごく心苦しかった。


「緑里、最近学校はどうだ?楽しいか?」


「うん、今日は絵里ちゃんと楓ちゃんにお祝いしてもらったの」


「そっか、そっか。よかったなあ!」


こういうことを聞くと、やっぱり安心する。

なんせ緑里は大人しいし、あまり遊びにも行かないもんだから。

たまには絵里ちゃんと楓ちゃんとも遊ばせてやりたいなあ。


「そうだ、緑里、今日はお兄ちゃん、とっておきのプレゼント用意したんだ」


「え!なになに?…あ、でもケーキ食べるまで我慢する!」


「あははっ、うん、楽しみにしとけな」


温かいポトフ。

温かい家。

温かい家族に笑顔。

ああ、幸せだ。


そう、思えた。





閲覧ありがとうございました!


20150223  夏野 五朗




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