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14・とても可憐な、


何度も繰り返すようで悪いが、俺は文系である。

自分が文系だと意識し始めたのは、数ヵ月前、5月くらいのことだ。

正直それまでは数学は得意科目だと思っていた。

それがどういうわけか、俺はついに壁にぶち当たり、数学ができないイコール文系という単純思考で自らを文系と称するようになったのだ。

元々頭の出来は良いほうだと思う。

そのおかげで奨学金も無利子で借りれているし、バイトの許可も降りた。勉強だってやり始めると、結構楽しい。

そんな自信を打ち砕いてくれたのが数Bである。

夏休み明けのテストが返却され、誰にも見られないようそっと点数を見たら、よ、46点だったのだ。

いくら全体平均が38点だとしても、これはまずい。

人生の中で50点以下なんて初めてだし、前のテストと比べても明らかに成績が落ちている。


「ハァー……」


無意識の内にため息が出るのは仕方ない。

このまま成績が落ちれば、真っ先にバイトの許可は取り下げられるだろう。

そもそもバイトをしているから成績が下がるなんて思われた日には、俺の優等生としてのプライドが粉々になること間違いなしだ。


「藍ー、やばいんだけど、俺平均ギリー!」


「え、まじで。雅クラス落とされるんじゃないの?」


数学は苦手だが、何故か数学が「できる」クラスに振り分けられてしまった俺と雅は、このクラスでは成績が底辺だ。

テストごとにクラスのメンバーが変わるので、平均ギリの雅はもしかしたらクラスが分かれるかもしれない。

そんなことになったら、困るのはまず俺だ。

なんせどいつもこいつも数学ができて、先生に質問されて詰まる奴なんて俺と雅くらいなのだ。それが俺一人になるとか……、ほんっとに勘弁してほしい。

でも成績も落とせないから、クラスも変わらない。ああ、悲しきかな。


「これって実力テストだからクラス分け関係なくなかったっけ?次頑張ればなんとかなる、……と思う。たぶん」


「中間と期末でクラス分けだったっけ?どっちみち次はすげえ頑張んないとな」


「だなぁ……」


頑張ってどうにかなるなら、このテスト前日に徹夜した頑張りも実ってほしかったな、なんて心の中でつけ足しながら、教室に戻る準備をする。

雅はもう準備を終えてるらしい。

この学校では移動するときに鞄ごと持って行くので、教科書と筆箱を持って歩くということはしない。

なんでも防犯意識らしい。

一昨年、教室に置いていた鞄からハンカチやその他私物が盗まれる事件が度々起こったらしい。

ハンカチなんて盗む奴いるのかなと思ったけど、盗まれたのは今の3年だからちょっと納得してしまう。

赤川先輩とあの金髪先輩の人気は凄まじい。

俺らが入学して、テツや雅にも人気が分散したものの、今尚その人気が衰えることを知らない。


「あ、そいや今日の昼購買行きたい」


「弁当忘れたのか?」


「んや、持ってる」


「?」


「サンゴちゃんに、なんか貢ごうかなぁー…と思いまして」


「あー、そういや喧嘩してたな。あれ何が原因なの?」


その時、だった。


「実はさー、サンゴちゃんと話してたときに……」


結局サンゴと雅が喧嘩した原因は分からなかった。

だってそれどころじゃなくて、聞いてなかったから。


ふわり、と風に運ばれてやってきた甘い香り。

その主を探すと、それはそれは俺の好みどんぴしゃな非常に可憐な少女がいた。

黒い柔らかそうな髪は胸まで伸びていて、毛先がクルンとカールしていた。

真っ白の肌に血色のいい唇が映えて、とても綺麗だと思った。

細められた目と両頬にできたえくぼ。


「どうしよう……、すごい好みなんだけど」


あんな俺の理想を現実に写したような女の子が存在するとは思わなかった。

あとあれでもう少し胸があったら、もう何も言わない。

俺の視線に気づいたらしい雅が呟いた。


「あ、テッペー」


「、え」


スッと少女から少女の話し相手へと視線を写してみた。

そこにはすっかり男らしくなったテツが控えめに笑っている姿があった。


(すごく、久しぶりに見た、かも)


じわり、とまた苦い気持ちが胸いっぱいに広がる。

あの最後に言葉を交わしたときの、涙はもうない。当然のことだ。

でも、だけど。


(俺の中のテツはあそこでずっと止まってたのに、な……)


テツが大人になることはなんら不思議ではない。

寧ろ自然なことと言えるだろう。

小さい頃は自分達がずっと一緒だと信じて疑わなかったし、ましてや同じ学校にいるのに話すこともなくなっているとは思いもしなかった。

だからだろうか。昔より成長したテツに会うのは、とても変に感じた。


「最近テッペーって、美桜ちゃんとよく一緒にいるよねー」


「……ミオ?」


どこかで聞いたことある名前だと引っ掛かった割に、誰だか思い出せない。

あっれ……、誰だっけ?


「ほら!さっき話してたじゃん!あれが転校生の絵筆 美桜ちゃんだよ!」


「えふで?」


あれ、えふでって、あの絵と筆?




お久しぶりです。

今日から1週間毎日夜9時に更新させていただく予定です。

前に書いた更新用の話が面白くなくて、書き直しをしようと思い至るまで長い時間を要してしまいました。

半年も更新止めててすみませんでした。

またお付き合いしていただけると嬉しいです。



20160319

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