10. 決められた世界
ガヤガヤとうるさい廊下を歩く。
話すなら自分の教室で話せばいいのに、廊下で立ち止まるもんだから歩きにくくて仕方ない。
はぁ、と何度目かの溜め息を漏らす。
だって、この世界は―――――――……
「お兄ちゃん、私、やっぱりここはゲームの世界だと思う」
「ゲームって…、何のゲームだよ?
モンスターも襲ってこねーし、作物も育ててねーよ?」
「うん、だからね、」
緑里の言うことをまとめると、この世界は「パレットde恋しよっ~カラフルレボリューション~」略してパレ恋、というゲームの世界観と完一致していると言うのだ。
それは前世にあった乙女ゲームであり、緑里に言わせるとクソゲーだそうで。
どうやら緑里は前世では高校生の時に吹奏楽部の先輩に勧められて乙女ゲームにどっぷりハマったらしい。
高校生活も残りわずかとなったところで仲の良い友人に教えてもらったのがこのゲームだそうだ。
緑里は黒島 哲平というキャラクターの容姿が好みだったらしく、順調に攻略を進めていったらしい。
ただ黒島 哲平には深い深い心の闇があって、それがあの恐ろしい中2の冬の出来事だという。
夏休みも終えて、二学期に突入した頃、ヒロイン、つまりプレイヤーは黒島 哲平の心の闇のワケを知る。
それが「愛の証明」イベントだそうだ。
正直信じられなかった。
恋愛シミュレーションゲーム。
知らないわけではなかったけど、やったことはなかったし、そもそもこの世界がそんなものであるとも思えなかった。
しかも、だ。
俺には重要な役割があって、それを半分以上こなしているという現実が辛かった。
その役割というのが、テツの親友であったということ、テツを傷つけ孤立化させること、更には「愛の証明」が始まると―――俺は殺されるということ。
あんまりだと思った。
あんなに仲が良くて相性が良かったのもゲームの設定で、しかも殺されるだなんて。
一つ言うなれば、俺はテツを孤立させたかったわけじゃない。
結果としてそうなったというだけで。
「藍ー!!」
憂うつな俺に元気よく走って駆け寄ってきたのは雅だった。
「おはよっ!お前、昨日どうしたんだよ?休んだりしてさー!」
「あー…、体調悪くて」
「えー、大丈夫かよ?なんかまだ顔色悪いぞ?」
「ん、平気。ありがとな」
いい奴だとは思ってたけど、コイツも攻略対象者とかいう奴で、俺と仲良くなったのもゲームの設定なんだと思うとやるせなかった。
「愛の証明」
秘密を打ち明けられたヒロインは、証明するのだ。
あなたのためならなんでもできる、と。
その証明の手段が俺を殺すことなのだという。
このゲームのヒロインはメンヘラだか、ヤンデレだかなんだかであるということが、緑里に言わせるところのクソゲーなのだそうだ。
あんなに、あんなに仲が良かったのに。
壊したのは、俺だとしても、俺たちは親友だったのに。
俺を殺した奴を愛すのか。
俺を殺すことが愛なのか。
なあ、テツ、俺のこと、そんなに嫌いなのかよ…。
泣きたかった。考えれば考えるほど泣きたくなった。
でも、緑里の前では泣きたくなかった。
あの小さな家じゃどこで泣いたってバレてしまう。
だから、泣かなかった。だけど本当は、泣きたかった。
俺の生きている世界は、全て設定がある。
今ある感情も含め、全部誰かが作った誰かのための娯楽だ。
閲覧ありがとうございます!
記念すべき10話目!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
そして本当の展開がのろまですね…。
ランランとテッペーの接触もそろそろでしょうか。
どういうわけか、段々シリアスっぽくなってきてますが、ランランはとっても楽観的なヘタレなので、もうしばらくしたら明るくなっていきます!
なんだかんだでランランはテッペー大好きなので、今はしょんぼりさせてあげてください。
次回の更新は、ごめんなさい。未定です。
できるだけ早く更新します。
ではでは、ここ連日本棚の更新順の上の方にて失礼しました!
20150510 夏野 五朗