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出会い

微睡みの中に俺は居た。上も下もわからない、無重力状態にいるような感じ。…ん?手に、微かな違和感。

ふと目を開けると、手を握っていた。両の手に。握っている高さから、相手は両親だと確信する。

暖かく、いつまでも俺を見守ってくれるその手…。あれ……?

でも、おかしい…。確か、俺の両親は…。


「んぅ……?」


身を起こすと、俺は道路に寝転んでいた。


「夢…か…?」


何で俺は道路で寝てたんだ…?確か昨日もいつも通りに…

そこで、俺は周囲の異常さに気付く。


「え…えぇ!?」


本来あるべきものが、そこには無かった。5m程先には、黒い、只黒い地面が広がっていた。

そして、そこが地面ではなく、穴だということにも気付く。


「道が…無い!?」


声に出してみると、途端に現実味がなくなってくる。ここはどこだ!?ここも夢なのか!?


「お~い!そこの人~!!危ないよ~!」


後ろからの声。慌てて振り向くと、そこには、地面が広がっていた。

正確に言うならば、土地、建物、学校。目の前にあるのは、学校の校門だった。


【光正学院】


立派な校札には、そう印されている。


「あれ?もしかして、新入り?」


長いポニーテールを揺らし、自分の肩ほどの背丈の女の子は小首を傾げた。


「え~と、とりあえず、ここはどこだ?」

「そっか!ホントに新入りなんだね!」

「ちょ、ちょっと!手を引っ張んなって!」

「まぁまぁ、いいからいいから~」


有無を言わさず女の子は引っ張っていく。

…何なんだ?この子は。何処に連れていく気だ?


「自己紹介するね!」


引っ張りながら、女の子は勢い良く後ろを振り向いた。


「アタシは初蘭(ういらん) (つむぎ)!アナタは?」

「あ、あぁ。俺は刻峰(きざみね) 皇太(こうた)だ」

「皇太くん!ヨロシクね~」


引っ張っている手をブンブンと振る。


「あぁ、ヨロシク。ってちょっと待て」

「うん?」

「さっきの俺の質問に答えろ。ここはどこだ?アンタは何者だ?」

「質問が増えてるよ~」

「いいから、教えてくれ!」


引っ張る手を振りほどくと、初蘭はわざとらしく溜め息を吐き、自分の胸ポケットを指差した。


「自分の、覗いて見てよ」


言われた通り自分の胸ポケットを覗こうとして、初めて自分の全身を見た。


「な……何だ?こんな制服……知らねぇぞ…?俺の学校の制服でもないし…」

「うん?自分の恰好にも気付いてなかった?」

「あ、あぁ」


驚いていると、初蘭はトコトコと近付いてきて、俺の顔を見上げてきた。

うわっ、よく見たらかなり可愛い…!じゃなくて!


「な…何?」

「ホイ」


ひょいっと俺の胸ポケットから、何やら手帳のようなものを拾い上げた。


「何だ?それ。手帳?」

「そっ!生徒手帳だよ」

「生徒手帳?」


手渡してきた手帳を見てみると、確かに、光正学院生徒手帳と印されている。


「読んでみ」


言われた通り、生徒手帳を開いてみた。


『光正学院生徒手帳』

【第0条】これから記述されることは、何があろうと遵守されなければならない。

【第1条】光正学院に来た者は、罪を懺悔し、この学院を去らなければならない。

【第2条】光正学院で新たな罪を犯した場合、2度と元の世界に戻ることは出来ない。

【第3条】光正学院に来る者は、自分が犯した罪に関する記憶を失っているため、記憶を取り戻してからしかこの学院を去ることを認めない。

【第4条】元の世界に戻る際、いかなるものも光正学院から持ち出すことは出来ない。

【第5条】光正学院に最後の1人として残った者は、光正学院の生徒会長として次の生徒を集めなければならない。

【第6条】光正学院に来る者の罪の基準は、生徒会長の意志に委ねられなければならない。


「何…だよ…これ…?」

「この学園の掟だよ。正確には、この世界の」

「この…世界?」

「そっ!皇太君だって見たよね?あの黒い穴」

「あ…あぁ…」

「あの穴はね、この学園を円で描くように取り囲んでいるの。ちなみに、穴の底は無尽蔵に長くて、向こう岸は未だに発見出来ていないのです!」

「つまり……?」

「この学園はアタシ達の居た世界から切り離されてるんだよ。帰る方法も、今のところわからない」

「この…生徒手帳に書かれてある方法は?」

「う~ん…。皆、罪って言われてもピンとこないからね。それも生徒手帳通りだったら納得だけど」

「罪を…犯している?」


途端、言い知れぬ不安がのし掛かってきた。

何で自分がここにいるのか、確かに、自分にはその記憶が無い。


「イタズラじゃあ…ないよな?」

「ここまで手の込んだイタズラ、ましてや記憶を消し去るなんて、出来る訳無いと思うな~」

「じゃあ…この生徒手帳に書いてあることは…?」

「全部ホントだと思うよ」


あっけらかんという初蘭。その姿に、俺は少しイラついた。


「どうして、そんなに気楽なんだ?」

「うん?」

「いや、だって、こんな事態になったら焦るだろ!?どうして取り乱したりしないんだ!?」

「う~ん…。一つ目は、アタシがここに来たのは一週間前だから」

「二つ目は?」

「焦ってもどうにもならないことがわかったから。んで三つ目が、楽しいから!」

「た…楽しい……?この世界が…?」

「うん!楽しいよ~」


初蘭は嘘を吐いている様には見えない。故に、自分には理解出来なかった。


「何でだ?どう考えても、元居た世界に帰りたいと思うのが普通だろ?」

「…普通?」


瞬間、初蘭の大きな目が射ぬかんばかりに鋭さを帯びた。


「普通…なのかな?」


な…何だ?いきなり、態度が変わった…?


「いや…、普通って訳でもない…か?」

「だよね!」


一転して向日葵の様な笑顔を見せる初蘭。先程までの刺すような視線は消え去っていた。

…本当に、何なんだ?


「さぁ!着いたよ!」

「着いたって…どこに?」


扉の上には、【校長室】と書かれたプレートが掛かっていた。


「この世界の住人。アタシと皇太君を入れた7人の根城だよ!」


バァン!と勢い良く扉を開けて宣言した瞬間に


「遅ぉい!!」


…黒板消しが、飛んで来た。


「へぶっ!」


見事に初蘭の頭に当たり、辺りに白い粉が舞う。


「新入り一人連れてくるのに、一体何分かかってんのよ!?」


黒板消しを投げた手を引っ込め、憮然とした態度で此方を睨み付ける少女。

切れ長の目に腰まで伸ばした髪は、凛とした印象を与えるのには十分だった。


「ちょ、おい!」

「何よ?」

「何も黒板消しを投げることは無ぇだろ」

「何よ、文句あるっての?」


ズイッと体を前に出し、腰に手を当てる少女。


「大ありだ。何もわからない俺に、この世界の事を丁寧に教えてくれてたんだ。別に、無駄な時間を過ごしていた訳じゃない」

「だったら無駄よ。その為に、皆を集めて自己紹介をさせようとしてたんだから」

「…自己紹介?」

「えぇ。混乱してるのが殆どだから、この世界の説明がてら、皆に顔と名前を覚えてもらう意味でも丁度いいから」

「でもでも、アタシが殆ど説明しちゃったよ?」


額を撫でながら、初蘭は黒板消しを投げつけた本人と俺を交互に見ながら顔色を伺う。


「だからこんなに苛ついてるんだよ。察してやれよ」


来客用のソファにダルそうに寝そべりながら、此方を見上げる人物が居た。

歳は自分と同じくらい、呆れたように初蘭を見ている。

自ら説明をしてくれるあたり、気だるそうにしていながら人が良い好青年といった印象だ。


五月蝿うるさいわよ、弘前」


睨まれ、弘前と呼ばれた男は肩を竦めてみせた後、立ち上がり、柔軟体操をしながら口を開いた。


「じゃあよ、工藤、どこまで話したか確認する必要があるんじゃないか?」


工藤と呼ばれたのは、例の黒板消しの少女。


「それもそうね。初蘭、周りの黒い穴は?」

「話したよ~」

「生徒手帳は?」

「同じく」

「罪の事も?」

「以下同文」

「3サイズは?」

「上から83-57-80ってえぇ!?」


ババッ!と体を隠す初蘭。横槍を入れたのは弘前だ。


「ほうほう、実に健全に育ってまグォブッ!?」


工藤による渾身の一撃が、鳩尾に食い込んだ。


「次、そういう冗談を言ったら、男としての機能を果たせなくするわよ」


虫けらを見る目付きだ。というか、本人にはその忠告が聞こえているのだろうか?

…なんか、白眼剥いてますが。


「く、工藤さん!乱暴は駄目だよ~!」

「ふん、この男のせいよ。アンタも!」


ビシッ!と俺を指差す工藤。


「覚えておきなさい!」

「へいへい」


工藤には逆らわないでおこう。見た目とは裏腹に凶暴だ。


「じゃは、自己紹介を始めるわよ。皆、テーブルの近くに集まって」


集まったのは、7人の男女。


「じゃあ、まずアタシから。どうも、初蘭紬です」


行儀良くペコリとお辞儀する初蘭。何だろう、この子は飼いたくなるような小動物的可愛さがある。

でも、もしそれを口にしてしまったら、床に転がる屍(?)と同じ運命を辿ることになるのだという事は、俺にもわかる。


「私は工藤(くどう)さあや。宜しく」


この子も黙ってれば可愛いのになぁ。

清楚な感じが十分伝わってくる容姿なのに、それをぶち壊す凶暴性を秘めてるなんて…。


「ちょっと、何で憐れみの眼差しで此方を見るの?」

「いや、神様は残酷なんだなぁと思って」

「?まぁいいわ。じゃあ、次は…」

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