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「お茶です」

「……どうも」

 竜也は卓袱台に置かれた麦茶を一口飲む。ふぅと一息ついてチラリと早苗を見る。

 竜也の勘違いでなければ、早苗は怒ってるように見えた。正面を見れば神奈子と諏訪子もなんだか苦い顔をしている気がする。

 今は夜で、天井にあるかなり昔の種類の蛍光灯が部屋を照らしてくれているのだが、早苗の周りだけ明るさが違う気がした。

「竜也さん」

「は、はい」

 必要以上にビクビクしながら竜也は早苗を見る。やっぱり何かオーラが出ている。

「ちゃんと事情、話してくれますよね?」

「そ、それはもちろん。なんですが……」

「なんです?」

「……いえ、大丈夫です、はい」

 助けを求めて神奈子たちを見るのだが二人とも見事に同じタイミングで目を逸らす。

(なんで早苗さん怒ってるの!? 俺が何かしました!?)

「借金って、どういうことなんですか? 五千万とか言ってましたけど」

「え、ええとですね……」

 何故怒ってるのか分からず、下手に動いて逆鱗に触れるのが怖くてビクビクしながら言葉を選びながら話す。

「その、一年前に両親が事故で他界しまして」

「え?」

「叔父に引き取られたんですが、その叔父がかなりの、その、ダメ人間でして。毎日のようにパチンコや競馬で金を使って、どうも闇金にまで手を出してたみたいで。……五千万もあったなんて知らなかったんですけどね」

 ハハハと竜也は乾いた笑みを浮かべるのだが他は誰も笑ってなかった。

 三人から目を逸らして話しを続ける。

「しかもそんな中でもかなり危ないところから借りたみたいで、毎日のように誰か来るし電話は鳴り止まないし叔父は知らないうちに逃げてるし。もう無理だと思って最後に神社があった所に行って学校辞めようとして出かけたら、何故かここに来たということでして……」

 静寂が訪れる。竜也としてはこれ以上何も言うこともなかった。

 チラッと神奈子と諏訪子を見ると、二人は竜也を見てなく、苦笑いを浮かべて別のところを見ている。

 その視線を追いかけると、そこには俯いて何も言わない早苗がいた。

「え、えと」

「竜也さん」

「は、はい」

 ビクビクビクゥ! と竜也は身体を震わせる。そのくらい怖かった。

 バッ! と早苗は顔を上げる。

「どうしてそれを言ってくれないんですか!?」

「ど、どうしてと言われましても」

「そもそも最後ってなんですか!? 学校辞めてどうするつもりだったんですか!?」

「こ、高校辞めて逃げるアテなんてないし、働いて返すなんてことも今の時代じゃあできませんからもう借金取り達に捕まろうかと……」

「馬鹿なんですか!? いや馬鹿です!! なんで簡単に諦めるんですか! 少しくらい足掻きましょうよ! それにその借金取り達からはここにいれば逃げられるのになんで帰ろうとしたんですか!!」

「いえ、迷惑をかけてもいけないとおも」

「これで帰られてそのまま借金取りに殺されたという話しを聞かされる方が迷惑ですよ!!」

 ゼーゼーと激しく呼吸をする早苗は麦茶を一気に飲んで一息つく。神奈子と諏訪子は二人で抱き合ってビクビクしていた。

「神奈子様、諏訪子様」

「「は、はい」」

「竜也さんをしばらく神社に住まわせてもらえませんか」

「早苗さん!?」

「別にいいわよ」

「同じく」

「そしてそんなあっさり了承するんですか!?」

「「だって竜也だし」」

 驚く竜也に対して、神奈子と諏訪子はよく分からない理屈を言ってくる。

「竜也さん」

 早苗の声に反射的にビクッ! と三人の身体が跳ねる。ギチギチと壊れかけの人形のように三人は早苗の方を向く。

「そんなに私は頼りないですか?」

「いや、頼る頼らないとかじゃなくてですね……」

「ねえ竜也」

 そこに唐突に諏訪子の声が割り込む。神奈子は何かに気づいたが、何も言わなかった。

「それとも、実は私たちといるのが辛いとか? それならそうと……」

「そんなわけないじゃないですか!」

 諏訪子の言葉を全力で否定しようとして、竜也は頭で考えることなくそのまま思った言葉を声に出してしまう。

「ここにいて辛いなんて思ったことは一度だってありません! 逆にここにいて、俺はとても幸せを感じていました! 早苗さんたちといて辛いなんて、絶対あるわけないじゃないですか!」

「じゃあここに住むことは全く嫌じゃないと」

「そりゃそうです!」

「じゃあしばらくここに住むのに異存はないと」

「もちろん! ――あれ?」

 竜也が何かおかしいことに気づいた時にはもう遅かった。

 竜也が何か言う前に諏訪子と神奈子は勢いよく立ち上がる。

「それじゃ歓迎会ということで酒宴でもしましょうか!」

「私お酒持ってくるわね。早苗は今日当番だから何かお酒に合うの作っといてね」

「え? いや、あれ?」

 竜也を無視して二人は足早に何処かへと行ってしまった。竜也は遅れて嵌められたことに気づく。

「それじゃあ私も何か作ってきますね」

「あ、はい。って、酒宴?」

 新たに疑問符を浮かべる竜也を放置して早苗は台所へ向かう。

(……竜也さんも、私と同じ気持ちだったんですね)

 早苗は上機嫌に鼻歌まで歌い始める。

(私も、竜也さんといる時が一番幸せでした)

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