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帰れない

「さあどっちが勝つか賭けようか!」

 という声がどこかから聞こえてくる。皆が声の元に行く中、竜也はぼうっとしながら地面に座って上を見ていた。

 上ではカラフルな球が飛び交っている。球はもはや壁に近いので上がどういう状況なのかを知ることが出来ない。

 早苗が蒼と名乗った男と戦い始めたのは分かる。だがルールも何も知らないので何がどうなってるのかがさっぱりだ。

「よっ、外来人」

 声をかけられて顔を前に向ける。さっきからいた白黒の魔法使いだ。

 因みに竜也は格好から判断してるだけで、この少女が魔法を使ったり極太ビームを放つとは微塵も思ってなかったりする。

「外来人って、俺のことですか?」

「ああそうだ。お前みたいに外から迷い込んで来た奴のことを、幻想郷では外来人って呼ぶんだ」

 魔法使いは竜也の隣に立って竜也の顔を見据える。

「私は霧雨魔理沙。お前は?」

「加賀竜也です」

「そうか。じゃあ竜也、ちょいと質問なんだけどさ」

 魔理沙は頭にある帽子の中からペンと紙を取り出す。どうやってしまってたかなんて分かるはずがない。

「お前はさ、どうやって幻想郷に来たんだ?」

「どうって言われましても……人について行ったら、いつの間にかとしか」

「人って、どんな奴だ?」

「紫の服に紫の髪の紫の眼をした紫尽くしの女性の方です」

「……うーん、知らない奴だな。まあ後で調べればいいとして」

 スラスラと紙に何かを書いていく。竜也は立ち上がってちらりと字を覗き込もうとすると魔理沙は紙を隠してしまった。

「じゃあさ、早苗と一緒に来たりしてたけどあいつとの関係は?」

「友達です。元の……えーと、外の世界に守矢神社がまだあった時の頃の」

「なんだ、つまらないな。なんかないのか? 外の本だとそのまま恋愛に発展するのに」

「現実にないから創作するのだと思いますよ」

 そうこう話しているの誰かが近づいてきた。大きなリュックを背負った、髪や服が青色の少女だ。よく見ると眼も青色だ。

「ちょいとちょいと。そこにお兄さん、携帯持ってない?」

「へ? あるけど……」

「貸して」

「は、はぁ」

 何に使うのか不思議に思いながらスマホを渡す。

「あれ? なんか前に見たのと違うなー?」

 何やらブツブツ言いながら少女はスマホを見ている。

「よし、バラすか」

「……はい?」

 ガシャガシャガシャガシャ!! という音と共にリュックから色々な物が出てきた。マジックハンド、鉄球、ドライバー、ドリルなどだ。

「ちょちょちょ! 何をすむぐぅ!?」

 顔面をマジックハンドで掴まれた。

「ふーん。全然分からない構造してるなあ。何だってこんなにごちゃごちゃしてるんだろう?」

 マジックハンドに顔を掴まれてよく見えないが、なんとなくスマホは消えてしまったんだと竜也は分かった。

 というより、やばい。口も鼻も塞がれて、息が出来ない。

「は、な……」

 声が掠れる。意識が深い闇へ沈んできていた。

(ほん、きでま……ずい)

 マジックハンドを離そうと掴み取る。しかしとんでもない力で、引き離すことは無理だった。

 チカチカと、闇の中で何か光るような感覚があった。必死に光りの元へ行こうとするが、動くことは出来なかった。

(う……、あ)

 光りが消え、視界が黒く染まった。


「殺す気か、クソ河童」


 ゴバッ! という音が、竜也の耳元で聞こえた。

「おわあああああ!?」

 さっきの少女の声が聞こえたが、段々小さくなっていった。

「げほっ! ふ、はぁ、」

 空気を求めて息を吸おうとする。が、身体が息を吸うことを忘れてしまったかのように上手く呼吸が出来ない。

「落ち着け。落ち着いて息を吸ってみろ」

 誰かに言われて、少しずつだが息をまともに吸えるようになってきた。

「うしっ。もう大丈夫か?」

「は、はい……」

 声のする方には男がいた。濃い紫の髪に黒マントの男性だった。

「竜也さん大丈夫ですか!?」

 早苗がいつの間にか地上に降りてきていた。遅れて蒼も降り立つ。

「あれ? 何してんだ八岐大蛇さんよ」

「くそ河童に殺されそうになってたから助けにきた。集中するのはいいがもうちと周りを見ろってんだ河童っていう種族は」

 どうも男と蒼は知り合いのようだ。

 竜也は男の方を向いて頭を下げる。

「あの、ありがとうございます。助かりました」

「いいよいいよ。どうせ俺が助けてもらうんだし。……あ、そうだ」

 思い出したように男は言う。

「竜也、今外の世界に帰るのはよしとけ」

「だからどうしてなんですか!」

 男の言葉に反応したのは早苗だ。男は何でもないことのように言う。

「借金取りに殺されんぞ。今帰ると」

「しゃ、借金取り?」

「……、」

 早苗が驚く隣で、竜也は何も言わない。

 男は構わず続ける。

「家にもいるし学校にもいるし、どこから聞いたのか神社があった場所にもいたぞ。五千万もかかればそりゃ必死にもなるだろうがな」

「ご、五千万!?」

「だから帰るのはやめとけ。……つーかこっちに住んだ方がいいな。もう頼る人もいねえんだろ?」

「…………」

「じゃあ俺は帰るわ。蒼、スキマ作れ。白玉楼にな」

「はいはい」

 トンッと蒼が地面を杖で叩く。すると地面に穴が空き、その先に大量の目のような物が見えた。

「スキマ!? それって紫の……」

「グッバイ」

 男が穴に飛び込み、蒼が入ると穴は消え、普通の地面がそこにあった。

「えーと」

 巫女が言いにくそうに、こう言った。

「一応聞いとくけど……帰るの? 帰らないの?」

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