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龍神祭の終わり

 突如現れた龍神は、現れた時と同じように突然消えた。

 雲に隠れた龍神の行き先を知る者はいない。龍神は大結界も関係無く何処へでも行く事が出来るので、追いかけることも出来ないのだ。

 ただ、龍神が去った後に幻想郷に雨が降った。

 その雨は普通の雨ではなかった。キラキラと虹色に輝く雨には、生命に活力を与える力を持っていたのだ。

 叶集女にやられた人妖たちの傷は、一刻と経たずに完治し、すぐに集女に壊された建築物を建て直す作業が始まった。

 人間だけでなく様々な妖怪たちが手を貸し、里はあっという間に元の形へと戻っていった。

 そして。



 加賀竜也は里の中を見て回っていた。

 里ではあちこちで宴会が行われていた。全体的に妖怪の比率が高いが、きっと人間たちの殆どは疲れ果てて眠っているのだろう。

 何せ妖怪たちの殆どが昼夜構わずに動けるので、人間たちもそれに付き合って動かないといけなかったのだ(妖怪たちだけに任せると、本来の予定とは違う物が出来上がる可能性があるからだ)。

 それでも疲れを吹き飛ばさんとばかりに酒を飲んでいる人たちがいるのを見て、竜也は頑丈だなぁと思いながら笑みを浮かべる。

「竜也さん」

 名前を呼ばれ、竜也は振り返る。そこには早苗が立っていた。……のだが、いつも持っているお祓い棒が酒ビンに入れ替わっているし、しかもその顔が明らかに赤い。完全にに酔っ払っている。

「早苗さん何で酒飲んでるんですか……」

「宴会は布教活動に持ってこいなんですよ。普段宴会は霊夢さんの所でやるから布教活動なんてできないので、こういう時に少しでもやっとかないといけないんです」

 とか何とか言っている間も早苗は奇妙な踊りを披露してくる。その場で意味もなくクルクルと回ったりアチョ〜とか言いながら酒ビンを掲げている。もうこれは手遅れだ。

「あー、それでは俺は用事があるのでこれで……」

「待ってください竜也さん。私も行きますよ」

「うん、とりあえず早苗さんはまっすぐ歩く所から始めよう。ね?」

「大丈夫ですよー」

 と言いながら早苗は酒ビンを放り捨て(酒ビンは綺麗に箱に入った)、そのまま両腕を竜也の左腕に巻きつけてくる。

 柔らかい物を押し当てられて竜也の心臓が大きく跳ね上がるのだが、早苗は全く気にせずに笑顔で言ってくる。

「ほら、これなら私がフラフラでも平気ですよ!」

「……早苗さーん、これ後で後悔するパターンですから、さっさとやめたほうがいいと思いますよ。その、色々当たってますし」

「当ててるんですよ言わせないでくださいよ恥ずかしい。それに竜也さんだからやってるんですし」

「……これって信用されてると取るべきなのか、男として見られてないと取るべきなのか……」

 色々と考えていた竜也だが、早苗が腕を引っ張りだしたので仕方なく付いていく。ちょうどそろそろ周りの視線に竜也も耐えられなくなってきたし。

 歩きながら竜也は周りを見回し、ポツリと呟く。

「……なーんで二週間そこらであれだけ派手に壊されてた家が直るんでしょうね。手伝っててもよく分かりませんでしたし」

「妖怪の建築技術は凄いですからね。特に鬼の、というか萃香さんが頑張ってましたから」

「半分くらいはあの人が直してますからね。あのちっこい体の何処にあんな馬鹿力があるのか……」

「竜也さーん、頭にブーメラン刺さってますよー?」

 そんな他愛のない会話をしながら歩き、竜也たちは目的の場所に到着する。

 建物の中に入り、挨拶をするとすぐに店の人がやってくる。気前の良さそうな男は竜也の顔を見るなりすぐに引っ込んで行き、少しして戻ってくる。

「ったく、お前が初めてだぞこんなもん首かざりに加工しろなんて言ったの。馬鹿みたいに硬いし、何の鱗なんだこれ」

「いやまあ、蛇的な生物が落としたやつですよ」

 竜也は曖昧に答えながら男から首かざりを受け取る。

 翠色の鱗だった。触っても怪我しないように角は丸く削られていて、鱗に穴を空けてそこに紐を通した、飾り気のないシンプルな物に仕上がっていた。

 もちろん、この鱗は蛇のものではない。

 龍神の鱗だ。

 何でこれがあるのか、竜也は知らない。ただ気づいたら竜也はこれを握っていて、何故かこれが龍神の鱗だと竜也は分かった。

 神奈子たちに相談をしてみると、二人は龍神からの贈り物ではないかと言う。龍神が人間に自分の体の一部を渡すなんて聞いたことないが、龍神の力を持つことができた人間に興味があったのではないかと神奈子たちは言っていた。

 本当のところどうなのかは知る由もないが、捨てたりするのもどうかと思うので竜也はそのまま持ち続けていた。

 だがポケットに入れてて落としても困るので、こうして首かざりに加工してもらったのだ。

「それでは代金は約束通り」

「わーてるよ賭けに負けた俺が悪いからな! あーもう、これ削るのに石が三つも駄目になっちまったし……」

 文句を言いながらも笑う男にお礼を言い、竜也は店から出る。

 店の外に出ると早苗が店の方を振り向きながら竜也に聞いてくる。

「賭けってなんですか?」

「チンチロリンとかいうのを遊びでやってたんですけど、その時に大勝ちしまして。勝負を無効にする代わりに店の物の好きなやつ持っていけって言われたんですよ。特に気になる物はなかったんですけど、商品の代わりにこの鱗を加工してくださいって言ったら快く引き受けてくれました」

「なるほど」

 竜也は鱗の首かざりを身につける。首かざりからは不思議と暖かさを持っていて、なんとなく元気が出てくるような気がした。

 相変わらず腕を回したままの早苗は、更に竜也に体をくっ付けてくる。

「早苗さん?」

「……生きてますよね?」

「? そりゃもちろんそうですけど……」

「……そうですか」

 一人納得している早苗だが、竜也は意味がわからず困惑してしまう。どういう意味なのかを聞こうとしたのだが、それよりも早く早苗が口を開いた。

「……あの時」

「え?」

「集女さんに私の策が通じなかった時、死んだと思いました」

 竜也の腕を強く自分の胸に引き寄せながら、早苗は呟く。

「そう思った時、私はこう思ったんです。『ああ、自分の気持ち、ちゃんと口にすれば良かったな』て」

「気持ち、ですか?」

「……はい」

 早苗はそこまで言うと顔を伏せる。その顔が赤いのは、酒のせいか、もっと別の何かか。

 竜也が何も言わずに黙っていると、やがて意を決したように早苗は顔を上げた。

「竜也さん!」

「は、はい」

「わ、私東風谷早苗はですね! 竜也さんのことが――」

「いや、何をやろうとしてんのよあんたは」

 横合いから、声がかけられた。

 竜也と早苗が完璧に同じ速度で横に向くと、そこには霊夢が立っていた。その顔は赤いが、明らかに酔いによるものではない。

「いや、あんたの言いかけたことは大体分かるんだけどさ、……もうちょっと周り見なさいよ。こんな所で何言いかけてんのよあんたは」

「……あ」

 今更のように、早苗は周りを見回した。早苗たちがいたのは里の広場近く、つまり人が沢山いる場所だ。しかも二人は何処かに隠れていたわけでもなく、道のど真ん中に立っている。

 直後、ボンッ! と爆発にも似た音と共に早苗の頭部が真っ赤に染まった。顔がというか、耳まで真っ赤だ。

「ああああのあのあのあのですね! 私は別にそんないやこんな場所で!!」

「早苗さーん?」

「あーそうだ神奈子様たちの所に行かなければ行きましょう竜也さんすぐにホラ!」

「え、ちょなんですかほんとに!?」

 竜也の手を掴んでそのまま全力疾走を始める早苗。竜也はよく分からずに付いて行くが、途中で早苗が振り向いて叫ぶ。

「竜也さん!」

「なんですか?」

「至らない所もあると思います! 意見が食い違うことも、喧嘩することだってあると思います!」

 それでも、と早苗は続ける。

「これからもずっと、私たちと一緒にいてくれますか?」

「…………」

 早苗の問いに、竜也は少し笑った。

 何を今更、と竜也は思う。

 そんなこと、

「――当たり前です!」

 こちらからお願いしたいほどなのだから。

今回で『東方龍神祭』は終わりです。馬鹿みたいな文を最後まで見てくれている人はありがとうございます。

次の物語は作ってる他の作品が済んでからになります。私の存在は忘れて、東方の小説を探した時に見かけたら読んでくれたら嬉しいです。

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