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お酒

「いや、私はちゃんと消したよ? 確認も二回はやったし」

 大きなしめ縄を背中に付けた女性、八坂神奈子は諏訪子に向かってそう言った。

 辺りはもう暗くなり、外の世界では考えられないほど夜空で星々が輝いている。

 早苗はいま入浴中で、竜也は鉛筆と紙をもらって神社を描いている。夜の神社を描いたことがないから描いておきたいらしい。

「じゃあ誰かが神奈子が消した後すぐに記憶を戻したとでも? 何のために?」

「私に聞かれてもねぇ。そもそも竜也はどうやって幻想郷に来たんだい?」

「紫の髪の紫の服の紫の眼の綺麗な人について行ったらだって言ってたわ。……あの人だよね?」

「あの人でしょう。そこまで紫尽くしの人は他に考えられないし」

 はあ、と二人はため息を吐く。そして何もない空間に向かって話しかける。

「そんな簡単に結界を越えられていいのかしら?」

「とりあえずこっち来てくれない? 八雲紫」

 ズズッと空間が縦に裂け、眼のような形を作る。そこから人が現れると穴は消え去った。

「こんばんは」

 その人物を見て、二人は尋ねる。

「「……だれ?」」



「それでは行きましょうか」

 そう言って早苗はブツブツと何かを呟く。するとふわりと早苗は宙を浮く。

「それじゃあ次は竜也さんに……なんで顔背けてるんですか?」

「いや、その」

 竜也は全力で明後日の方を見たまま答える。

「スカートの中が見えそうになってるので、とりあえず一旦降りてくれたら助かるのですが……」

「別にズボン履いてますから平気です」

 そう言った後ブツブツと呟く。ふわりと竜也の身体が宙に浮く。

「っとと。ズボン履いてても脚を露出するのに変わりはないんですから少しは気にしてください」

「あー、幻想郷で知り合った人たちは皆女性の方なのでそこらの感覚が鈍くなってるんですかね? とりあえず行きましょうか」

 竜也の事を考慮してか、飛行の速度はゆっくりとしていた。

 竜也は下を見て怖くなり、気分を変えるために早苗に話しかける。

「早苗さん、これから何処に行くんですか?」

「博麗神社へ。そこに竜也さんを外に帰すことができる人がいます。―――あれ?」

「え、どうしたんですか?急に落ちたりしませんよね?よね?」

「いえ、黒い塔がなくなってるだけで……。なら絶対霊夢さん絶対神社にいますね。けど特に弾幕ごっこが行われた感じはしなかったんだけな……」

 知らない単語を並べて喋る早苗に対して竜也は黙ることしかできない。適当に景色を見ようとしてやっぱり怖いのでやめた。

(けどよかったな。早苗さん達がちゃんと存在していて。こっちで元気にしてるみたいだし……)

「……ん?」

 遠くの方に白、というよりピンク色の木が見えた。桜だ。

(あれ? でももう桜なんて散り終わった季節じゃ……あ、そうか。こっちは温暖化の影響を受けてないから桜がそんな早く咲かないのか)

 さらにその向こうに神社が見えた。どうも宴会か何かをしているらしい。

「早苗さん、あれがさっき言った博麗神社ですか?」

「え? えーと、多分そうです。というかよく見えますね」

「目は良い方な」

 んで、と最後まで言うことは出来なかった。

 何故なら、ゴッ!! という音と共に高速で誰かが竜也と早苗の横を通り過ぎたからだ。

 誰かが通り過ぎた後、数秒遅れて声がやってくる。

「確かに速い方ですが、幻想郷一の速さを持つ私には届きませんよ!」

「待ちやがれゴラァ! 待たんと唐揚げにして食うぞ!」

 声の主はもういない。竜也に見えたのは少女を少年が追いかけてるところのみだ。どんな顔だったかなんて分かるはずがない。

「さあ、もう神社に着きますよ」

「今のスルーですか!? もう少しリアクションあってもいいと思いますが!?」

「何かおかしいことありましたか?」

 どうも素で言ってるらしい早苗を見て竜也は頭を抱えるしかない。

(あれ? 俺なの? 俺が変なの??)

「皆さんこんにちはー」

 そうこうしてると地面に着地していた。

 顔を上げると場違い感が半端なかった。美少女達の中に男が一人放り込まれても困るのだ。

 少女達はちらっと早苗と竜也を見るがすぐにお酒を飲み始める。

「ってこら未成年! 見た目で判断するのは悪いですが殆どの人が未成年じゃないですか!!」

「は?」

「ああ、なんか外の世界じゃあ二十歳にならないとお酒飲んじゃいけないんだって」

「なんでだ? てか誰から聞いたんだ?」

「外来人から。あと理由なんて知らないわよ。興味ないし」

 紅白の巫女と白黒魔法使いがそんな会話をする。竜也はその二人に近づく。

「未成熟な身体がアルコールを摂取してもアセトアルデヒドの毒性を中和する力が弱くて臓器に悪影響を与えるんです! 早死にしますよ⁉︎」

「大丈夫よ。お酒は昔から神聖な物だから」

「寿命なんて気にしてたら魔法使いになれないぜ」

「神聖な物だとしても肉体的にはアウトです! あと寿命がどうとかは老後に後悔するパターンですからね!?」

 ビッ! と顔を真っ赤にした幽霊に倒れこむ少女を指差しながら竜也は続ける。

「顔真っ赤にして倒れるほど飲むなんてもっての他です! 娯楽禁止とは言いませんが何事も程々ですからね!!」

「……いや、あれは違うけどね」

「酒は関係ないな」

「あの、竜也さん。別に私たち未成年の飲酒についての講義をしに来たわけじゃないんでそろそろ……」

 グイグイと腕を引っ張られて無理やり後ろに回される。竜也はまだ言いたそうだったが、黙っていた。

「で、そいつ誰? どっかから神様でも連れてきたの?」

「えっとですね……」

 少し間をおいて、早苗は話し始める。

 その間、竜也は酒飲む少女達にずっと何か言いたそうに見ていた。

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