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名も無き神の暴虐

間に合わなかった……orz

 凄まじい衝撃が走った。

 頭を直接殴られたような痛みがし、バランスを保てずに殆どの人が倒れる。

 だが、逆に言えばそれだけだ。

 滅べなどという言葉と共に放たれた一撃は、その程度の被害しか与えていなかった。

「…………」

 隣の早苗を支えながら、竜也は空を見上げる。

 里を守るかのように、ドーム状の青白い光が現れていた。おそらく結界だろうと、竜也は推測する。

 結界の外、里の上空に女性は立っていた。女性と対峙するように、元と紫色の服を着た金髪の少女が浮いていた。

「……、」

「――。」

 対峙する彼女たちは何かを話しているが、ここからでは何を話しているのかが聞こえない。

 元が刀を引き抜いて構えるのと同時に、金髪の少女の姿が消える。瞬間移動でもしたのか、少女はいつの間にか結界の内部に入り込んできていた。

「ちょっと紫! いったい状況なのよ!?」

「……霊夢、結界を張りなさい」

「は? あのねぇ、何かやって欲しいなら説明くらいやってくれない?」

「悪いけどそれどころじゃないの。……このままだと貴方も私も、いや、里の人たち全員死ぬわよ」

 紫と呼ばれた少女の有無を言わさぬ強い口調に、霊夢は気圧されてしまう。渋々といった感じながらも紫に従い、霊夢は結界を張る。

「それで? これは異変かしら? だとすれば私は今すぐあそこに向かうのだけど」

「駄目よ霊夢。今の貴方ではあの場に行っても何もできない。光良のお荷物にしかならないわ」

「やけにハッキリと言うわね」

「それくらい彼女は強いということよ。私が全力を出し……」

 紫が何かを言っていたが、それをかき消すかの如く轟音が鳴り響いた。

 ベキベキバキバキッ!! という亀裂が走る音がし、直後にガラスでも割れたような甲高い音が響き渡る。空を見上げてみれば、先ほど張ったばかりの結界が破壊されていた。

「神話変更。『我、神々の長にして黄金の槍を振るう者なり』」

 女性の声が聞こえた直後、圧倒的な光が視界を埋め尽くした。

 圧倒的な光の源は、女性が持つ槍だ。黄金の槍は太陽の光に照らされ、太陽の光をさら強くして周りへと放っていた。

「くそ!」

 元が悪態をついたのと同時、女性の手元から槍が消え、気づいた時には元に黄金の槍が刺さっていた。

「神話変更。『我、八百万の頂点にして太陽を司りし者なり』」

 女性の声が響いた時には、レーザー光線が元の体を貫いていた。元の体から煙が上がる。

 それでも倒れない元を不満そうに女性は見ていた。

「あらあら、頑張るわね蛇さん。私に勝てるだなんて幻想を吐いただけはあるわ」

「……うる、せぇ」

 元は血反吐を吐きながら、それでも気丈に女性に向けて刀を向ける。

「こっちだってやりたいことあるんだ。それがテメエみたいな奴に台無しにされてたまるか」

「じゃあ貴方の『願い』も叶えてあげる」

 女性は、平然とそんな言葉を口にした。

 まるで、そうすることが自分のすべきことだと、本気で思っているかのように。

「貴方の『願い』も、そこの人たちの『願い』も、みーんな叶えてあげる」

 だけど、と女性は付け加えながら右手を振り上げる。

「その前に、まず『幻想郷が滅べばいい』という願いを先に叶えましょう。――神話変更。『我は龍の神にして幻想郷の最高神なり』」

 直後、雷鳴が響き渡った。

 空は雲ひとつない晴天だというのに、雷が元の所へと落ちた。

 ふらりと、元の体が浮遊力を失い、重力に従って落下した。

 それを最後まで見届けることなく、女性は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら言う。

「さて、ちょっと遅れたけど『願い』を叶えるとしましょうか。大丈夫よ皆。痛みなんて存在しない。ただ一度だけ、肉体を失うだけだから」

 ボッ!! という音が鳴った。

 女性が何かしたのではない。女性を『敵』と見なした者たちが動いただけだ。

 里に揃っていた人妖たちがほぼ同時に強力な一撃を放つ。

 魔法、妖術、仙術と多種多様な術が放たれた中、それでも女性の表情に変化はない。

「神話変更。『万物は誓いに従い、我を傷つけることなし』」

 様々な術が女性に当たったが、どれ一つ女性を傷つけることはできていない。女性は笑みを浮かべたまま全ての術を受け切った。

 狼狽え、攻撃の間隔が空いた瞬間、女性は歌うように言う。

「神話変更。『我が右側に立つ天使は魔なる者を滅すため右手を振るう』」



「……何なんですか、これ」

 空を見上げながら、早苗は呆然と呟いた。

 空では女性が人妖たちを一方的に蹂躙していた。吹雪が吹き荒れ、雷が落ち、炎が燃え上がっていた。

 その中の幾つかは人妖側からの攻撃の筈なのだが、女性は笑みを崩すことなく全て蹴散らしていた。

 見ていれば分かるのだが、女性はその場の状況に応じて神話そのものを歪め、全く異なる力を行使していた。

 神が神話を変える、などといったこと自体は珍しくない。神奈子だって元は風雨の神だったのに山の神に変わっているくらいだ。神話を変え、司るものを変えることはよくあることなのだ。

 問題はその速さだ。神話を変えたら信仰が溜まるまで暫くはろくに力が使えない筈なのだ。何故なら神話を変えるということは、今までの自分を変えることと同意義なのだから。

 なのに女性にはそれがない。神話をその場で変え、自由自在に神の力を行使している。明らかに普通ではなく、異常だった。

「……どうするんですかこれ」

「どうもこうもないよ」

 神奈子は空を見上げながらそう言い、諏訪子に視線をやる。

「……早苗、貴方は知ってるよね? 妖怪の山の中に外の世界に通じる道があるのを」

「……神奈子様? いったい何を……」

「逃げなさい」

 神奈子は注連縄しめなわを外し、体を身軽にする。

「逃げて、生き延びなさい。逃げれるだけの時間は、私たちが稼いであげるから」

「何を言っているんですか神奈子様! 私だって戦えます!」

「あれは! そもそも戦って勝てる相手じゃないの! ……あらゆる神話を扱うなんて、ふざけてるってレベルじゃない。彼女がその気になれば、おそらく一瞬で幻想郷は滅ぶ。戦おうなんて考えちゃ駄目、逃げるべきなのよ」

「神奈子様と諏訪子様はどうするつもりなんですか!? お二人を失ったら、私はどうすれば……」

「……馬鹿だねぇ早苗」

 早苗の叫びに応えたのは、神奈子ではなく諏訪子だった。

「私たちがやるのは時間稼ぎだし、そもそも私たち神霊が消えることなんてまずないのよ。だから大丈夫、貴方たちが逃げる時間くらい、余裕で稼げるわ」

 そう言うと諏訪子は帽子を早苗に押し付ける。早苗が何か言うよりも早く、諏訪子と神奈子の体が宙を浮く。

「じゃあね早苗、竜也」

「竜也、早苗のこと、……私たちの大切な『家族』、頼んだわ」

「待っ……!」

 ビュオン!! と突風が巻き上がり、思わず早苗は顔を腕で隠してしまう。その隙を狙ったかのように、二人はあっという間に女性の元へと飛んで行ってしまった。

「神奈子様! 諏訪子様!」

 早苗が追いかけようとするが、その腕を竜也が掴み、無理やり地上に止めさせる。

「放してください竜也さん! お二人が、お二人が……」

「分かってますよ! 分かってるからこそ突っ込むのは避けるべきなんですよ!」

 早苗の肩を掴み、その眼をしっかりと見ながら竜也は言う。

「何のために必死に『名前』を考えてきたと思ってるんですか。今突っ込んでも、何もできずにやられてしまうだけじゃないですか!」

「……!」

「信じましょうよ! あの二人は簡単にやられません。だから、俺たちにできることをやるんですよ! 妖怪でも神様でもない、人間の俺たちができることを!」

 この状況でありながら、竜也は早苗を安心させるために笑う。

「やりましょう早苗さん。全部終わらせるために!」

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