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祝詞

 五日目の龍神祭は、それまでとは全く雰囲気が違った。

 それまでは一日中騒がしかったのだが、この日は人妖問わず皆静かだった。

 最低限のことしか喋らず、何かをする時も殆ど音を出さないようにしていた。

「……さて、そろそろ始めましょうか」

 そんな里で、霊夢は龍神の像の前に立っていた。

 龍神の像の前には魚や野菜、肉などといった供物が置かれていて、少し離れた所で沢山の人達が祈りを捧げていた。

 霊夢が行うことが至極簡単。龍神の像の前で龍神を祀るのだ。

 祀ると言っても、龍神がここに来たことは一度もないので、殆ど形式のようなものになっている。

(……まあ、定期的にこういうことしないと、里の人達が龍神様を忘れちゃうかもしれないからねぇ)

 龍神が幻想郷に与えている影響は少なくない。雨が降るのも、河が流れるのも、豊かな緑に包まれるのも、全て龍のお陰である。

 だが、人間というのは分かりやすい力に頼る傾向がある。河が流れているのを見ても龍神の力は実感しにくいが、別の神が目の前で山や湖を作るのは分かりやすい。

 そうなると人々はその別の神へと信心を向け、龍神を忘れてしまう。もしそうなって龍神を怒らせてしまったら、幻想郷は間違いなく滅ぶだろう。

(さて、それじゃあ私も仕事しますか。……ここでちゃんと仕事しなきゃ私も里の人から忘れられかねないのよね)

 霊夢は懐からお祓い棒を取り出し、祝詞を唱える。

「高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う龍王は」

 霊夢の言葉に合わせて人間たちは瞑目し、

「大宇宙根元の御祖の御使いにして一切を産み一切を育て」

 妖怪たちも同じように瞑目した。

「萬物を御支配あらせ給う王神なれば」

 吸血鬼たちはその場をただただ面白そうに見ていた。

「一二三四五六七八九十の」

 亡霊とその従者は人間たちと同じように祈りを捧げていた。

「十種の御寶を己がすがたと変じ給いて」

 月から来た者たちは周りに合わせて祈りを捧げた。

「自在自由に天界地界人界を治め給う」

 新参者である神たちは幻想郷での先輩である龍神に敬意を捧げた。

「龍王神なるを尊み敬いて」

 地底より上がってきた妖怪たちは、懐かしく思いながら古い記憶を掘り起こし、祈りを捧げた。

「眞の六根一筋に御仕え申すことの由を受け引き給いて」

 人妖平等を掲げる寺の者たちも、この時は龍神に祈りを捧げた。

「愚かなる心の数々を戒め給いて」

 数奇な運命を持つ少年は、二度目の祈りを捧げた。

「萬物の病災をも立所に祓い清め給い」

 その身に龍神の力を持った少年は、

「…………」

「萬世界も御親のもとに治めしせめ給へと」

 ドクン、と心臓が跳ねた。

「祈願奉ることの由をきこしめして」

 いや、正確には、その身に宿る力がか。

「六根の内に念じ申す大願を成就なさしめ給へと」

 龍神の力が、祝詞に反応して、熱い鼓動のようなものを放っていた。

 隣の人に気づかれないように抑え込みながら、少年は祈りを捧げる。

「恐み恐み白す」

 祝詞が終わり、龍神の力の鼓動は収まった。

 少年が一息つきながら顔を上げ、そして気づいた。

 空に女性がいることに。

 女性は里の人たちを見下ろし、母性溢れる笑みを浮かべていた。

 女性がゆっくりと口を動かす。

「ああ、幻想に生きる者たちよ」

 囁くような声を、里の人たちは皆聞き取った。

「貴方たちの願い、私が叶えにきたわ」

 誰もが空を見上げる中、女性は片手を上げ、

「――滅びなさい」

 振り下ろした。


 直後、視界が白く染まり、音が消え去った。

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