食べろや飲めや
龍神祭、四日目。
「歌え!」
「食え!」
「飲め!」
「騒ぎまくれ!」
『おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
「……あれ? 他の日と変わらない?」
今日の龍神祭は、食べ物関係ばかりのようだ。里のあちこちで飲み比べをしたり、大食い勝負をしているらしい。
……のだが、竜也から見れば他の日と変わらないような気がする。というか里の人たちは祭の間ずっと騒いでいたので、今日はいつもと何が違うのかがさっぱり分からない。
そうこうしていると、少し離れた所が少々騒がしくなっている。気になった竜也は周りの人を避けながら近づいていく。
「な、なんだあれ!?」
「やべえ、何してるのかが見えない!」
「器だけが凄い勢いで増えていってるぞ!?」
ゾバババババババッ!! というわけのわからない音が辺りに鳴り響き、器が五メートル近くまで積み重ねられていく。
「おかわり〜♪」
「……あの、幽々子様」
「どうしたの妖夢?」
「そんな勢いで食べなくても、別に誰も取ったりしませんよ? それに時間もたっぷりありますし……」
「何言ってるの妖夢。この『椀子そば食べ放題』は一時間しかないのよ? 食べなきゃ損ってもんでしょう?」
二人が何か話している間も、どんどん器が積み重ねられていく。五メートルに積み上げられた器の塔が三つ目に突入していく。
「大丈夫よ、妖夢。今日は龍神祭。祭りの楽しみを独り占めするつもりはないわ。だから――五百程度で勘弁してあげる」
女性のその言葉に、椀子そばを作っている人たちの顔色が変わる。
「おい、応援呼んでこい!」
「動きがゴキブリみたいに速い奴いたろ! あいつ連れてこい!」
「黒ジャージの奴だな了解!」
ギャーギャーと騒ぎながら椀子そばを作り上げていく人たちを竜也がぼうっと眺めていると、その肩をちょんちょんと諏訪子が突く。
「竜也、竜也」
「あ、諏訪子さん。どうしたんですか?」
「ちょっと手伝ってくれない? こっちも猛者が来てる」
「猛者?」
竜也は諏訪子に連れられて移動する。そこには……。
「うおらぁ! 酒をもっと持ってこい!」
「鬼の飲みっぷりを舐めちゃいけないよ! この程度、腹の満たしにもなりやしない!」
「いいねいいね。久しぶりの地上でこんな美味い酒を飲めるとはね!」
三人の酒豪たちが、酒を浴びるように飲んでいた。
三人の誰かが器に入っていた酒を飲み終えると、竜也の目では捉えられない速度で誰かが酒を注いでいく。三人の近くには山椒魚に似た何かが壺の中でゆったりと泳いでいる。酒の匂いがしてくるのだが、まさか酒の中を泳いでいるのだろうか?
「見れば分かるよね?」
「……さて、お酒はどこから持って来ればいいんですか?」
「えっと、竜也には神社に戻ってもらって置いてある酒を持てるだけ貰おうかな。あ、倉庫の奥に置いてある酒は取らないでね、私たちのお楽しみ用だから」
「わかりました、急いできます」
竜也は小走りで神社へと向かっていく。小走りとはいえ、車程度の速度が出ているが、竜也が気にしている様子はない。
諏訪子も動こうとすると、酒ビンを抱えた早苗がこっちに近づいて来た。早苗は少し辺りを見回してから諏訪子に聞いてくる。
「竜也さん居ませんでしたか?」
「ん? 竜也なら神社に酒取りに行ってもらったけど、何か用事でもあった?」
「用事がある、というわけではないんですが……」
早苗は困った顔になりながら、山の方へと顔を向ける。
「竜也さん、神社への道覚えてましたっけ? いつも私が竜也さんを浮かせて一緒に来てますけど」
「……あ」