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願いの罪

 キョロキョロと、早苗は辺りを見渡していた。探し人は、彼女の近くにはいなかった。

「竜也さん、どこに行ったんでしょうか……」

 パレードが終わり、早苗は竜也を探していた。パレードの感想でも聞こうと思っていたのだが、どこに行っても竜也が見当たらない。

(……まさか、里の外に出てる、とか?)

 まさかと思いつつも、探してない場所などそこしかもうなかった。

 いないだろうと思いつつも早苗は里から出て行こうと歩き出す。里の中心から離れると、喧騒が殆ど聞こえなくなった。里の人間全員が龍神祭に参加しているのだろう。

「竜也さーん?」

 呼びかけては見るものの、やはり竜也はいない。

(まさか本当に里の外に出たんじゃ……)

 空から見た方が早い。そう判断した早苗は空を飛ぶための呪文を唱えようとした直前。

『……、――!』

『……、』

 少し離れた場所で、誰かの話し声が聞こえてきた。

「竜也さん……?」

 何をしてるのかと疑問に思いながら、早苗は声のする方に近づいていく。

「……でも、そんなのありえるんですか? 何でもできる神様って」

 竜也が誰かに質問する。まだ二人の顔は見えない。

「普通はない。……んだけど、人の『思い』は凄いからな。ありえないことを実現しちまってもおかしくないんだよなぁ」

 男の声を聞いて、早苗は思い出す。確か元と名乗った男だ。八岐大蛇とも言っていた気がする。

(こんな所で、いったい何を……?)

 家の角に隠れ、早苗は聞き耳を澄ませる。隠れる必要はないはずなのだが、何となく顔を見せては駄目な気がした。

「その人は、何が目的なんですか?」

「わかりやすいよ? 『誰かの願いを叶えること』、それがあいつの目的であり、存在意義だ」

 ただし、と元は付け加える。

「……そこに善悪の感情は一切ない。あいつは部屋の掃除をしてと言われたら掃除をするし、世界を滅ぼしてと言われたら本当に世界を滅ぼす。あれはそういう奴もなんだよ」

「せ、世界を滅ぼすって……」

「無理だと思うだろ? だが、あいつはできてしまう。名前がない故に、あらゆる神への信仰のおこぼれをあいつは貰っている。まあ、七十億の信者がいると思っても間違いじゃあないんじゃないか?」

 七十億の信者。

 とんでもない数だ、と早苗は思う。それは数の暴力だ。例え七十億全員が熱心に信仰していなくても、その神様は神奈子や諏訪子が束になっても勝てない力を持っていることになる。

 竜也も同じことを思ったのか、声が震えている。

「で、でも、願いを叶えてくれるんですよね? だったら別に――」

「――その願いが、そいつの望んだ形だと誰が言った?」

 元の言葉に、竜也の口が止まる。

「例えばこんな願いをあいつにしよう。『死んだ人に会わせてください』と。その場合あいつは、願った奴を殺し、あの世に送り届けるんだよ。これでも一応、死んだ奴には会えるな? 本人の意思が残ってるかはともかく」

 ……無茶苦茶だ、という竜也の呟きが聞こえる。

 確かに願いは叶っているかもしれない。だが、それは願った人の望んだ形ではない。

「安易に願いを口にしてはいけない。冗談で言ったものにあいつは反応しないが、本当にその願いを叶えて欲しいと思っていたなら、あいつはどんな手を使ってでも願いを叶える。例えば、そう」

 元はそこで一度口を閉じ、ゆっくりと、できるだけ落ち着いて喋ろうとする。


「……『大切な人に会いたい』という願いを叶えるために、誰かさんの両親を殺したりな」

 心臓が、止まったかと思った。


「……っ!?」

 竜也が驚いたのが雰囲気で伝わってくる。だが、早苗はそのことに気が回らない。

 何故ならば、

(……まさか)

 彼女も、願ったからだ。

(……まさか)

 『大切な人に会いたい』と。

(…………そ、んな)

 ズルズルと、早苗はその場で力なく膝をつく。口を両手で押さえ、顔は青ざめていた。

「……それ、じゃあ」

 竜也が、絞り出したような声を上げる。

「俺のせい、ですか? 俺が、早苗さんたちに会いたいと願ったせいで……」

「……『お前ら』が悪いわけじゃねえよ。どうしようもないことを神に願うのは、決して罪ではない」

「…………」

 沈黙が続いた。遠くから聞こえる喧騒が、別世界のもののように思えてくる。

 沈黙に耐えかねた元が、言い聞かせるようにゆっくりと喋る。

「いいか、お前は絶対に動くな。あいつを見たからって、怒りに任せて龍神の力に身を委ねるな。お前では絶対に勝てない。あれを殺せる奴なんてこの世界にはいないんだ。絶対に動くなよ、勝手に動いて勝手に死ぬのは俺が許さんからな」

 元が地面を蹴る音が聞こえてくる。早苗の方へと歩いて来ている。

 最初から気づいていたのだろう。元は早苗の横で立ち止まり、竜也に聞こえない声量で言う。

「……お前の声を聞いたとは限らないんだからな」

「…………」

 元はそれだけ言うと里から出て行った。

 後に残ったのは、立ち尽くす竜也と、立ち上がることのできない早苗の二人だった。

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