人工知能と人形
少女の名前は、アリス・マーガトロイドというらしい。人形の妖怪ではなく、魔法使いのようだ。
「あ、じゃあ魔理沙さんと同じですか?」
「魔理沙とは違うわよ。あっちは人間だもの」
「え? 人間……、えと、ん? 何が違うんですか? というか人間だものって、アリスさんは人間でないと?」
「私は種族魔法使いで、あっちは職業魔法使いよ。……といっても貴方にはわからないわよねぇ。里の人たちもよく分かってないし」
「……同好会と部活の違いみたいなものですかね?」
「そう言われてもこっちが同好会とか部活とか知らないんだけど……」
うーん? とお互いに意思疎通に苦労するが、そもそも本題からズレがあることに少し経ってから二人は気づく。
ごほん、とアリスはわざとらしく咳払いしながらお茶に口をつける。が、口に合わなかったらしく苦い顔をしている。
「……それじゃあ話を聞かせてもらいましょうか」
「いつでもどうぞ。と言っても専門家でも工業高校に行ってるわけでもないのでそんな詳しくは無理ですけど」
「そんなに期待はしてないから問題ないわ。それじゃあ質問を一つ。人工知能って分かるかしら?」
「そりゃもちろん知ってますよ。猫型ロボット」
「……外来人って、なんで人工知能のこと聞くと全員そう答えるのかしら……」
「一番に出てくるのがそれなんですよきっと。それで、その人工知能がどうかしたんですか?」
「あれってどういう理屈で物事を考えているの?」
「……ん、んー」
竜也は少し唸りながら天井を見上げ、自分の頭から知識を捻り出す。
「人工知能って、別にあれ自体が物事を考えてるわけじゃなかった筈ですよ」
「あら、じゃあなんで普通に会話とかできるのかしら?」
「会話してるように見えてるだけ、が正しいと思いますよ。実際は予め設定された言葉を出力してるだけですよ。『こんにちは』と言われたら『こんにちは』と返すみたいな」
「そんな単純なもので会話なんてできるの?」
「そんな単純ものを、何百何千と用意するんですよ。日常会話程度ならスラスラと喋れるようになりますし、それでも対応していない言葉が出た場合は、『申し訳ありませんが、わかりません』で済みますから」
こんな説明でわかるのかな? と竜也は思いながらアリスの顔を覗くが、一応わかってくれているようだった。
「……私の人形に組み込ませるのは無理そうね。流石に容量が足りないわ」
「容量? 人形に組み込むって、アリスさんもロボットでも作るつもりなんですか?」
「似たようなものよ。自分で物事を考えて行動する自立人形を作りたいのだけど……」
「人工知能はあくまで『AをされたらBをする』の集合体でしかないですから、アリスさんの望む物は作れそうにないですね」
「猫型ロボットの話を聞いた時は『これだ!』って思ったんだけどねぇ」
「……というか、自分で物事を考えて自分の意志を持って行動をするって、それはもう人形じゃなくて人間だと思うんですけど。そんなのもう神様とかの領域の話じゃないですか」
「本当にね。もう全部自分でやった方が早い気がしてきたわ」
アリスはそう言い、ぐいっとお茶を一気に飲み干す。……何とも言えない顔になっているのは、多分指摘すべきではないだろう。
「それじゃあお話ありがとう。ここで失礼させてもらうわ」
「あ、お茶ご馳走様でした」
「どうも。こっちもお話聞けて良かったわ」
アリスはそのまま立ち去っていく。竜也も残っていたお茶を全部飲み干して店から去っていく。
周りを見回しながら竜也は呟く。
「さてと、どうするっかなー」
「暇なら私に付き合え」
「うわっ!?」
そんな竜也の肩に手を置きながら、魔理沙は全体重を竜也にかける。突然の出来事だったが、思ったより軽かったためバランスを崩すことは防ぐことができた。
因みに魔理沙は竜也の反応を見てご満悦だ。
「うわってお前、大袈裟すぎだろ」
「誰でも後ろから突撃されたら驚きますから」
「大丈夫大丈夫。私の体重は軽いからな、お前なら余裕だろ」
「そのよくわからない基準はなんなんですか……?」
「そんなことより、だ。お前アリスと何か話してたろ」
「してましたけど、それが」
「それと同じ話を私にしてくれ」
「……魔理沙さんもロボット作るんですか?」
「ろぼっと? いやいや私はそんなのは作らないさ、今のところ。単純に興味があるだけだぜ。アリスがわざわざお前を捕まえてまで聞いた会話の中身がな」
「大した話はしてないんですけどねぇ」
「それを決めるのは私だがな」
はぁ、と竜也は溜め息を吐く。
「……なんか奢ってもらいますからね」
「妖怪鳥の焼き鳥を奢ってやるよ」
「いりません」
そんなことを話しながら、竜也はめぼしい屋台を見つけるために歩き出す。
……因みに、そろそろパレードが始まる時間なのだが、竜也は時計も何も持っていないので、気づくことはなかった。




