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回る世界

「……あらあら、困ったわね」

 女性は心底困っているように言う。その女性の周りは、赤黒い液体で満たされていた。

 周りにあったはずの屋台や民家は、遥か彼方に吹き飛ばされてしまっている。お陰で随分と見晴らしがよくなっていた。

 これらの状況を、たった一人の少年が一瞬で作ったのだから、大したものだろう。

 この状況を作った少年、竜也はというと、今まさに目の前で女性に殴りかかっていた。

 凄まじい轟音と共に拳が放たれているのだが、女性に当たることはない。不可視の壁のような物が拳を遮っている。

「せっかくここに連れてきてあげたのにこんなことになってるなんて……うーん、これは『願い』を叶えたと言えるのかしら?」

 竜也の皮膚は全て翠色に変わっていた。爪はより鋭くなり、背中から翼が生えている。もう人間の大部分が消えていた。

 かなり離れた場所では諏訪子が早苗を抑えつけていた。早苗は何かを叫び、神奈子がその言葉を聞いて瞑目する。

「……うーん、わからないわねぇ」

 女性は竜也の顔を見つめながら悩み、


「とりあえず寝てなさい」

 ゴッパァァァァァンッ!! と竜也の顔を勢いよく地面へと叩きつけた。


 轟音とは裏腹に、周りに被害が出たりしない。女性の一撃は、竜也のみに影響を与えた。

「さ・て・と! こーんなにも『願い』があるから、ちゃーんと叶えてあげないとね」

 女性は竜也の頭から手を離しながらそう言い、空へと手を掲げる。

「大丈夫よ皆。これは夢、ぜーんぶぜーんぶ、夢なのだから」

 ざわざわと人々が騒ぐ中、女性はただただ慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 その直後、女性の周りが音もなく前触れもなく黒く染まる。それは地面や空中などといった概念を無視し、とてつもない速度で侵食し始める。

「……だいじょーぶだいじょーぶ」

 人妖たちが逃げ出し、一部の勇ましい者たちの攻撃を平然と受け止めながら、女性はゆっくりと喋る。

「朝に戻るだけ。世界そのものの始まりからやり直すわけじゃないのだから。この程度のこと、この世界は数億回と繰り返してきているのだから」

 だいじょーぶだいじょーぶ、大丈夫。

 真っ黒の世界に、女性の声のみが響き渡る。

 そして……。



(……でも何するんだろ? パレードなんて言うくらいだから派手にやるんだろうけど)

 竜也は一人休憩所の椅子に座ってゆっくりとしていた。

 今日は龍神祭の二日目。今日はパレードが主に行うらしい。

 神奈子たちも天狗や河童と一緒にパレードを行うので、今日も竜也は一人だ。

 神奈子たちのパレードはお昼頃に行うと聞いていた。今はまだ十時なのでまだまだ時間はある。

 さてどうやって時間を潰そうかと辺りを見回すが、特に気になるものはない。

(そもそも五日間も祭りするって、長すぎない?)

 毎日屋台などは変わるみたいだが、殆どの人が酒を飲んで過ごしている気がする。中には屋台を放ったらかして飲みに行ってる人もいるし。

 未成年の竜也にも遠慮なしに酒を勧めてくる人間や妖怪を適当に流しながら竜也は里を歩く。

「……ん?」

 そうこうしていると、道の端で人形劇が行われているのを竜也は見つける。結構な数の子供がいて、中々好評のようだ。

 興味を持った竜也は近づくが、ちょうど人形劇は終わったらしい。子供たちがパチパチと拍手している。

 残念に思いながらもどんな人がやってるんだろうと気になった竜也は背伸びしながら見てみる。

 だが、そこには金髪の等身大の人形がいるようにしか見えない。置き物かな? と思えばそんなことはなく、普通に喋るし動いている。

(あぁ、きっと人形の妖怪だな。人形が人形劇をしてるって、なんか良くわかんないな)

 ……人形の妖怪ではなく魔法使いなのだが、竜也がそれに気づくことはない。彼女は一見すると人形に見える容姿をしているので仕方ないのかもしれないが。

(……あれ?)

 そこで、竜也は何か違和感を覚えた。なんというか、既視感デジャブのようなものを感じ取ったのだ。

 だがそんな筈はない。竜也は以前に幻想郷に来たことなどないし、あんな目立つ容姿をした人を忘れるなんてことはない、はずだ。

(……なんだろ、なんなんだろこの感じ)

「ねぇ貴方」

「はへ?」

 突然話しかけられた竜也は、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 話しかけてきたのは、さっきまで人形劇をやっていた少女だ。

「貴方、外からやってきた人?」

「あ、まあそうですけど……」

「ちょうどよかったわ。ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど」

「えーと? どんな話ですか?」

「外では自動で動く人形が作られてるって聞いたわ。そんなに期待はしてないけど、少しくらいなら知ってるかなーと思って」

「……あー、ありましたねそんなの。知ってることでいいなら幾らでも言いますよ」

「ありがとう。そこでお茶でもしながら話を聞かせてもらうわ」

 少女がさっさと歩き出したので竜也も追いかける。今度は既視感デジャブを感じないことを違和感に思うが、竜也はあまり気にしなかった。

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