女性
数秒間に合わなかった……orz
一年前、加賀竜也は酷く落ち込んでいた。
守矢神社が消え、誰もが彼女たちのことを忘れていたからだ。
自分の見てたのは何だったのか、彼女たちは自分の妄想の産物だったのではないか、と本気で思っていた時期もある。
そんな彼を、両親はずっと励ましてくれた。
―――自分の見たものを信じなくてどうするの。
母はそう言ってくれた。
―――お前の見たものは幻なんかじゃないさ。
父は、竜也の描いた絵を見ながらそう言った。
両親は早苗たちのことを覚えていなかったが、それでも竜也の言ってることを信じてくれた。
それは、全部妄想ではないかと怖かった竜也にとって、とても嬉しいことだった。
両親が自分を信じてくれたから、竜也も彼女たちの存在を信じられた。
「……神様」
彼女たちの存在を信じる竜也は、神社があった場所で願った。
「……彼女たちに、大切な人たちに会わせてください」
神社に行くたびに、竜也は願っていた。
いつだったか、いつものように願っていた時に、どこからか声が聞こえてきた。
「いいわ、会わせてあげる」
幻聴だと、当時は思っていた。
「あらゆる手段を用いて、感動的な再会を演出してあげる」
だが、今ならわかる。あれは幻聴なんかではない。
あの場にいた『誰か』が、竜也の願いを聞き遂げたのだ。
その声が聞こえた、ちょうど次の日だった。
家族が、支えてくれた両親が、この世を去ったのは。
「…………」
竜也は休憩所で横になっていた。頭が少し痛むが、体は問題なく動いてくれた。
「今は……」
壁に掛けられた時計を見ると、ちょうど三時の辺りを指している。
「…………」
起き上がり、休憩所から出る。ちょうどどこかでパレードが行われているのか人気がほとんどない。
竜也は彼女に会うために、人が沢山いる場所へ向かう。
騒がしい音が聞こえる場所に近づくにつれ、人の数も増えていく。
足が止まることはなく、自然と目的地へと向かっていく。
誘導してくれているのはただの勘か、もしけは龍神の力なのか。どちらにせよ、今は大した問題じゃない。
「……あ」
いた。彼女は、周りの人混みに紛れ、他の人と変わらずパレードを観ていた。
「……あら? 貴方は確かさっきの子の……」
「……どうもです」
さっき諏訪子がぶつかってしまった女性は、あの時と変わらない笑みを浮かべていた。
「ちょっといいですか?」
「別にいいわよ。何でもどうぞ」
「そうですか。では遠慮なく」
慈愛に満ちた女性は、竜也の『願い』を一切の躊躇なく聞き入れる。
「一年前、交通事故の現場にいましたよね?」
「そうねぇ、懐かしいわ」
「随分と容姿が変わりましたね」
「貴方の大切な人たちも、変えようと思えば変えれるのよ?」
「そうですか。で、こっちが重要なんですけど……」
女性に、竜也は問う。
「……あの事故を引き起こしたのは、貴女ですか?」
「竜也さーん!」
休憩所の近くで、早苗は竜也の名を呼ぶ。
急に倒れた竜也を休憩所で寝かせ、とりあえず適当に飲み物を買って戻ってきたら竜也がいなくなっていたのだ。
「竜也さーん! ……どこに行ったんでしょうか」
キョロキョロと辺りを見回しながら、早苗は竜也を探しに向かう。
「ええそうよ」
あっさりと、彼女は肯定した。
「貴方の両親を殺したのは、私」
女性がそう答えた、その直後。
ゴッ!! という爆音が鳴り響き、辺り一帯を吹き飛ばした。