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鬼ごっこ

 逃げる途中で荷物は全て放り投げた。少しでも走りやすくするためだ。

 ただしスケッチブックから一枚だけ絵をちぎり取った。その絵には、消えてしまった彼女達が描かれていた。

 これだけは消すわけにはいかないのだ。これさえなくしてしまえば、彼女達がいたという事実が、全部消えてしまう気がしたから。

「もうやだ!」

 どれだけ走ったのだろうか。まだ空飛ぶ少女は追いかけてきている。

「逃げられるわけないですね。天狗の速さは幻想郷一ですからね」

 そう言いながら少女は大きな葉っぱのような物を振るう。風の塊が何発も飛んできた?

「おわあああああ!?」

 情けない叫びを上げながら全力で横に跳ぶ。さっきまで竜也がいた地面が抉り取られた。

「んー、人間にしては速いですね」

「運動は結構出来ますんでね!」

「でも」

 トンッといつの間にか竜也の目の前に移動してきた少女は竜也の顔に手をかざす。

「天狗に敵うわけないよね」

 ドゴンッ!! と、竜也の身体が砲弾のように飛んだ。

「がああああああああああああああああああああああっ!!」

 地面を何度もバウンドして数十メートルは軽く飛び、川に着水した。生きてるのが少し不思議なくらいだった。

「凄い飛んだね。ちゃんと生きてるよね? まだ鬱憤うっぷんは晴れてないからね」

 少女の声が聞こえてきた。川、と言っても三メートルくらいの水深があったので上に戻るのは少し大変だ。

「ぶは!」

 空気を求めて顔をだす。少女の手元にあるのは、風の塊。

 直撃すれば、待つのは間違いなく、死だ。

 竜也はとっさに息を吸い込んで川に潜る。

 ボゴン! と何かの音がしたが、竜也は構わず川の流れに沿って泳ぎだす。

「逃がすとお――きゃあ⁉︎」

 少女の叫びが聞こえたが知ったことではない。竜也は潜水したまま全力で泳いでその場から逃げ出す。

 泳いで、泳いで、泳ぎ続ける。時折息を吸ってまた泳ぐ。

 それを数分ほど繰り返していただろうか。突然変化が起きた。

 突然、川が消えた。

(……え?)

 そして感じ取れたのは、自分が落ちているという感覚。

「ごぼぼばばばば!?」

 何が起きたのかも分からず竜也は水面に落ち、そのまま意識を失った。



「逃がすとお――きゃあ!?」

 少女が再度外来人を追いかけようとして、それは起きた。

 突如川の水が襲いかかってきたのだ。少女は驚きながらも後ろに下がって避ける。

「誰! 河童の仕業!?」

 水は動きを止めることなく、うねうねと動き形を作る。

「……え?」

 そうやって出来上がった物は、まるで、

「龍……?」

 スパァァン!! という音が響き渡った。



「何を描いてるんですか?」

 そう聞いてきたのは、緑髪の巫女さんだった。

 いや、巫女というには奇妙な格好だったが、巫女としか言いようがないので仕方ない。

「ここから見える景色を描いてます」

 手を止めることなくそう答えた。巫女さんは後ろから絵を覗いてきて感嘆の声を上げる。

「なんか絵と言うより写真と言った方が近い気がしますね」

「そこまでではないとは思いますが」

 そこで後ろを振り返り、巫女さんの顔をしっかり確認した。見たところ歳は同じくらいだろう。後胸が大きい。

「――って巫女さん? この辺りに神社なんてあったの?」

「まあ巫女といえば巫女のようなものですが……ありますよ。なんなら来て信仰してくれませんか?今なら本物の神様と出会えるチャンスですよ」

「危ない宗教団体に連れて行かれそうな気配」

「いやいやいやいや、そんなことしたら信仰が溜まらないじゃないですか。で、来ます? 今駄目なら場所だけ教えておきましょうか?」

「まあ行きますよ。暇ですしね」

「それでは付いて来てください」

 巫女さんは歩き出し、途中でくるりと回ってこちらを見てくる。

「言い忘れてました。私は守矢神社の風祝かぜはふり東風谷こちや早苗さなえです。貴方の名前はなんですか?」

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