魔法使い式商売
竜也が一人里を歩いていると、知り合いを見つけた。
知り合い、といっても祭りの準備の時に一緒にいただけだが。
竜也が知り合いに話しかけようとした直前に、別の人がその知り合いに話しかけた。
「朔さん!」
「ん、妖夢か」
津後森朔と剣を持った竜也から見れば危ない少女が何やら楽しそうに会話をしていると、その場に突然メイドが現れる。
「うわっ!?」
「こんにちは」
会話の中にメイドが加わったかと思えば、
「やあ朔に妖夢。それに紅魔館のメイドか」
「こんにちは!」
狐の妖怪と猫の妖怪がやってくる。……そして数秒経つと朔の足元に突然穴が空いてボッシュート。剣を持った少女は穴に飛び込んでいき、メイドはまた突然消え、狐と猫は何事もなかったかのように屋台巡りに向かった。
「……なかなか大変な人生を送ってるようで」
他人事のようにそんなことを言いながら竜也は歩き出す。するとまた知ってる人がいた。
魔法使いの見た目をした少女、魔理沙だ。
「魔理沙さん、何してるんですか?」
「ん? 竜也か。見ての通り商売だ」
魔理沙の座るシートの上には色々な物が置かれていた。
勝手に動いて激しいダンスをするサボテン。髪が少しずつ伸びている明らかに呪われている人形。水がじわりと染み出している石。
明らかに普通ではないものばかりだが、中には普通の本(というかノート?)もある。ただ、札には『魔導書』とあるのでやはり普通ではないのだろう。
……それと、値札に数字がなくて『要交渉』とあるのはなんなんだろうか?
「なんですかこれ?」
「ああこれか? マジックアイテムだよ。家にあった(使えない)物を適当に持ってきたんだ。そっちのは魔導書の写本だな」
「……え、ええと?」
「あー、まあお前は知らなくても無理はないか。まあ外の世界にもパワーストーンとかあるんだろ? それと同じような物だと思ってくれればいいぜ」
「はー。……ところでこの『要交渉』ってなんですか?」
「要するに、気分で値段を決めるってことだ。物々交換も含めてな」
「……商売?」
「ちゃんと売れてるよ。……お、ちょうどお客様を発見」
魔理沙の視線の先には、背中に虫だか鳥だかよくわからない妙な翼を持った女の子たち。
女の子たちは魔理沙に気づくとこっちにやってくる。
「ようお前ら」
「魔理沙さんこんにちはー!」
「なに売ってるんですか?」
「ふふっ、由緒ある魔導書(だと思われる物の写本)さ。これはとある魔法使いが書き上げた物で悪魔を呼び出す方法が書かれている(とか言われたり言われなかったりする)んだが……買うか? 知り合いのよしみで安くしてやるよ」
「買います買います!」
「毎度あり!」
三人の女の子は明らかにゴミにしか見えないカバンのような物を魔理沙に渡し、本片手に走り去っていく。途中で「これで私たち光の三妖精も異変を起こせるわー!」とか言ってるのがなんだか可哀想だ。
竜也は魔理沙をジトーと見ながら一言。
「これ、子供を騙して不良品売りつけたようにしか見えないんですけど……いや、こっちもゴミ押し付けられましたけど」
「ふっ、これがゴミに見えるとはまだまだだな竜也」
結構重かったのか、魔理沙は慎重にカバンのような物をシートの上に置く。
「お前にはゴミに見えるかもしれんが、私たちにとってこういった外の物は貴重品なんだ」
「貴重品と言ってもそれはただのゴ……あれ? これってショルダーホンとかいうやつでは!? なんで初代携帯電話がここに!?」
「名前からして機械か? だったらにとりの奴に言えば幻想郷でも使えるようになるな」
幻想郷に電波はないから無理では? と竜也は言いかけたがやめた。ここは常識外の世界だ。テレパシー的な何かで電話してもおかしくないだろう。
「……というか、そのにとりさんは既に俺の持ってる最新式のスマートフォンのデータがあるから、今更ショルダーホンがあっても……」
「竜也、日本語で話してくれ。さっぱりわからん」
「…………」
女性は、そんな二人のやり取りを遠くから見ていた。
二人が気づくには少し遠い。女性もギリギリ二人のやり取りが見えるだけで、会話などは一切聞こえていなかった。
声を聞きたいか聞きたくないかと問われたら、聞きたいと即答するだろうが。
「…………」
何かに誘われるように、女性は歩き出す。
その速度は決して速くはなかったが、確実に二人との距離を変えていく。
「……これは三キロくらいあるんですが、こっちの携帯なんて二百グラム程度ですよ」
「なんでそんな重さが違うんだ?」
女性は二人にどんどん近づいて行き、
「…………」
そのまま、二人の前を通り過ぎた。
彼女が何を思ったか、それを知っているのは彼女しかいない。そもそも、気づいてくれたのかさえわからない。
「…………」
女性は、霧雨の性を持った女性は、何もしなかった。
声をかけることも。
願うことも。
……それが結果的に、大惨事を避けることになったのは、誰も気づけない。




