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外より来りし幻想の者たち

 竜也たちが里へ行くと、里には沢山の人や妖怪が騒いでいた。

 ある場所では普通に屋台を。ある場所では弾幕ごっこを。ある場所ではどちらが勝つかの賭けを。

 誰もが笑顔だ。焼きそばを作る人も、それを食べる妖怪も、殴り合いをする妖怪と人間も、それを見ている人や妖怪も、皆笑顔だ。

「…………」

 そんな光景を見ている竜也だが、彼は今一人だ。

 最初は早苗たちもいたのだが、祭りが始まった瞬間里の人たちにどこかに連れて行かれてしまった。

(里の人にはそこそこ信仰されてるんだなぁ。……なんかあったら速攻で疑われてたけど)

 笑いながら屋台なんかを覗いていると、目立つ人たちを竜也は見つけた。

 何が目立つって、彼らの服装は幻想郷の物ではなく、外の世界の物だからだ。

 ……と竜也は思っているが、別に服装は関係ない。男二人に女四人の集団なのだが、女性陣のうち三人が異常なほど目立っている。

 まず作業服の少女は自身の身長と同じくらいの黄金のハンマーを背中に背負っている。

 紅い着物の少女の手には血で塗り固めたかのように見える薙刀がある。

 眼鏡少女はさっきから大きな声を出しまくっているのでかなりうるさい。

 こんな感じにかなり変な人たちだが、竜也は周りの妖怪を見て「幻想郷はこんなもんか」と勝手にする。天魔である魔無を見た時から、彼の幻想郷のイメージは変な人たちになっているのだ。

「幻想郷に迷い込んで、そのまま住み着いた人、かな?」

「んにゃ、あいつらは違うぞ」

 突然、後ろから声が聞こえた。反射的に振り返ると、そこには眼帯を付けた男がいた。

「流さん、何してるんですか?」

「お、ちゃんと覚えてたか。色々あったみたいだから忘れられてたらどうしようかと思ってたぞ」

「……あんな思わせぶりな言葉残されたら忘れられるわけないじゃないですか」

「それもそうか」

 ヘラヘラと笑う流は、周りをぐるりと見回して一言。

「平和って、いいよな」

「? まあ、そうですね」

「こんな日が、毎日続ければいいのに、って思うよな」

「そうですね。……なんですか急に?」

「平和は、幸せは長く続かない」

 流は、竜也の目をしっかりと見て言う。

 何かを伝えるように。

「それは長く生きれば生きるほど実感できる。どんなに頑張っても、どんな力があっても、絶対に幸せは終わりを告げてくる」

「…………」

「けどな、過程を変えることはできるんだよ。誰が苦しみ、誰が救われるかは。大切な人を助けるか、他人を見捨てるか、全てを受け止めるかは、お前が決めることだ。テメエじゃない、こいつが決めることだ。……あんまり人間をなめるなよ? 人間は、神さえ殺すのだから」

 途中から、流の言葉は竜也に向けられてなく、誰かに向けられていた。

 ドクンッと、何かが動く。竜也の中にいる誰かは、何かを言った。

「―――。」

 竜也は、無意識にその何かを口にしていた。人の言葉ではない。そもそも音かどうかもわからない、『声』を。

 その声を聞いた流は、笑みを浮かべ、眼帯を少しだけ外した。


 ゾワッ! と空気が変わった。


 間近にいた竜也は、一気に重力が十倍くらいになったような、そんな重圧を受けた。

 そして、心臓に無数の槍が突き刺さったような衝撃。

 だがそれらは一瞬のことだった。流が眼帯を戻すと、すぐに空気は元に戻った。

「……竜也、龍神の力は強力だ。鱗の力の残滓でさえ、誰かの運命を変えるほどに。だが、人間はそれ以上に強い。抗え、受け入れるな、従えさせろ。お前ならできる、絶対だ」

 言いたいことは言い終えたのか、流はそのままどこかに歩き去っていく。竜也は慌てて呼び止めようとするが、それを遮るように流は叫ぶ。

「じゃあな竜也! 二年後にまた会おうぜ!」

「二年後? ま、待ってください!」

 竜也は追いかけるが、流は既に人ごみに紛れ込んでいて、竜也は完全に見失ってしまった。

「……抗え、か」

 竜也は、流の言っていた言葉を頭の中で反復させる。

 忘れないように、刻み込むように。

「……あれ?」

 竜也は、そこで気づいた。

 目立っていた六人組が、いつの間にか消えている。



「面白い場所だな、幻想郷のコピーか」

 流は、色のない、白黒の幻想郷にいた。

 普通の幻想郷とは違い、こちらには人の気配がしない。代わりに、人里の上に面白いものがあった。

 それは、まるで太陽だ。莫大な熱と光を発する球体の中心には、虹色の鉱石があった。

 流は宙に浮きながら太陽へと近づいていく。その途中で、動きが止まる。

「……なるほど、ミストルティン、ロンギヌスの槍、天之尾羽張あめのおはばり布都御魂ふつのみたま。有名どころだとそんなところか。神話の武器の一部分を切り取って新たな武器を作り出そうなんてよくもまあ考えたもんだ。神話のドワーフか何かなのかお前らは」

 ガギンッ! と鉄と鉄のぶつかり合った音が響き渡る。流の背後に現れた着物の少女が薙刀を振り下ろし、それを流が小さなナイフで受け止めた音だった。

「俺とやりあうのはやめとけ。はっきり言って、そこの『魔王』が百人いても蹴散らせるくらいの実力はある」

「離れろ楓!」

 少年の声が響く。楓と呼ばれた少女は声に従い流から離れていく。

 周りを見てみると、楓以外の五人の少年少女が流を囲っていた。

 流はふぅと息を吐き、呆れたように言う。

「まったく、どいつもこいつもすぐにこれだよ。やだやだ、俺が何をしたっていうんだ。何回世界が終わりを迎えようと、この過程は中々変わらないな」

「それから離れろ」

 少年は、明確な敵意をもって流の前にいた。流は両手を適当に上げながら太陽から離れる。

「あんたの目的はなんだ」

「目的? そうだな、強いて言うなら、これが一番しっくりくるな」

 少年の問いに、流は笑みを浮かべながら答える。

「暇つぶし」

 彼らの間で会話が行われたのは、そこまでだった。

 ドパンッ!! という音が鳴り響く。

 その音を最後に、白黒の幻想郷に静寂が訪れた。

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