中途半端
「さて、いい加減本題に入りましょうか」
魔無のその台詞で、彼女達はようやく本題に入ることができた。
……本題に中々入れなかった原因の九割は魔無にあるのだが誰もツッコミを入れない。皆いい加減話を進めたいのだ(因みに残りの一割は竜也の視線をどう早苗に釘付けにするかの話だった)
「んで、何から聞くんだ? 今なら正直に全てを話してやる」
元の言葉に、竜也が律儀に手を挙げて質問する。
「これは一番に聞いておきたかったんですけど……俺がまた暴走する可能性ってどれくらいあるんですか?」
「五分五分だな。一応お前に楔は打ち込んでるが、お前の感情が昂ぶると壊れちまう。……まあ、普通に過ごす分には全く問題ないさ。ブチ切れたんじゃなくてただ普通に怒る程度ならどうにもならんしな」
「そうですか」
ホッとしたように、竜也は息を吐く。隣に座っていた早苗が竜也に言う。
「大丈夫です! 何かあっても私たちが止めますから!」
「……ありがとうございます」
早苗の言葉に、何とも言えない表情で竜也は礼を言った。
「私も質問、というか確認していい?」
諏訪子は一度断りを入れてから、ゆっくりと質問を吐き出す。
「竜也の中にある力は、龍神の力で間違い無いんだよね?」
「ああそうだ」
「だったら、何で竜也に龍神の力が宿ってるのさ? ……少なくとも、二年前には竜也から何も感じ取れなかった。この二年で何があったの?」
「……一年前、竜也の両親が死んで、その後叔父に引き取られたことは知ってるか?」
「知ってる」
両親が死んだ、という言葉に魔無がピクッと反応した。視線を竜也に移し、何か納得したように笑う。
元はそれに気付きながらも、何も言わずに話を続ける。
「その叔父の家なんだがな、かなり昔に龍神の鱗が落ちた場所なんだ」
「……鱗?」
「鱗だからって馬鹿にするなよ。龍神の鱗はそれ単体でもとんでもない力を有するからな。そして同時にその鱗は膨大な力を周りに放出し続ける」
「じゃあ、竜也さんはその鱗の力を受けて……」
「ちょいと違うな。竜也の力は、鱗ですらない」
早苗の言葉を、元は否定する
「そもそも鱗は落ちてすぐに賢者共が回収した。人間にも妖怪にも危険すぎるからな」
「じゃあ一体何が?」
「残りカス」
「……残りカス?」
早苗が首を傾げながら周りを見てみると、竜也以外の全員がなるほどといった顔をしていた。
「えーと、残りカスってなんですか?」
「んー、残滓って言った方がわかりやすいかな?」
「まあ、鱗を持っていく時に空間に残った力と思っとけ。んで、その残った残滓もとんでもない力を持っててな。その場所に気場、……えーと、パワースポットを作り上げたんだ」
元は早苗と竜也に合わせて今風に言い直す。今度は頭に疑問符を浮かべることはなかった。
溜め息を吐きながら元は説明を再開する。
「そのパワースポットも、本来は疲れが取れやすい程度の影響しか与えなかったんだ。……まあ残滓が何もしてなくても自然に発せられる力の影響、だけどな」
「? 今の言い方だと残滓にも意識があるみたいな言い方ですけど」
「あるんだよ。残滓にも意識と呼べるものが。……まあそれは後で竜也と話せ。既に何回か見聞きしてるはずだ」
早苗は竜也に目を向けるが、誤魔化すように竜也は笑うだけだった。
「んで、意識があるその残滓さんはずっとずっとこう思っていた。『帰りたい』と」
「帰るって、何処に?」
「大空へ。正確には、龍神の元へ。そんな風に残滓がずっと考えて数百年経ったある日、残滓はある物を見つけた」
「……それって、もしかしなくても、ですよね?」
「ああ、お前だよ竜也」
そこで元は一息吐く。その息からは、疲労が感じ取られた。
「あの?」
「ああいや気にすんな。ちょいと色々あってな。……あ、なに? すまん、お前らちょっと待ててくれ」
「は、はあ」
元の体が動かなくなり、声のみが部屋に響き渡る。
「なんだよ? ……は? 待て、ちょっと待て。嘘だろおい紫の奴何してんだよ? ぶっ倒れてる!? あの馬鹿、無駄に張り切って無駄に倒れやがった!!」
何やら誰かと話し合っているようだが、竜也は全く意味がわからないし、早苗達も紫という言葉に反応するくらいだ。
数分ほど何かを話していたかと思うと、突然元の体が変化し始める。蛇は垂直に立ち上がり、体は大きくなり、人の形へと変わる。
人の姿に戻った元は片手を竜也に向けて申し訳なさそうに言う。
「すまん、ちょっと急用ができた。だから簡単に残りを言わせてもらう。竜也の体は人類で唯一龍神の力にある程度耐えられる体。龍神の力は竜也の中で今も育っている。後三ヶ月もすれば竜也は死ぬ。後絶対勾玉外すなよ! 龍神の力が暴れ出すからな!」
「ちょ、ちょっと!? 今さらっととんでもないこと言いましたよ!?」
「すまんが後だ! 祭りでも楽しんでろ!」
早苗の制止を聞かず、元は勢いよく部屋から出て行ってしまう。
「えーと……」
死を宣告された少年は少し困った顔になりながら問う。
「なんか中途半端に終わっちゃいましたけど、これからどうしましょう?」




