天狗達の大頭
「……、」
竜也の視界は暗闇に閉ざされ、口を開くことはできなくなっていた。
もちろん、それは自然とそうなったわけではない。先ほどまで竜也と話していた者が、竜也をそのような状態にしたのだ。
何も見えないし、音も聞こえない。だが、不思議と竜也には恐怖はなかった。
そのなんとも言えないものを感じながら、これからどうするべきかを竜也は真剣に考えていた。
そんな時、遠くから大きな音が聞こえてきた。音源はドンドンこちらに近づいている。
(……誰だろ?)
竜也がそう思った直後、竜也のいる部屋の扉が勢いよく開かれた。
「竜也さん! ……た、つやさん?」
早苗の声だ。彼女の声は驚愕に満ちていた。
ドタドタと、さらに複数人がやってくる音がする。
「早苗、竜也いた? ……ってこれは……」
「どうしたの諏訪子? って、うわあ……」
「……しーらね。俺関係ないもーん」
諏訪子、神奈子、元の声が続く。彼女達は全員、目の前の光景をみて驚いていた。
そんな彼女達が見た光景を説明しよう。
まず、竜也がいた部屋は他の部屋と比べてとんでもなく広い。早苗は体育館の広さと比べてみたが、どう考えてもこの部屋の方が広かった。だが大きな部屋に反し置かれている物は少ない。座布団が十数枚部屋の端に積まれてるくらいか。
その部屋のちょうど真ん中辺りに、竜也はいた。彼は座布団の上で正座をしていた。そして彼は、常識的にはあり得ない状態となっていた。
具体的に言おう。
おっぱいに頭部が埋もれていた。
「ん? おや、守矢神社の皆さんじゃないですか。どうかなさりましたか?」
現在進行形で竜也の頭部を埋めている紅い着物を着た綺麗な女性は、早苗達を見てそんなことを言う。
着物、とはいうものの、彼女の着ている着物は布面積が圧倒的に少ない。見た目的にはビキニと同じくらい、というか着物をチョキチョキ切ってビキニの形にしましたといったところか。それでも着物としか表現しようがないのだから不思議だ。
早苗は女性と竜也に視線を交互させながら女性に問う。
「……あ、あの、何をしてたんですか?」
「ん? 何故か少年の視線が私の胸にいってたから」
「いってたから?」
「―――思わず胸に埋めてやりたいという衝動が」
女性の言葉を聞いて、早苗はその場に崩れ落ちた。
この人は、違う。
常識に囚われないとかそういう問題じゃない。これは別次元だ。
そんなことを考えている早苗。
女性はというと何を考えたのか、竜也を胸の谷間から解放し、そのまま早苗の元へ歩み寄る。
「あなた、そこのあなた」
「……?」
早苗が声に反応して顔を上げ、早苗にだけ聞こえるように女性は呟く。
「―――。」
「ぶふっ!? な、何を言ってるんですか貴女は!?」
何やら動揺している早苗と、その反応を見て笑う女性。
そして竜也はというと、女性がそんなことをしているうちに神奈子達の元へコソコソと移動した。
「(実際何してたのよ?)」
ヒソヒソと、四人は話し合う。
「(よくわかんないです。あの後ここに連れてこられたかと思えばあの人が来て、暫くは雑談してたんですけど急に抱きしめられまして……)」
「(……胸に視線がいってたというのは?)」
「(嘘か本当かどうかで言えば本当ですけど……正直あれは女性でも目がいく気がするんですが。そもそも会話してる時はちゃんと眼を見て話してましたよ?)」
「(大丈夫。早苗のおっぱいもデカイから)」
「(なんでそこで早苗さん?)」
「(はいはい、竜也は気にしちゃ駄目だよー)」
「(……何でもいいから説明をさせてくれねえか? さっさとやることやって貰うもん貰って休みたいんだよ)」
「(まあ待ちなさい。今は竜也の視線をどうすれば早苗のおっぱいに釘付けにできるかの話し合いだから)」
「(……あの、なんですかその話し合い。それには何の意味が?)」
「(大丈夫。思春期の考えることなら予想ができるから)」
「(色々と不安要素しかないんですが……)」
「そろそろいいかしら?」
むんず、と諏訪子の帽子に胸を乗っけながら女性は割り込んでくる。……その帽子の上には元がいたにも関わらずに、だ。
「ぐえっ。脂肪の塊が……」
「あら、ごめんなさいね」
謝りはするものの退ける気はないようだ。むしろ女性は段々と体重をかけていっている。
潰れそうになった元はシュルリと抜け出し、畳の上で女性を睨みつける。
「お前、天魔じゃなくて淫魔に名前変えたらどうだ?」
「それは名前じゃなくて種族名よ? 変えたくても変えれないわ」
「……え? 今、なんて言いました?」
動揺から立ち直った早苗は、信じられないことを聞いたかのように元を見ている。
対して、元はあっさりと言う。
「天魔」
「……へ?」
「天狗のトップ。それがこいつ、天魔だ」
元の言葉に合わせ、女性は名乗る。
「どうもはじめまして。私がその天魔、志摩魔無よ。よろしくお願いするわ、皆さん」




