テレポート
「・・・・・」
華扇は、後ろにいる少年について考えていた。
「うわー、案内がなかったら間違いなく帰れませんねこれ」
竜也と名乗った少年は、そんなことを言いながらひょいひょいと付いてくる。
今も、二十メートルはある崖をロッククライミングしてきている。その顔に疲れはない。
(なんなんだろ、あの感じ)
華扇は、竜也の身体に何かしらの力があるのを感じとっていた。
ただ少しばかり変だ。なんというか、力の量が少なすぎる。
量だけで言えば、そこら辺の妖精よりも少ない。だがこれだけの量で人間の能力をここまで強化できるのかが不思議だった。
さらにいえば、竜也の持つ力は霊力や魔力の類ではない。華扇も知らない、もっと強力で、異質な物だ。
「よっと。なかなかに面倒な道ですね。華扇さんはいつもこんな道を通ってるんですか?」
そうこう考えていると竜也が登ってきた。汗ひとつかいていない。
「いえ、普段は飛んでるのでこの道を使うことはありませんよ」
「・・・当たり前のように『飛ぶ』と言える幻想郷。俺も修行したら飛べるようになりますか?」
「割と簡単に飛べますよ」
雑談をしつつも華扇はまた歩き出す。
竜也もそれに付いて行くのだが、ふと気付く。
「華扇さん、もしかして山を下りてますか?」
「彼女は時々里の端っこに行って厄を吸い取ってるんですよ。そこにいなければ・・・天狗にでも聞いてみましょう」
ピクッと、竜也の身体が震えた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
何でもないと言いつつも、竜也やブツブツと何やら呟いている。華扇はそこら辺の事を知らないので反応に困る。
まあ大丈夫と言ってるなら大丈夫なのだろうと思い、華扇は歩き出した。
その瞬間、
パンッ! と風船の割れるような音が華扇の後ろから聞こえた。
「え⁉︎」
驚き振り返ると、そこに竜也はいなかった。
代わりに、というべきかわからないが、何故か河童が立っていた。河童の方も「あれ? あれぇ〜?」とか言ってる。
華扇は慌てて河童に詰め寄る。
「ちょ、ちょっと! 貴女いったい何をしたんですか⁉︎」
「え、いや、ちょっとした実験を・・・」
「何ですか実験って⁉︎」
「テレポート装置だよ! 幻想郷中何処でも一瞬で移動できる機械を作ったんだ。それの実験をしてたんだけど・・・」
詰め寄られた河童は逃げるように一歩後ろに下がる。すると何かに足をとられて豪快に転げた。
「な、なんだよ! 誰だこんな所にこれ落としたの‼︎」
「・・・貴女のテレポート装置の被害者の物だと思いますよ」
「え?」
溜め息を吐きながらも華扇は竜也が落とした物を右手で拾いあげる。
その指が落し物に触れた瞬間、バチンッ‼︎ と華扇の手が弾き飛ばされた。
「っとと。・・・何でこんなのを外来人が」
その落し物は、勾玉だった。半分が白い石、もう半分を黒い石で作られている。
「貴女、これ持ってそのテレポート装置の所まで案内してもらえない?」
「ええ⁉︎ そんな見るからに危なそうな物を何で」
「貴女、これ持ってそのテレポート装置の所まで案内してもらえない?」
「え、いやだから」
「貴女、これ持ってそのテレポート装置の所まで案内してもらえない?」
「あ」
「貴女、これ持ってそのテレポート装置の所まで案内してもらえない?」
「・・・・・・はーい」
拒否権は、なかった