片腕有角の仙人
「・・・なんというか、随分と大変だったんですね」
華扇は竜也の話を聞いてそう言った
竜也は、自分がどうしてここにいるのかといった経緯を華扇に話した。華扇は人間のような気がしなかったが、それでも何となく良い人だと思ったからだ
「それでも今はこうして生きていますから、運は良かったと思います」
「運が良ければそもそもこのようなことにはならなかった気がしますけどね・・・厄を吸い取ってもらいにでも行きますか?」
「厄を?」
「ええ。この山には厄を吸い取ってくれる神様がいるんですよ。彼女に頼めば厄を吸い取ってもらえると思います」
「神様、か」
竜也としても興味がないわけではない。彼は神様というと神奈子と諏訪子しか見たことがないので見たことのない神を見てみたくはある
しかし、
「神社の外って、危ないと聞かされてるんですが・・・」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。大概の妖怪は私の近くにいれば近づきませんから」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。これでもそれなりに顔は広いんです」
「へー」
バチバチッ!とヤマネの周りで火花を散らす
「・・・ところで、さっきからバチバチ鳴らしてるそのヤマネは?」
「ヤマネ?この子は雷獣ですよ」
「雷獣、その単語を聞くとピカチ」
ビクン!と言いようのない何かを感じた竜也の背中が震えた
この単語は、おそらく禁句だ
華扇が不思議そうに竜也を見ていたため、竜也は慌てながら話を繋げようとする
「け、けど雷獣ってトウモロコシを食べるんですね。初めて知りましたよ」
「まあ外の世界ではそういった知識は失われてるでしょうしね。・・・そういえば貴方は毒に侵されてはないんですか?」
「ど、毒?」
ヤマネ、もとい雷獣はバチバチと火花を散らす。もしかしたら「近づくと怪我するぜ」とでも言ってるのかもしれない
「雷獣の雷には人体に有害な毒があるんですよ。まあ無気力になるだけですし、玉蜀黍を芯ごと砕いて飲めば治るんですが」
「あ、それなら割と大丈夫そうですね」
無気力になるくらいなら全然平気だと竜也は思う。雷獣の頭を撫でてやると幸せそうな顔をした
「それで、どうしますか?」
「・・・・まあ、正直暇ですし、お願い出来ますか?」
「もちろんです。じゃあ行きましょうか」
華扇が山道を下っていくのを、竜也は後ろから付いていく
「・・・・・・」
その間、華扇は何かを考えていた
「平和だなー」
人間の里から離れた場所に位置する家の中で、津後森朔はそう呟いた
そう、平和なのだ。今日は妙な奴らは来てないし妙なことも起きてない。里の方では異変がどうとか言ってるらしいが、そんなことは博麗の巫女に任せればいいのだ
お茶を飲み、団子を食べて幸せそうな顔をする朔
コンコンッと、玄関の方からノックの音が聞こえた
「はいはーい今行きまーす。・・・誰だ?」
魂魄妖夢は庭師の仕事があるので来るはずがなく、八雲紫は玄関を使うはずがない
西行寺幽々子か八雲藍か、その辺りだろう。玄関を使うのは
「どちら様ー?」
玄関へ行くと、そこには紅い着物を着た少女がいた。長い黒髪は地面に着きそうになるほど伸びている
もちろん、朔の知り合いではない
「こんにちは。私は鈴護楓と申します。津後森朔さん、ですよね?」
冷たい、と朔は思った
態度が、ではない。この楓と名乗った少女の言葉は、とてつもなく冷たく感じた
感情がこもっていないのとは違う、もっと別の何かだ
「・・・はい、そうですが」
「今日は貴方にお願いがあってきました」
「お願い?」
「はい」
そう言って楓は、見えない何かを握るように手を動かす
ゴバッ‼︎‼︎‼︎と家の一部が吹き飛んだ
「な、なんだいきなり⁉︎」
家の場所からかなり離れた場所に移動した朔はそう叫ぶ。混乱はしているがその左右の手には刀が一本づつあった
「貴方の力、私たちに見せてもらえないでしょうか?」
優雅に立つ楓の手には、まるで血を塗り固めて作られたのかと錯覚しそうな色の薙刀があった
「疑問系なのに既に殺しにかかってるじゃねえか‼︎」
「そうですね。死なない為にも、どうか全力でお願いします」
ドッ‼︎‼︎という轟音と共に、楓は朔へと斬りかかった




