祭りの準備
「竜也、今日暇?」
朝食を食べていると、諏訪子が唐突にそんなことを聞いてくる。
「暇ですけど、何か手伝うことが?」
「まあね。ちょっと里に行くから付いて来てほしいのよ」
「里って、今日何かあるんですか?」
そう聞いてきたのは早苗だ。魚の解体に苦戦しているようなので竜也は解体済みの自分の魚の取り替える。
早苗の質問に神奈子が答える。
「ああ、確か今日から祭りの準備だったわね」
「祭りですか?」
「そう祭り。龍神祭って言ってね。幻想郷の最高神である龍神様を告げるお祭りよ」
「……龍神、ですか。神奈子さんや諏訪子さんと同じなんですか?」
竜也の問いに二人の神は苦笑いを浮かべる
「同じじゃないよ。てか力の差も信仰の差もあり過ぎてねぇ」
「天と地の差がある、ていうかあれと比べちゃいけないね」
「……ええと、とりあえず凄い神様っていう認識で大丈夫ですか?」
「それでいいよ」
お茶を飲んで喉を潤す。凄い、というのは分かったが具体的なイメージが竜也には出なかった。そもそも神様=この二人なのだから仕方のないことかもしれない。
「とにかく、そのお祭りの準備の手伝いをすればいいんですか?」
「うん。私はちょっと他の用事があるから一人にさせちゃうんだけど……」
「大丈夫です。力仕事は得意ですからね」
「男の子だねえ。……ああそうだ」
諏訪子は何かを思い出したように立ち上がり、部屋から出て行く。一分くらい経つと大きなリュックサックを持って戻ってきた。
「なんですかそれ?」
「竜也の荷物。替えの服とか下着とか入ってたよ。昨日誰かが置いて行ったみたいだね」
「誰かって……?」
「可能性としてはスキマ妖怪が一番高いわね」
「わざわざ竜也さんの荷物を持って来たりしますかね? 竜也さんはただの人間ですよ? 」
うーん? と三人は唸るのだが、竜也は誰のことを指してるのか分からないので話に付いていけない。
「まあ貰える物は貰っときましょう」
「そだね。というわけで竜也が着替えたら出発するね」
「分かりました。……?」
そこで竜也は、そのリュックサックに付いているあの物に目が入った。
それは宝石だった。ただの宝石ではなく、パワーストーンと呼ばれる物だった。
「竜也さん?」
「あ、いえ何でもありません」
竜也を幻想郷に連れてきたあの少女を思い出しながら、竜也は朝食を食べた。
沢山の人が行き交う中を、竜也達は降り立つ。
「皆忙しそうですね」
「そりゃあ年に一度のお祭りだからね。皆気合い入ってるのよ」
「はー……」
里には明らかに妖怪らしき人達がうようよいる。翼があるのは分かりやすいのだが、からかさ小僧を持つ少女は持ってるだけなのか、それとも二つでからかさ小僧なのか判断が出来ない。
「というか、妙に女性の比率が高くないですか?」
「そりゃあ妖怪の殆どが女性だもの。因みに数少ない男妖怪は大概が草食系男子ならす絶食系男子だね」
「……妖怪の人口が減る一方になる気がするんですが」
「妖怪に寿命なんてないし、最近の幻想郷だと退治されて存在が消えるのなんて殆どいないから問題ないんでしょ」
そんな風に喋っていると、竜也は誰かに腕を掴まれ引っ張られる。
「兄ちゃん暇か? 暇だなちょっと手伝え! おーい、人員一人確保だー!」
「え、あの? ちょ!?」
何か言う前に竜也はズルズルと引っ張られて行く。諏訪子は何故か敬礼していた。
「木材運ぶからそっち持て! 行くぞ!」
「は、はい!」
男の勢いに乗せられて竜也は祭りの準備の手伝いに入る。のはいいが若いからという理由か妙にこき使われ始める。
「そこの兄ちゃんこれを広場に持って行って!」
「おいあんた角材運ぶの手伝え」
「そこの貴方、休憩所作るの手伝って!」
「おーい竜也。ちょっと商品運ぶからこっち来てくれ」
そこらのおっさんおばさん、更には魔法使いの手伝いをしていくと更に忙しくなってくる。
「この太鼓運んでくれ!」
「そこのやつ十個纏めて持ってこい!」
「ちょっと本を運ぶのを手伝ってもらえませんか!?」
巨大な太鼓を運んだり何かの商品を十個ほど運んだり大量の本を何往復もして運んだり。
そして、太陽が真上に来る時まで、竜也は働き続けた。