1-16 [5歳]俺の葛藤とフェルムの笑顔
この店、この指輪以外置いてるものがクズなものしかないんだよな。例えば、この腕輪なんて何かの金属で出来てるんだろうが、錆びてるし。それでいて値段30Sとかふざけてるだろ。
どうにもあやしいんだよな。これはほんとに大丈夫のなのかよ。何故か客も全然いないし・・・。
もう一つは価格だ。前に母上が言っていたがこの世界の庶民の月収は大体60~70Sくらい。ということはこの指輪は月収二か月分なんだよな。値段的に考えると、婚約指輪に相当するんだろうな。なんかこれを買ってあげるとしたときは気恥ずかしいな。プロポーズみたいで。
なまじ買える金額を今持っている事が悩ましいな。う~ん。どうするか・・・
「きれい・・・・」
・・・これはまさかねだられてるのか?いやでもここで簡単に買え与えちゃうと、簡単に貢ぐ男に思われないか?・・・いやしかし、これを見る限り買ってやりたいと思ってしまう。子供のねだりは反則だよな・・・。
「お嬢さん、お目が高い。それは私がたまたま王都に行った時に買い付けた一級品なんですよ。綺麗でしょう?」
「うん、きれい」
「それ、気泡とかが入っていない一級品のエメラルドを使ってるんでお高いんですよ。でもお嬢ちゃんかわいいからまけて90Sにしてあげますよ。お坊ちゃん、どうです?」
これは買わされる、俺はこの瞬間悟った。
いや買わされるという表現はちがうな。おそらくこのまま買わないでこの店をでてもフェルムは何も言わないだろう。でも後ろ髪を引かれる思いでこの店の方向を何度も振り向くに違いない。
そして悩みぬいた挙句、俺はその指輪を買ってしまった。
そういえば、もうすぐフェルムの誕生日5歳の誕生日だったな。かなり値は張るけど、誕生日プレゼントということで。それに最近フェルムは、心の整理がついて、また自分の両親の死を理解し始めたのか、ひどくふさぎこんでいる。この指輪がつらいときの心の拠り所となってくれればいいなという期待もある。それを踏まえればギリギリ許容できる価格だろう。また彼女は何も装飾品を持ってない。燃やされたからだ。だから一個ぐらい買ってあげたいとも思ってしまった。
「まいどあり~」
店主がニヤニヤしながら言ってきた。5歳児の男女のペアが指輪を買っていくのがほほえましいからだろうか?いや、自分の店のなかで一番高い商品が売れたんだ。恐らく利益も高い。そのことに対する嬉しさだろう。この店主はそんなに素行がよさそうじゃない若者だし、子供をみてほほえましいという感覚はきっとないだろう。
「はい、指輪、フェルムへの誕生日プレゼントだよ。緑色できれいだよね」
「え、でも、これ90Sもしたんだよ?もらえるわけない」
「いいんだよ、誕生日プレゼントなんだから。それにこれからもずっとよろしくおねがいしたいしね」
「・・・でも・・・」
「さ、つけてみて。」
「う、うん」
「・・・うん、とっても似合うよ。かわいい」
「・・・ありがとう」
フェルムの頬が赤くなっている。嬉しいのだろう。喜んでもらえて何よりだ。それにフェルムが本当に久々に凄く暖かみのある笑顔をみせてくれたし。ま、俺の懐はかなり寒くなったけど・・・。
「きれい・・・」
本当に嬉しいんだな。やばい、一度これをみちゃうと他にも何か買ってあげたくなっちゃう。こやつ、まさか『貢がせる女』ってやつか。天然だからなおさら≪性質|たち≫が悪いぞ・・・。気をつけなければ。
「それにプロポーズ?っていうのかな。それもしてもらっちゃったし。」
・・・へ?俺そんなこと一言もいってないっすけど。・・・どういうことだ?
・・・あ、『それにこれからもずっとよろしくおねがいしたいしね』って言いながら指輪を渡す。これって取り様によってはプロポーズの様じゃないか。おれはこの『よろしく』は仲良くの意味で使ったつもりだったんだが。いまさら言いなおせねぇ。恥ずかしすぎる。まぁ子供のときのことだし将来には関係しないだろう。
俺はみずからフラグを立てている事には全く気づかず、更に市場を見て回るのだった。