祖父は偉大なんだ
内科診療は午後3時に順調に終える。
忙しなくひっきりなしに外来患者を診るとドクターはどっと疲れてしまう。
臨床は初めての大学院生である。
疲れは不馴れなこともあるのだろう。
「先生1日ご苦労様でございました。丁寧に診ていただけましたって患者さんは喜んでいました」
内科外来の受付の小さなカーテンが掛けられる。
ナースが幕引きをして診察室は閉鎖である。
患者さんがひっきりなしに訪れた診察室。今はドクターとナースだけの甘い世界に様変わり。
好きな男にとことん甘えたいお嬢さん。
それが18のかわいいナースである。
ゆえに週に一回の診察室が大好きである。
「私心配してしまいました。先生が責任を取って辞めてしまうって…」
ふたりだけの世界。
大学院生の胸に泣きながら顔を埋めた白衣のナース。
目と目が合えば背伸びをして男と口唇を重ねる。
「僕が辞めると嫌かい」
イヤ~ン
「先生が辞めるなんて!意地悪さん言わないで。私がどれほど悲しい思いになるか」
男に口唇を奪われ満足そうに顔を埋める。
女の幸せを実感する。
「先生が辞めなくて良かった」
だって
「好きな先生とお逢いできなくなる」
ナースはどうかなっちゃうもん
イヤイヤと駄々っ子になり胸にしがみつく。
ナースは不幸になる
この世に生きる喜びを失う気概である。
「いつも先生と一緒にいたいもん」
"医師との結婚は夢物語"
診察室の幸せ。
医者とナース
密なる関係で満足しなければならない。
「私は先生の傍にいるだけでいいの」
家柄も違い
身分も果てしなく
月とスッポン
「さあっ診察室から帰ろうか」
ナースの淡い恋
ここまでがシンデレラ姫の定めである。
ロッカーで着替えると普通の女の子に戻るだけである。
「女子高生の積極性が私にあったらなあ」
しみじみ羨ましくも思えるのである。
医院にいる院長の祖父。
(双子の)孫にまつわる芸能界ゴシップを薄々知っていた。
「その週刊誌の写真だが」
記事を幾度か読み返してみる。
女子高生と
スキャンダル?
「おまえ(弟)か!」
学園の附属病院でドクターをしていたら兄の"トレンディ俳優"に間違えられた。
医学界にいるはずが弟
芸能界に組み込まれ
偶然にも間違えてこの弟を撮ってしまった。
「そうかっ。それを端に発したわけか」
名誉教授は巡り巡って附属病院院長職を辞任に追い込まれた。
ゴシップまがい写真一枚で
学園という一大コンツェルンの一角が崩れ落ちるとはいかなることか。
祖父は名誉教授の辞職に興味である。
なにかと疎い眼下にある私立大学経営の附属病院が詳しい事情が知りたくなった。
「おまえも(名誉教授の)院長先生の下にいたわけだ」
孫が学園で世話になったと思えば私立大学であれ妙な親近感を覚えてしまう。
まず学園にメールを送り名誉教授を教えてもらうのである。
社会的地位(医院経営)と名誉(大学教授)の院長はすぐに返信をいただく。
住所を見たら近くではないか。
「うん?なんだ」
灯台もと暗し
「医院の近くにお住まいになられているじゃあないか」
祖父はさっそく大学医学部"先輩"に連絡を入れてみる。
電話はお手伝いさんが出てくれた。
「学園の関係者の方でございますか?あいっすいません」
旦那さまは"学園"からのお電話は取り継ぐなっと申しております。
「あいにくでございます。ごめんくださいませ」
危うく切られそうである。
「いやはや。参りましたなワッハハ」
孫が大変なご迷惑をお掛けいたしました。
「お詫びを申し上げておきたいと思います」
迷惑?
お手伝いさんは旦那様を呼びにいく
「私に対してですか」
お詫び?
お孫さん?
「なんのことだね」
直接本人の口から言わせた方がよいだろう。
祖父は判断し大学院生の孫に替わる。
ギクッ
相手は大学の名誉教授でもある。
平謝りしてあまりある
「院長先生っ大変申し訳ございませんでした」
ことの発端は
附属病院が週刊誌に載ったのは
「私がゴシップに写真を撮られたことからでございます」
悪者になることが賢明であった。




