赤に魅了されて
──あぁ、なんて妖艶な姿なんだろう。
彼女の口端から垂れる赤。
僕はどうしようもないくらいに、彼女のその姿に魅了されていた。
□ □ □
吸血鬼を知っているだろうか。
人の型をしつつ、人の血を吸う人外だ。
血を吸われた者は眷属になる、太陽が苦手、にんにくが嫌い、銀の杭や銃弾でなければ絶命させることが出来ない、等々。
いろんな情報があるけれど、まぁあくまで創作物上の存在だ。
そんなおっかない奴らが存在していたら、我々人類はとうの昔に血を吸われ、吸血鬼様の眷属に成り下がっていることだろう。
「また吸血鬼の本読んでるの?」
高校の昼休み。
吸血鬼の本を開きながら思いを馳せていたら、委員長が話しかけてきた。
三つ編みで眼鏡をかけた、The委員長。
ただ、残念ながら実際に委員長というわけではなく、僕が勝手にそう呼んでいるだけだったりする。
「吸血鬼の何がいいの?」
「何がいい? そうだなー、僕達と同じような外見で人間社会に溶け込み、闇夜に鋭い牙を剥き出して襲い来る。そんなドキドキ感かなー」
「それって吸血鬼じゃなくてもいいんじゃない? 鬼とか口裂け女とか、私達みたいな外見で襲ってくる怪物なんていっぱいいると思うんだけど」
「まぁね。まぁ、僕がたまたま熱中したのが吸血鬼だったってことさ」
「なんかもっと凄い熱量で吸血鬼を語ってくるかと思ったんだけど、そうでもないんだね」
「僕達人間が熱く語れるほど吸血鬼のことを知っているわけじゃないってことさ」
「ふふふ。なんだか、吸血鬼に嫉妬しちゃうな」
「え?」
「ううん。あなた、吸血鬼のことが本当に好きなんだね」
委員長はそう言って、
「ねぇ、今日よかったら一緒に帰らない?」
「え、別にいいけど。僕に何か用事?」
「用事がないと誘っちゃダメ?」
「いや、別に……」
じゃあまた帰りにね、と言いながら委員長は自分の席へと戻っていく。
時計を見るとそろそろ昼休みが終わる時間だった。
時間管理も完璧だ。さすが委員長。
それにしても、ちょっとドキドキしてしまった。
□ □ □
放課後、僕と委員長は一緒に校舎を出た。
他愛のない会話をしながら、夕日で赤く染まった空の下を歩く。
同じ方向へと歩いている他の生徒達から見たら、僕と委員長はどのように見えるんだろうか。
そんなことを考えたけれど、そんな邪な考えはすぐに打ち消した。
「ねぇ、公園寄ってもいいかな?」
委員長が言った。
この後特に予定もないし、遅くならなければそれでいい。
大丈夫だよ、と僕は返した。
公園には誰もいなかった。
さっきまで小さい子達が遊んでいたのか、忘れられた小さいボールが風に吹かれてコロコロと転がっている。
僕はベンチを探してキョロキョロと辺りを見渡す。
すると、
「──あのさ」
委員長が声をかけてきた。
さっきまでと声色が違って感じた。
委員長の方を振り返る。
夕日を背にした委員長が、三つ編みをほどき、眼鏡を外して、僕を真剣な眼差しで見ていた。
風に揺れる長い髪。
眼鏡越しとはまた違って見える、大きな瞳。
僕の胸の鼓動が大きく高鳴る。
「あのさ、私じゃダメかな?」
「え、あ、ダメって……何が?」
動揺しながら、質問を質問で返す。
だって、私じゃダメかな? の意味が分からなかったから。
委員長は僕に歩み寄り、目の前までやってくると、突然抱きついてくる。
「え、えあ、い、委員長!?」
驚きと恥ずかしさで動揺した声を上げた、その時だった。
首の下の方に、強烈な痛みが走った。
僕は痛みに驚き、委員長を突き放す。
痛みを感じた部位を触ると、ヌメっとした感覚。
触った手を見てみると、赤い赤い血が付着していた。
僕は赤く濡れた手から、視線を突き放した委員長へと動かす。
委員長は、口端から僕の血を垂らしながら、じっとこちらを見ていた。
その姿はまるで、
「ねぇ、私が吸血鬼だっていうことじゃ、ダメかな?」
僕が熱中している吸血鬼、そのものだった。
委員長はただの人間だ。
委員長の歯は尖っていないし、太陽で灰になったりしないし、血を吸ったからって僕が眷属になるわけじゃない。
けれど、僕の好きな吸血鬼になろうとしてくれた彼女は、とても魅力的だった。
──あぁ、なんて妖艶な姿なんだろう。
彼女の口端から垂れる赤。
僕はどうしようもないくらいに、彼女のその姿に魅了されていた。
血の気の多い恋愛でした。




