魔女先輩とダウジング
その日、部室に入ると、先輩は針金ハンガーを曲げて作ったL字型の棒を両手に持っていた。
「あ、透くん。いいところに。ちょっとこれ持ってみて」
「……なんですか、これ」
「ダウジングロッド。探し物を見つけるための魔法の道具だよ」
静久先輩は、またしても胡散臭いアイテムを得意げに掲げている。
窓からの風で、サラサラの黒髪が揺れる。今日も先輩は無駄に神秘的で、無駄に美しい。
「ダウジング……ですか。地下水脈や鉱脈を見つけるというあれですね」
「そう。でも、もっと身近な探し物にも使えるの。透くん、昨日『生徒手帳』なくしたでしょ?」
僕はカバンを置こうとした手を止めた。
心臓がドクリと鳴る。
「……なんで、それを」
「ふふ、魔女には何でもお見通しだから」
先輩は口元に人差し指を当ててウインクする。
実は昨日の帰り道、ポケットに入れたはずの手帳がないことに気づき、家で青ざめていたところだ。誰にも言っていないはずなのに。
「まさか、水晶玉で見たんですか?」
「ううん。今日はこのダウジングで、手帳のありかを探しに行こうと思って」
先輩は僕にL字ロッドを一本押し付けると、もう一本を自分の右手に持った。
強引に部室の外へ連れ出される。
「先輩、言っておきますけど、ダウジングは科学的に説明がつくんですよ。『不覚筋動』現象です」
「ふかくきんどう?」
「はい。何かを見つけたいという無意識の願望が、微細な筋肉の動きとなって棒を動かすんです。超常現象じゃなくて、ただの自己暗示です」
廊下を歩きながら、僕は早口でまくし立てた。
先輩のペースに巻き込まれないための、精一杯の防御策だ。
「ふーん。透くんは相変わらず理屈っぽいねぇ」
「事実ですから。だから、こんな棒で手帳が見つかるわけが――」
その時だった。
先輩が突然立ち止まり、僕の方へ振り返る。
僕と先輩の距離、わずか五十センチ。
先輩の手にあるロッドが、くるりと回転して、ピタリと僕の胸元を指した。
「……動いた」
「え?」
「透くんの方を向いたよ。この反応は……『運命の人』を探知したのかな?」
先輩は真顔でそんなことを言う。
廊下の静けさも相まって、破壊力は抜群だった。
「なっ……! ふ、不覚筋動です! 先輩が今、僕をからかおうと意識したから筋肉が動いただけです!」
「あはは、また顔真っ赤。反応が良すぎて楽しいなあ」
先輩はコロコロと笑うと、再び歩き出した。
僕は熱くなった頬を手の甲で冷ましながら、その後ろをついていく。くそ、また遊ばれた。
たどり着いたのは、昇降口の下駄箱前だった。
「ここだよ。反応が一番強い」
「ここって……僕の下駄箱じゃないですか」
「開けてみて」
言われるがままに扉を開ける。
上履きの上に、見慣れた黒い手帳がちょこんと乗っていた。
「あった……!」
「ほらね。ダウジングの導きは絶対なんだよ」
先輩は胸を張る。
確かに見つかった。見つかったが、納得がいかない。
僕は手帳をポケットにしまいながら、ジト目で先輩を見る。
「……先輩。これ、最初から場所を知ってたんじゃありませんか?」
「まさか。疑り深いなぁ」
「じゃあ、なんで昨日の時点で僕が無くしたことを知ってたんですか」
「それは……昨日のクレープ屋で、透くんがリュック開けた時に落としたのが見えたから」
「やっぱり! じゃあ、その時に教えてくださいよ!」
「だって、教えちゃったら……」
先輩は言葉を区切ると、少しだけ寂しげな笑みを浮かべた。
「こうやって一緒に、学校の中を探検できなかったでしょ?」
――ズキュン。
胸の奥で何かが撃ち抜かれる音がした。
反論の言葉が喉で詰まる。そんなふうに言われたら、怒れるわけがない。
論理的思考がまたしてもショートする。
「……次は、もっと早く教えてください。困りますから」
「はいはい。善処します」
先輩は満足そうに微笑むと、踵を返して歩き出した。
夕日に照らされたその背中は、やっぱり魔女みたいに掴みどころがない。
――もちろん、僕は知らない。
静久先輩が、手の中のダウジングロッドを強く握りしめていることを。
『……危なかったー。実は下駄箱に入れたの私だって言ったら、透くん怒るかな』
『でも、昨日の帰りに私が拾って預かってたなんて言ったら、わざわざ今日こっそり戻した工作がバレちゃうし……』
『ま、透くんと長く一緒にいられたから、いっか』
オカルト部の魔女先輩は、今日も僕の論理を煙に巻き、ほんの少しの独占欲を隠している。




