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オカルト部の魔女先輩は、僕の心が読めている(気がする)  作者: NN


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12/19

魔女先輩と反動形成

 翌日の放課後。

 僕は部室のドアの前で、五分間も立ち尽くしていた。


(……入れるわけがない)


 脳内で昨日の記憶がリフレインする。

 土砂降りの雨。相合傘。そして、僕が放った台詞。


 ――『分かりにくい嘘を解読するのが好きですよ』


「うわああああああああ!」


 廊下で一人、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 何だあれ。何様のつもりだ。ポエムか? 酔ってたのか? 雨の音響効果による一時的な脳内麻薬エンドルフィンの過剰分泌か?

 科学的に分析しても、結論は一つ。**「死ぬほど恥ずかしい」**だ。


 あんなことを言った翌日に、どんな顔をして先輩に会えばいい?

 きっと先輩のことだ。「昨日の王子様モード、もう一回やってよ~」と徹底的にいじり倒してくるに決まっている。

 

 逃げたい。でも、部活をサボれば余計に怪しまれる。

 僕は深呼吸を三回し、決死の覚悟でドアノブに手をかけた。


 ガチャリ。


「……失礼します」

「あ……お、おはよう、透くん」


 部室には、静久先輩が一人でいた。

 窓際の定位置。でも、今日は紅茶を飲んでいない。

 僕が入ってきた瞬間、ビクリと肩を震わせ、読んでいた本をバッと持ち上げた。


「……おはようございます」


 気まずい。

 空気が重い。窒息しそうだ。

 僕は逃げるように自分の席につき、鞄から参考書を取り出した。文字なんて一文字も頭に入ってこないけれど。


 ――チラッ。


 視線を感じる。

 顔を上げると、先輩が本の隙間からこちらを覗き込んでいた。

 目が合うと、サッと本で顔を隠す。


「……先輩」

「は、はいっ!」


 先輩が裏返った声を出した。


「本、逆さまですよ」

「えっ? あ、これは……そ、そう! 逆位置の魔術的解釈を研究していただけだから! 決して動揺しているわけでは……!」


 先輩は慌てて本を戻そうとして、手から滑り落とし、それを拾おうとして机の角に頭をぶつけた。


「いった……!」

「大丈夫ですか」


 明らかに様子がおかしい。

 いつもの余裕はどこへ行った。魔女というより、ただのドジっ子だ。


「……そ、それで透くん。今日の実験だけど」


 先輩が、おでこをさすりながら話題を変えてきた。

 よかった。いつもの実験からかいが始まるなら、僕も平常心を取り戻せる。


「今日は何を? また変なジュースですか?」

「ううん。今日は……その……『ポッキーゲーム』による心理的距離の測定とか……どうかな?」


 時が止まった。


「……は?」

「あ、いや! 深い意味はなくて! ほら、棒状のお菓子を互いに齧ることで発生する緊張感のデータを……!」


 先輩の顔がみるみる赤くなっていく。

 テンパりすぎて、ハードルが高すぎる提案をしてしまったことに今気づいたらしい。


(いや、無理だろ)


 今の僕たちの精神状態でそんなことをしたら、確実にどちらかが心停止する。

 僕も顔が熱くなるのを感じながら、必死に拒絶した。


「き、却下です! 衛生面において非合理的です! それにデータの再現性がありません!」

「だ、だよね! 我也そう思う! 非合理的だよね!」


 二人して早口で否定し合う。

 なんだこれ。地獄か。

 もう駄目だ。限界だ。

 誰か、この空気を変えてくれ。誰でもいい。


 バンッ!!


 その時、救世主が現れた。


「マスタァァァーーー!! 大変です!!」


 アルミホイル帽子を被った漆間うるまが、ドアを蹴破る勢いで飛び込んできた。


「漆間!」

「漆間くん!」


 僕と先輩の声がハモった。

 漆間は驚いたように目を白黒させたが、すぐに真剣な顔に戻った。


「校庭に! 校庭にミステリーサークルが出現しました! ついに宇宙人がコンタクトを!」

「よし! 至急、現場検証に向かいましょう! これは高度な科学的調査が必要です!」

「行こう! すぐ行こう!」


 僕たちは弾かれたように立ち上がり、漆間を置き去りにする勢いで、部室を飛び出した。


 *


 校庭には、ただのサッカーのセンターサークル(石灰の白線)があった。

 漆間がその中心で「宇宙パワーを感じる……!」と瞑想しているのを、僕と先輩は少し離れたベンチから眺めていた。


 外の風は涼しい。

 部室の密室空間から解放され、ようやく心拍数が落ち着いてきた。


「……ふぅ」


 ため息が出る。

 横を見ると、先輩も小さく息をついていた。


「……透くん」

「はい」

「昨日のこと……忘れてって言ったけど」


 ドキリとした。

 先輩はグラウンドを見つめたまま、足をぶらぶらさせている。


「……まだ、覚えてる?」

「忘れました。メモリから完全に消去し、上書き保存しました」


 僕は即答した。

 あれは黒歴史だ。二度と思い出したくない。


「……そっか」


 先輩の声が、少しだけ弾んだ気がした。

 えっ、と横を見る。

 先輩はこちらを見て、ニヤリと笑っていた。

 いつもの、悪戯っぽい魔女の笑顔だ。


「残念。私はバックアップ取ってあるけどね」


 先輩は悪戯っぽく微笑み、僕の隣に座り直した。

 昨日より、ほんの数センチだけ、距離が近い気がした。


「ほら、見て透くん。漆間くんが鳩に囲まれてる」

「……平和ですね」


 僕たちは並んで、夕焼けに染まる校庭を眺めた。

 昨日のような劇的な展開はない。甘い言葉もない。

 でも、この「言わなくても通じ合っている」沈黙が、今の僕たちには心地よかった。


 忘れるわけがない。

 あの雨の音も、体温も。

 理屈屋の僕は、まだしばらく、この「もどかしい距離」を楽しめそうだ。

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