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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第5部

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第89話:それぞれの怒り


 マルクス殿が執務室を去った後も、僕たちは誰一人としてその場を動くことができなかった。

 部屋の空気はまるで鉛のように重く、息をするのも苦しいほどだ。


 王国が突きつけてきた二つの鎖。「重税」と「徴兵」。

 それは聖獣の郷の未来そのものを奪い去る、死の宣告に等しかった。


 沈黙を破ったのは、グルドさんの怒りに満ちた声だった。

 彼はテーブルを拳で力強く叩き、その衝撃でインク瓶がカタカタと音を立てる。


「――話にならん! 断じて、断じて受け入れられる要求ではないわ!」


 グルドさんの顔は、まるで工房の炉のように真っ赤に燃え上がっていた。


「我らドワーフは、誇り高き山の民だ。たとえ相手が誰であろうと、理不尽な要求に屈したことは一度もない。ましてや、我らの子らを、未来を担う若者たちを意味もなく戦の駒として差し出すなど……! そんな屈辱、死んでも受け入れられるか!」


 彼の言葉は、ドワーフ族全体の魂の叫びだった。

 彼らは仲間と家族のためならば命を懸けて戦うことを厭わない。しかし、その命を見ず知らずの王国の都合で安売りするつもりは毛頭なかった。


「グルド殿の言う通りだ」


 次に口を開いたのはリアムだった。

 彼の表情はグルドさんとは対照的に氷のように冷え切っていたが、その瞳の奥には静かな怒りの炎が燃え盛っているのが分かった。


「感情論は抜きにして、商人として冷静に分析させていただきますが……この要求を呑むという選択はあり得ません。我々は、経済的に緩やかに殺されるだけです」


 リアムは懐から算盤を取り出すと、驚くべき速さでそれを弾き始めた。


「勅令通りの税を納めれば、聖獣の郷の年間歳入は現在の8割減となります。これでは冬を越すための備蓄はおろか、日々のインフラ維持すらままならない。新たな開拓や技術開発など夢のまた夢。我々はただ生きるために働き、その成果のほとんどを王国に搾取され続けることになる」


 彼は算盤を置き、僕たち一人一人の顔を見回した。


「それは、緩やかな死です。我々が築き上げてきたこの場所は活力を失い、ただ王国に寄生されるだけの抜け殻となるでしょう。そんな未来に、何の価値がありますか?」


 グルドさんの誇りをかけた反対。

 リアムの冷静な分析。


 どちらも、王国への徹底抗戦を訴えていた。

 そして、最後に口を開いたのは、ずっと唇を噛み締めていたミリアだった。


「……私は、お二人のように誇りや経済の難しいことは分かりません」


 彼女はそう前置きすると、震える声で、しかし強い意志のこもった瞳で僕をまっすぐに見つめた。


「ですが、一つだけ確かなことがあります。それは、この要求を呑むことはリオ様が目指してきた国のあり方を、リオ様自身が否定することになる、ということです」


「……!」


「リオ様は、全ての民が種族や出自に関係なく、笑って暮らせる国を作りたいと仰いました。飢えや差別に苦しむことなく、誰もが未来に希望を持てる国を、と。……この要求は、その全てを踏みにじるものです。民から笑顔を奪い、未来への希望を奪う選択など、リオ様が望むはずがありません!」


 ミリアの言葉は、僕の理念そのものを代弁していた。

 そうだ。僕が作りたかったのは、こんな国じゃない。

 誰かの犠牲の上に成り立つ偽りの平和など、僕が望んだものではない。


「ミリアの言う通りだ」


 僕は静かに立ち上がった。

 グルドさん、リアム、ミリア、そして僕の隣に立つセブン。聖獣の郷の幹部全員の視線が、僕に集まる。


「この要求は、断じて受け入れられない。それは、僕たちの魂を売り渡すことに等しい」


 僕の決意に、グルドさんが力強く頷く。


「おう! それでこそ、我らが認めた男だ!」


 リアムも、満足げに口の端を上げた。


「賢明なご判断です。ならば、我々がすべきことは一つですな」


 ミリアも涙を浮かべながら、しかし力強い笑みを見せた。


「はい。私たちは、戦います!」


 それぞれの怒り。それぞれの立場からの反対。

 しかし、その想いは一つだった。


「「「我らの郷を、我らの手で守る」」」


 幹部たちの声が、一つに重なる。

 それは、聖獣の郷というコミュニティが初めて王国に対して明確な敵意を抱いた瞬間だった。


 残された時間は、三日。

 僕たちは、迫りくる脅威に対し戦うことを選んだ。

 たとえ、その先に待っているのが圧倒的な戦力差という絶望的な現実だとしても。


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