表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第5部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/100

第83話:祭りの名は「ミズガルズ」


 農耕ゴーレムと環境制御温室の本格稼働により、聖獣の郷の食糧事情は劇的な改善を見せた。

 黄金色の小麦が風に揺れ、温室では季節を問わず瑞々しい果物が実る。

 誰もが飢えの心配なく日々の労働に励むことができる。そんな、かつては夢物語だった光景が今や日常となっていた。


 豊かな実りの秋を迎えたある日、僕は聖獣の郷の主要メンバーを集めて一つの提案をした。


「――また、祭りですか?」


 僕の言葉に、ミリアが嬉しそうに瞳を輝かせた。

 以前、まだこの地が聖獣特区と呼ばれていた頃に開いた、第一回の大収穫祭を思い出したのだろう。

 会議室には僕とミリアの他に、ドワーフの長であるグルドさん、エルフの商人リアム、そして僕の秘書であるセブンが集まっていた。あの頃の収穫祭にはいなかった顔ぶれだ。


「うん。でも、今度は少し趣向を変えたいんだ」


 僕は続ける。


「以前の収穫祭は、僕たちがこの地で生き抜いてきた証を祝うためのものだった。でも、今はどうだろう。グルドさんたちドワーフも、リアムたちエルフも加わり、僕たちは多様な文化を持つ一つの大きな家族になった。だから、ただの収穫祭じゃない。この豊かな実りに感謝すると同時に、僕たち全員の文化を祝い、互いを尊重しあうための、全く新しい『統一祭』として開催したいんだ」


 僕の提案に、会議室は一瞬静まり返った。

 しかし、その静寂を破ったのはグルドさんの豪快な笑い声だった。


「祭りか! そいつはいいな! ドワーフの祭りは炎と鉄の祭りだ! 一晩中、炉の火を絶やさず、酒を酌み交わしながら自慢の武具を打ち鳴らすのよ!」

「待ってください、グルド殿」


 グルドさんの言葉を遮ったのはリアムだった。彼はやれやれと肩をすくめる。


「我々エルフにとって、祭りは静寂と共にあるものです。星々の運行に感謝を捧げ、森の精霊たちと対話する神聖な儀式。あなた方のように、ただ騒ぐだけのものは祭りとは言えませんな」

「なんだと、リアム! 祭りが騒がなくてどうする!」

「品がないと言っているのですよ」


 途端に睨み合いを始めるグルドさんとリアム。

 ミリアが慌てて仲裁に入った。


「お二人とも、落ち着いてください! 私たち獣人族の祭りは、大地の実りへの感謝が中心です。みんなでご馳走を分け合い、歌って踊るのが習わしですから……どちらかというと、ドワーフさんの祭りに近いかもしれません」


 ミリアの言葉に、グルドさんは「見ろ、リアム!」と勝ち誇った顔をし、リアムはますます眉間の皺を深くする。


 獣人族の「収穫への感謝」。

 ドワーフの「炎と鉄への祈り」。

 エルフの「星々への敬意」。


 それぞれが各種族の文化の根幹にある思想だ。どれもが尊く、大切なもの。これらを無理やり一つにまとめることは、彼らの誇りを傷つけることになりかねない。


 議論は平行線を辿り、会議は暗礁に乗り上げかけた。

 その時、それまで黙って議事録を取っていたセブンが静かに口を開いた。


「提案します。各種族の文化を『融合』させるのではなく、『尊重』し、一つの祭りの期間内にそれぞれの儀式を『並行開催』してはいかがでしょうか」

「並行開催?」

「はい。例えば、祭りの初日はエルフの様式に則り、星々を迎える静かな儀式を執り行う。二日目は獣人族の伝統に従い、収穫した作物を使った料理を皆で分かち合う。そして最終日には、ドワーフの祭りのように広場で盛大に火を焚き、歌い踊る。そうすれば、各種族の文化を損なうことなく、互いの文化を理解し、尊重する機会にもなります」


 セブンの論理的かつ具体的な提案に、僕たちは目から鱗が落ちる思いだった。

 グルドさんもリアムも、それならばと納得の表情を浮かべている。


「なるほどな。俺たちの儀式も尊重されるなら文句はねえ。それに、エルフの小難しい儀式とやらを肴に酒を飲むのも、一興かもしれん」

「……それは聞き捨てなりませんな。ですが、まあ、あなた方の騒がしいだけの宴も、たまには悪くないかもしれません。提案を受け入れましょう」


 こうして、聖獣の郷初となる統一祭の基本方針が固まった。

 最後に、僕はこの祭りの名前について一つの提案をした。


「この祭りの名前なんだけど……『ミズガルズ祭』というのはどうかな」


 ミズガルズ。

 古代語で「人の住まう世界」を意味する言葉。

 そこには、獣人もドワーフもエルフも人間も、全ての種族が「人」として共に生きる国、という僕の願いが込められている。


 僕の言葉の意図を、ここにいる誰もが理解してくれた。


「ミズガルズ祭……。いい名前ですね、リオ様」


 ミリアが嬉しそうに微笑む。

 グルドさんもリアムも、満足げに頷いていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ