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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第5部

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第81話:古代文明の遺産


 聖獣の郷に新しい朝が来た。

 それはただの日々の繰り返しではない。未来が大きく変わる、まさにその瞬間だった。


 僕とミリア、それからグルドさんたちドワーフ一同は、遺跡から運び出された一体の農耕ゴーレムを囲んでいた。

 場所は新しく整備された広大な畑の前だ。

 グルドさんたちが総力を挙げて整備したゴーレムは、眠りから覚めた巨人という表現がしっくりくる。鈍い金属の光沢を放つその姿は、威圧感と機能美が同居していた。


「よし、準備はいいか!」


 グルドさんの張りのある声が飛ぶ。

 ドワーフたちが最終チェックを終え、大きく頷いた。


「いつでもいけますぜ、長老!」

「魔力回路、安定しています!」


 その報告を受け、僕の隣に立つセブンが一歩前に出た。

 彼女の瞳が淡い光を放ち、ゴーレムとリンクする。


「農耕プログラム、ロード完了。第一次起動シーケンスに移行します。――起動」


 セブンの涼やかな声が響いた瞬間、ゴーレムの単眼レンズに赤い光が灯った。

 ズシン、と大地を揺るがす重低音と共に、巨人がゆっくりと身を起こす。その動きは巨体からは想像もつかないほど滑らかだった。


「おお……!」


 ミリアが息を呑む。

 僕も、その光景から目が離せなかった。


 起動したゴーレムはプログラムに従い、畑の一端へと移動する。

 その両腕から巨大なすきを展開させると、一糸乱れぬ動きで硬い大地を耕し始めた。

 人間が十人がかりで一日かけても終わらないような範囲を、ゴーレムはわずか数分で耕していく。しかも、完璧な深さと間隔で。


「す、すごい……。これ一台で、私たちの今までの苦労は一体……」


 ミリアが呆然と呟く。

 彼女の気持ちは痛いほど分かった。僕たちが汗水流して開拓してきた土地。その労力を、この巨人は圧倒的な効率で過去のものにしていく。

 それは感動と同時に、ある種の畏怖を抱かせる光景だった。


「はっはっは! どうだ、リオ! これが古代文明の技術よ! 俺たちの手で蘇らせたんだ!」


 グルドさんが自分のことのように胸を張る。その顔は誇りと喜びに満ち溢れていた。

 この日のために、彼らはずっと工房に籠りきりだったのだ。


「はい、本当にすごいです、グルドさん。ありがとうございます」


 僕の感謝の言葉に、グルドさんは照れくさそうに鼻をこすった。

 この農耕ゴーレムが量産体制に入れば、聖獣の郷の食糧生産能力は飛躍的に向上するだろう。民はもう飢えの心配をすることなく、安心して暮らせるようになる。


 僕たちの興奮は、それだけでは終わらなかった。

 次に向かったのは、同じく遺跡から移設された環境制御温室だ。


 ガラス張りの巨大なドームに足を踏み入れた瞬間、僕たちは息を呑んだ。

 外は肌寒い秋の気候だというのに、温室内は春のような暖かさに満ちている。

 天井に浮かぶいくつもの球体が、まるで太陽のように眩い光を放っていた。


「これが……人工太陽……」


 セブンの解説によれば、この光は本物の太陽光とほぼ同じ成分で、作物の成長を最大限に促進させるらしい。

 その証拠に、温室の中では本来なら夏にしか採れないはずの瑞々しい果物がたわわに実っていた。


「信じられない……。冬でも野菜が育つなんて……。これがあれば、食糧問題は完全に解決できます……!」


 ミリアが感極まったように声を震わせる。

 僕も同じ気持ちだった。

 これで、厳しい冬の間も民に新鮮な野菜や果物を供給できる。病気の予防にも繋がり、子供たちの健やかな成長にも貢献できるだろう。

 僕が夢見た楽園が、また一歩、現実のものとなったのだ。


 僕は手元の果物を一つ手に取り、その重みと温かさを確かめる。

 聖獣の郷の未来そのものが、この手の中にあるような気がした。


 その時だった。

 僕の隣にいたセブンが、誰にも聞こえないような小さな声で僕にだけ話しかけてきた。


「マスター。喜んでいるところ申し訳ありませんが、一つだけ警告しておきます」

「警告?」


 僕は彼女の方を向いた。

 セブンのアメジストの瞳は、目の前の希望に満ちた光景ではなく、もっと別の遠い何かを見ているようだった。


「これらの古代文明の技術は、あくまで『再生産』と『繁栄』のために最適化されたものです。かつてこの文明を滅ぼした『脅威』……その前では、この程度の力は無力である可能性を忘れないでください」

「脅威……。セブン、それは一体……」


 僕が問い返そうとした瞬間、セブンはふっと表情を消し、いつもの無機質な秘書に戻っていた。


「さあ、マスター。次の予定が迫っています。スケジュール管理も私の重要な任務ですので」


 彼女はそう言って僕を促す。

 僕は彼女の言葉の真意を測りかねたまま、その場を後にするしかなかった。


 古代文明の遺産がもたらした、計り知れないほどの豊かさ。

 その光の裏に潜む、セブンだけが知る不吉な影。


 聖獣の郷の未来は、輝かしい希望とまだ見ぬ脅威の予感の中で、静かに動き始めていた。


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