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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第4部

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第71話:地下の楽園


 僕たちは農耕ゴーレムが眠る巨大な格納庫を後にした。

 どうやって動かすかという大きな課題は残されたままだが、今はこの遺跡の全体像を把握することが先決だった。


 格納庫の奥にはさらに通路が続いていた。

 今までの無機質な通路とは少し違い、壁には太いパイプのようなものが何本も張り巡らされている。

 そのパイプに耳を当てると、中を液体が流れるような微かな音が聞こえた。


「……水、でしょうか。あるいは魔力か……。この遺跡はまるで一つの巨大な生命体のようです。血管や神経のように施設全体にエネルギーを供給しているのですね」


 リアムが感嘆の声を漏らす。

 僕たちはそのパイプが導く先へと慎重に足を進めていった。


 しばらく進むと僕たちはある変化に気づいた。

 通路の奥からこれまで感じたことのない温かい空気が流れてくるのだ。

 暗闇の向こうにほのかなオレンジ色の光が揺らめいているのが見えた。


「……火か? いや、違う……。この光はもっと……」


 グルドさんが訝しげに目を細める。

 僕たちはその光に導かれるように通路を抜けた。


 目の前に広がった光景に僕たちは今日、何度目か分からない驚愕の声を上げることになった。


「――なんだ……。これは……」


 そこは信じられないほど広大な巨大なドーム空間だった。

 元々は天然の鍾乳洞だったのだろう。天井から長い年月をかけて形成されたであろう巨大な鍾乳石が無数に垂れ下がっている。


 けれど僕たちが目を見張ったのはその規模ではなかった。


 そのドームの遥か高い天井の中央に巨大な球体が浮かんでいたのだ。

 その球体はまるで第二の太陽のように力強く、そして温かい光を放ち、この広大な地下空間のすべてを隅々まで照らし出していた。


「人工……太陽……?」


 リアムが呆然と呟いた。

 その人工太陽の光に照らされたドームの内部。そこはまさに楽園と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。


 どこまでも広がる青々とした草原。キラキラと輝く清らかな小川のせせらぎ。

 地上では見たこともないような色とりどりの、奇妙で美しい植物たちが生き生きと咲き誇っていたのだ。


「すごい……。なんて場所だ……」


 ミリアがうっとりとした表情でその光景に見入っていた。

 彼女はまるで何かに導かれるようにふらふらと近くの花畑へと歩み寄る。

 それからその完璧に管理されたふかふかの土を、そっと両手ですくい上げた。


「……土が生きている。温度も、湿度も、栄養も、すべてが完璧に管理されているわ。こんな環境ならどんな作物だって最高の状態で育つはず……。まるで農業の神様がお作りになった庭だわ……」


 農業の専門家である彼女にとってこの光景は奇跡以外の何物でもなかったのだろう。

 僕も彼女の隣に膝をつき、【土地鑑定】スキルを発動させた。

 僕の脳内に流れ込んできた情報に僕はミリア以上の衝撃を受けることになった。


「……ミリア。この果実を見て」


 僕は近くに実っていたルビーのように赤い果実を指さした。


「この果実は『サン・ベリー』。たった一粒で成人男性の一週間分の栄養素をすべて摂取することができる」


「えっ……!?」


「あちらの青い葉を持つ薬草は『リジェネ・リーフ』。その葉を傷口に貼ればどんな深い傷でも数秒で完全に塞がってしまう」


「そ、そんな……!」


 僕が鑑定結果を読み上げるたびに、ミリアとリアムが信じられないといった声を上げる。

 この地下農園で育てられている作物は、そのすべてが現代では失われてしまった驚異的な栄養価や薬効を持つ伝説級のものばかりだったのだ。


 古代文明は食料さえもこれほど高度なレベルで人工的に生産していたというのか。


 やがて僕はついにそれを見つけてしまった。


 ドームの一番奥。清らかな泉が湧き出るその水辺に、それはひっそりと自生していた。

 青白い幽玄な光を放つ美しい苔だった。


「……まさか。そんなはずは……。これはおとぎ話の中にしか存在しないはずの……」


 僕は震える足でその苔へと歩み寄った。

 鑑定結果を見て僕の全身に鳥肌が立った。


【ルミナス・モス】

【あらゆる病、呪い、毒を完全に浄化する力を持つ奇跡の苔】

【古代において『万能薬パナケイア』の原料として重宝された】


「……万能薬……」


 その言葉が僕の口からこぼれ落ちた。

 どんな病もどんな呪いさえも癒すことができる奇跡の薬。

 それはこの世界の誰もがその存在を信じながらも、誰も手にすることができなかった幻の秘薬。


 その原料が今、僕の目の前にある。


 これがあればもう誰も病で死ぬことはなくなる。

 不治の病に苦しむ多くの人々を救うことができる。


 僕たちの調査の目的は今この瞬間、大きくその意味を変えた。

 これはもう僕たちの村だけの問題ではない。

 この世界のすべての人々の運命を左右する大発見なんだ。


「……行こう」


 僕は固い決意を胸に仲間たちに向き直った。


「この楽園を管理しているこの遺跡の中枢部がこの先に必ずあるはずだ。僕たちはそこへ行かなければならない」


 僕の言葉に仲間たちは力強く頷いた。

 僕たちの心は今、一つになっていた。

 この奇跡を必ず地上へ持ち帰るのだ、と。


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