第65話:調査団、結成
僕たち四人が興奮と緊張が入り混じった複雑な表情で村に帰還した時、村人たちはすぐに何か重大なことが起きたのだと察したようだった。
僕たちは多くを語らず、すぐに村の幹部たちを全員集会所に集めるよう要請した。
集会所はすぐに満員になった。
兎獣人族の長老、ドワーフの職人頭、獣人族の狩猟隊長……。
村の運営を担う全ての顔が固唾を飲んで僕の言葉を待っている。
僕は壇上に広げた地図の北の山岳地帯を指し示し、そこに隠されていた古代遺跡の扉について発見の経緯を簡潔に説明した。
「――以上の理由から、私はこの古代遺跡の公式な調査を提案します。これは村の総力を挙げて行うべき極めて重要な事業です」
僕の宣言に集会所は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「古代遺跡だと……!?」
「あの北の山にそんなものが……」
そんな中、兎獣人族の長老が慎重な面持ちで口を開いた。
「リオ様。そのお話が真実であることは疑いませぬ。しかし古代の遺跡には強力な罠や呪いが仕掛けられていると聞きます。我々が手を出すにはあまりに危険すぎるのではないでしょうか?」
長老の懸念はもっともだった。
僕もその危険性は十分に理解している。
けれど僕は静かに首を横に振った。
「危険は承知の上です。ですがその危険を冒してでも手に入れるべき価値が、あの遺跡には眠っていると僕は確信しています。僕のスキルが視たあの高度な文明の記憶……。もしその技術の一端でも僕たちが手にすることができれば、僕が掲げた『完全な自立』という目標は決して夢物語ではなくなるんです」
僕の力強い言葉に最初に反応したのは、やはりグルドさんだった。
「フンッ! 古代の扉と聞いて血が騒がねえドワーフがいるかよ! どんな罠があろうとワシらの槌と知恵でこじ開けてやるまでだ! リオ、このグルド・ハンマーフォールと我が息子たちに任せておけ!」
彼は胸を叩き、全面的に賛成の意を示してくれた。
続いてリアムが優雅な仕草で口を開く。
「古代文明の遺物……。もしそれが市場に出回れば計り知れない富を生むでしょう。もちろん危険は承知の上。ですがハイリスク・ハイリターンこそ商売の醍醐味。それに、あの扉に刻まれていたという未知の魔法術式……。知的好奇心も大いにそそられますね」
最後にミリアが僕の隣に一歩進み出た。
彼女の瞳には心配の色が浮かんでいたが、それ以上に僕への深い信頼が宿っていた。
「……リオさんが村の未来のために必要だと判断なさったことなら、私は従います。ですが、どうかご無理だけはなさらないでください。あなたの身に何かあれば元も子もないのですから。護衛隊長として私が必ずあなたをお守りします」
三人の力強い支持表明に、他の幹部たちの間の不安も次第に期待へと変わっていった。
こうして聖獣の郷、初の大規模プロジェクト「古代遺跡調査団」の結成が満場一致で可決されたのだった。
メンバーの選抜はすぐに行われた。
まず、調査団の団長は発起人である僕、リオ・アークライト。
副団長兼護衛隊長にはミリアが就任した。
彼女の指揮の下、村で最も戦闘能力の高い獣人族の戦士たちが護衛隊として参加する。
そして今回の調査の要である扉の解体と構造分析の専門家として、グルドさん率いるドワーフの職人チームが選ばれた。
彼らは巨大なハンマーやタガネだけでなく、精密な作業を行うための特殊な工具も携えている。
古代文字や魔法術式の解析担当にはもちろんリアムが就いた。
彼の持つエルフの古い知識と商人として培ってきた鑑定眼は、未知の遺物を解明する上で不可欠な力となるだろう。
さらに、罠の探知やルートの確保を行う斥候として、特に五感の鋭い兎獣人族と犬獣人族の若者たちが数名メンバーに加わった。
各種族の専門家たちがそれぞれの役割を担うために集う。
その光景はまさに僕が目指してきた「共生の村」の縮図そのものだった。
出発の日。調査団のメンバーが村の入り口に整列すると、そこには村人たちのほとんどが見送りに来てくれていた。
「リオ様、お気をつけて!」
「グルドの爺様、怪我すんなよ!」
「ミリア姉ちゃん、頑張ってー!」
それは僕が一人で荒野に追放された時や、不安を胸に王都へ旅立った時とは全く違う光景だった。
村全体の希望と期待を一身に受けた誇らしい冒険の始まり。
僕たちはその温かい声援に手を振って応えると、固い決意を胸に北の山岳地帯へと向かって力強く歩き出した。
そして再び、あの巨大な扉の前へ。
数千年の時を経て今なお沈黙を続ける古代遺跡の入り口。
その圧倒的な存在感を前に、調査団の誰もがごくりと息をのんだ。
そんな静寂を破ったのはグルドさんの野太い声だった。
「――よし、野郎ども! 腕が鳴るぜ! 仕事の時間だ!」
その号令と共に屈強なドワーフたちが巨大な工具を構え、雄叫びを上げた。
彼らの創造への情熱が古代の謎への最初の挑戦を告げていた。