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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第3部

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第56話:戦後処理と、小さな芽生え


 勝利の祝宴の喧騒が過ぎ去り、聖獣の郷には再び、穏やかで満ち足りた日常が戻ってきた。


 村の男たちは総出で森の『後片付け』に追われていた。

 アークライト軍が投げ捨てていった大量の武具の回収作業だ。


「おい、こっちにまだこんなに鎧が残ってるぞ!」

「剣も槍も選び放題だな! まあ、どれもこれもなまっくらだがな!」


 ドワーフたちはまるで宝探しでもするかのように、楽しげに声を上げながら鉄の山を築いていく。


「こいつらは一度、全部溶かしちまおうぜ」


 グルドさんが回収された剣の一本を、軽々とへし折りながら言った。


「こんな人を傷つけるためだけの道具なんざ、俺たちの村には必要ねえ。全部溶かして民のための鍬や鋤に作り変えてやる。その方がよっぽど、こいつらも浮かばれるだろうよ」


 その言葉に周りの者たちも、力強く頷いた。

 僕たちの村では剣よりも鍬の方が、ずっと価値があるのだ。


 女たちは兎獣人族の薬草師を中心に、森の「浄化」作業を行っていた。

 罠として使った催涙効果のある植物や幻覚キノコなどを、丁寧に摘み取っていく。


「全く、男衆は散らかすだけ散らかして、後始末は私たちなんだから」


 薬草師のサラさんがやれやれと首を振りながら言う。

 その口調は呆れているようで、されどどこか誇らしげだった。


 村の誰もがそれぞれの役割を果たし、自分たちの手で日常を取り戻していく。

 その光景は僕にとって、どんな勝利の報告よりも心に沁みるものがあった。


          ◇


 その日の夜。

 僕は一人、村が見渡せる小高い丘の上に座っていた。


 眼下には家々の窓から漏れる温かい光の粒が、まるで宝石のようにきらめいている。

 一つ一つの光の下に、僕が愛する家族たちの穏やかな暮らしがある。その事実が僕の心を、じんわりと温めた。


「――リオさん」


 不意に背後から、優しい声がした。

 振り返ると、そこにミリアが立っていた。その手には湯気の立つ、二つのマグカップが握られている。


「こんなところで一人で、何をしていたんですか?」

「……ミリア。いや、別に。ただ村を、見ていただけだよ」


 彼女は僕の隣に、そっと腰を下ろした。

 マグカップの一つを僕に手渡してくれる。中身は彼女が淹れてくれた、カモミールのハーブティーだった。


「……ありがとうございます」

「いえ……」


 僕たちはしばらくの間、何も言わずに眼下に広がる村の夜景を、ただ眺めていた。

 心地よい沈黙が僕と彼女の間を、優しく包み込む。


 先にその沈黙を破ったのは、ミリアの方だった。


「……怖かったです」


 ぽつりと彼女が呟いた。

 その声はいつものしっかりとした彼女の声ではなく、か細く震えていた。


「戦いが怖かったわけじゃありません。皆がリオさんを信じて一つになっていましたから。負けるなんて、思ってもいませんでした」


 彼女は膝の上で、自分の手をぎゅっと握りしめた。


「けれど……もし万が一、リオさんにもしものことがあったらって……。そう考えたら……夜も眠れませんでした」


 普段は決して人前で弱さを見せない、気丈な彼女。

 その彼女が今、僕の前でその心の内に秘めていた正直な恐怖を、吐露してくれていた。


 僕はなんと声をかけていいか、分からなかった。

 ただ彼女のその想いが、嬉しくて愛おしかった。


「……ごめん。心配かけたね」


 僕がようやく絞り出したのは、そんなありきたりな言葉だけだった。


「けれど、大丈夫だよ。僕にはミリアが、皆がついていてくれるから。僕はもう、一人じゃないから」


 僕は彼女を元気づけようと、精一杯の笑顔を向けた。


 その僕の言葉と笑顔に、ミリアははっとしたように顔を上げた。

 次の瞬間、彼女の頬が夕焼けのようにさっと赤く染まった。


「……! わ、私は別に、あなたのことだけを心配していたわけではありませんから! 領主様がいなくなったら村が困るって思っただけで……! か、勘違いしないでくださいね!」


 彼女は慌てたように早口でそう言うと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 その耳がぺたんと倒れている。照れている時の彼女の、可愛らしい癖だ。


 穏やかで温かい時間が、流れる。

 この時間がいつまでも続けばいいのに。僕は心の底から、そう願った。


 しかし、その甘い感傷を打ち破るように、丘の下から一つの人影がこちらへと向かってくるのが見えた。


 その優雅な、されどどこか常に緊張感をまとった歩き方は、リアムだ。


 彼は僕たちの前に立つと、静かに一礼した。

 その表情はいつになく、険しい。


「――リオ殿。お二人だけの時間を邪魔するようで大変申し訳ありませんが、新たなご報告が」


 その言葉に僕とミリアは、顔を見合わせた。

 どうやらこの村に、本当の平穏が訪れるのはまだ、少し先のことになりそうだった。


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