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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第2部

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第36話:仕組まれた試練


 ヴァイスの不吉な宣戦布告、その翌朝のことだった。

 彼は僕と村の者たちを広場に集めると、その冷たい紫色の瞳で僕たちを見下ろし、宣告した。


「――さて、リオ・アークライト。昨日君は、この土地が秘める大いなる価値とやらを私に示してくれた。けれど価値というものは、それを守る力があってこそ意味を成す。そこでだ。君たち聖獣特区の民が、その価値を守るに値する力を持っているのかどうか、今から最終査定として試させてもらう」


 その言葉と同時だった。

 彼の背後に控えていた騎士たちが、一斉に道を開ける。

 その後ろから現れたものを見て、僕たちは息をのんだ。


 それは一体の、巨大なゴーレムだった。

 全長は五メートルを優に超えるだろうか。全身は黒光りする鋼鉄の装甲で覆われており、そのずんぐりとした両腕は、それ自体が恐ろしい破壊兵器となっている。

 頭部に一つだけ埋め込まれた巨大な赤い魔導石が、不気味な光を明滅させていた。


「こ、これは……軍事用の魔導ゴーレム……!? ヴァイス様、あなた正気ですか! これはもはや査定などというものではない! ただの破壊行為だ!」


 僕の隣にいた兄上・バルドが、血相を変えて叫んだ。

 彼もアークライト家の人間として、このゴーレムがどれほど危険なものか、よく分かっているのだろう。


「これは虐殺だ! 今すぐおやめください!」

「黙れ、バルド・アークライト」


 ヴァイスは兄上の悲痛な叫びを、冷たく一蹴した。


「これは国王陛下の勅命による、公式な査定だ。君の家の内輪揉めに、私が付き合う義理はない。それに……」


 彼は兄上を嘲笑うかのように続ける。


「君の弟君がこの程度の試練で砕け散るというのなら、それこそが彼の器の限界だったということだ。違うかね?」

「ぐっ……!」


 兄上は屈辱に顔を歪ませた。

 ヴァイスはそんな彼に一瞥もくれることなく、ゴーレムに向かって静かに命じた。


「――始めろ」


 その一言を合図に、ゴーレムの赤い魔導石が禍々しい光を放つ。

 地響きと共に、その巨体が動き出した。


「う、うわあああああっ!」


 ゴーレムがその鋼鉄の腕を一振りするだけで、広場の隅にあった見張り櫓が、まるで子供の玩具のように粉々に砕け散る。

 木片が悲鳴と共に、宙を舞った。


「総員、戦闘準備! 絶対に村の中心には近づけるな!」


 僕は大声で指示を飛ばす。

 村の自警団の若者たちが、一斉に剣を抜きゴーレムに立ち向かっていく。


「くらえっ!」


 若者たちの渾身の一撃が、ゴーレムの足に叩き込まれた。

 しかし、甲高い金属音と共に、剣の方があっさりと折れてしまう。


「なっ……!?」

「駄目だ、硬すぎる! 刃が全く通らない!」


 ドワーフたちが自慢の戦斧で叩きつけても、結果は同じだった。

 ゴーレムの黒い装甲には、傷一つついていない。


 ゴーレムはそんな僕たちの攻撃を意にも介さず、ただゆっくりと村の中心部へと進んでいく。

 その一歩一歩が大地を揺らし、僕たちの希望を踏み砕いていくようだった。


 ミリアが放った魔法の矢も、装甲の手前で霧散してしまう。

 ギムガーさんが投げつけた鉄の塊も、乾いた音を立てて弾かれるだけだ。


「くそっ……! どうすれば……!」


 村人たちの顔に、絶望の色が浮かび始めた。

 このままでは僕たちの村が、家が、畑が、全てあの鉄の塊によって破壊し尽くされてしまう。


 何か方法はないのか。何か弱点があるはずだ。

 どんな強固な存在にも、必ず脆い一点があるはず……!


 僕は混乱する頭を必死に回転させた。そして、一つの可能性に思い至る。

 僕のこの【土地鑑定】スキル。それは土地だけでなく、そこにある鉱物や植物の情報をも読み取ることができる。

 ならばあるいは……。


 このゴーレムも、元はただの金属と石の塊のはずだ。

 鑑定できる可能性は、ある!


 僕はゴーレムの巨体に、意識を集中させた。

 頼む、動いてくれ、僕のスキル!


 すると僕の頭の中に、今まで感じたこともないほどの膨大な情報が、濁流のように流れ込んできた。


『名称:試作型魔導ゴーレム。材質:黒鋼合金、魔導回路。動力源:高純度魔導クリスタル(胸部中央)。特性:物理攻撃に対する極めて高い防御力。魔法耐性(中)。弱点:……』


 あった!


『動力源である高純度魔導クリスタルは、特定の超高周波の振動に対して極めて脆弱。クリスタルに直接7.83ヘルツの共振振動を与えることで、結晶構造が崩壊し機能停止に至る』


 これだ! これしかない!


 しかし、どうやってそんな精密な振動を与える?

 普通の攻撃では不可能だ。何か特別な方法が……。


 僕の脳裏に、一人の男の顔が浮かんだ。

 そうだ、彼ならあるいは……!


「――ギムガーさんっ!」


 僕はゴーレムの攻撃を避けながら、工房の方角に向かって絶叫した。


「聞こえるか、ギムガーさん! 今すぐミスリルで一本の杭を打ってくれ!」

「杭だと!? 小僧、こんな時に何を言って……!」

「いいから頼む! 長さは腕一本分! 先端は鋭く尖らせて! そして杭の中心部は、できるだけ薄く音が響きやすい構造にしてくれ! 急いで!」


 僕のただならぬ気迫に、ギムガーさんは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに何かを察したように頷く。


「……分かった! 三分だ! 三分だけ持ちこたえろ、小僧! ワシの生涯最高の一本を打ってやる!」


 ギムガーさんはそう叫ぶと、工房へと駆け込んでいった。

 彼の背中を見送りながら、僕は再びゴーレムと対峙する。


 反撃の準備は整った。

 残るは、どうやってあの鉄の巨人に最後の一撃を叩き込むか、だ。


 僕は村の仲間たちの顔を見渡した。

 皆傷つき、疲れ果てている。けれど、その瞳にはまだ諦めの色は浮かんでいない。


「みんな、聞いてくれ! 勝機はある! 僕に考えがあるんだ!」


 僕の声に、仲間たちの視線が集まる。

 僕は僕たちの未来を切り拓くための最後の作戦を、彼らに告げた。


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