Dead or Alive(死ぬか生きるか)!?(16)
「おばあさん、これを荷馬車に積めばいいんですね?」
「そうなのよ。助かるわ~」
今日もケントは学校からの帰り道で人助けをしていた。王立建国公園を出たすぐのところにある商店で買い物をした老婆の荷物を荷馬車へ運んであげている。その姿を眺め、ほっこりする私は……。
(毎日、毎日、こうやって後をつけている。これって前世で言うところのストーカーになっていない!?)
なっていた。なんだかんだで今週も今日で終わる。そして三日間連続で、私はケントの尾行をしていたのだ。
(彼がどんな令嬢がタイプなのか……そんなことはこうやって尾行をしていても分からない。ただあんなふうに誰かに優しくできるなら、選り好みなどせず、告白した相手と向き合う気がする)
つまりはごちゃごちゃ考えず、ここはもう告白してしまえばいいのだ!
頭の中でそう分かっていても。いざ告白を実行するには勇気がいる。
(ベヴァリッジ公爵令嬢……女神様とのグループデートというご褒美があるのよ! 告白、しなさい、私!)
荷馬車への荷物の積み込みが終わり、老婆とケントは挨拶をして別れるところだった。
「悪いねぇ、時間をとらせちゃって。彼女さんもお待ちだね」
そこで老婆が私を見る。
(え!)
バッチリ老婆と視線が合い、ケントがこちらを見た。
これにはもうビックリ!
老婆は荷馬車に乗り込み、ケントは私の方へとやって来る。
その顔ははにかむような表情だ。
「ポロロック男爵令嬢、自分に何か用ですか?」
「えーと……」
頭が真っ白になりそうになるが、今はチャンスだった。
(今でしょ! 告白するなら今でしょ!)
脳に必死に指令を送り、口を開く。
「は、はいっ! 話したいことがあり、学校からここまで追いかけてしまいました!」
「そうなのですね。……まさかと思いますが、ここまで徒歩でいらしたのですか!?」
「そうです。ダイセン侯爵令息は歩くのが早いのですが、道中、いろいろな人に親切にされているので……いつも追いつくことができます」
そこで「いつも」と答えてしまい、「しまった!」と思うが、もう遅い。
「そんなに毎日のように自分のことを追ってくれていたのですか!?」
その通りだった。しかしここで「そうなんです!」と答えたら、「何のために」と不気味がられる。かくなる上は……。
「実は私、ダイセン侯爵令息に告白しようと思ったんです。でもなかなか勇気がでなくて……。今日こそは声をかけよう、今日こそは……そう思い、三日が経っていました……」
ストーカーには思われたくない。その結果がなし崩し的な告白へとつながった。
(こんな告白、ありえないと思うわ! で、でも仕方ない……)
「自分に告白……三日間も……本当ですか!?」
「はい……でも……気持ち悪いですよね、そんなふうに後をつけられたら。ごめんなさい、勝手なことをしてしまい!」
もう完全に「やっちまったな~」状態で、私はこの場から立ち去る気持ちになっていた。
(というか恥ずかし過ぎて、無理!)
「忘れてください!」
そんな捨て台詞と共に、まさに立ち去ろうとする私の手をケントが掴んだ。
「待ってください、ポロロック男爵令嬢!」
「!?」
「そこのベンチに一旦座りましょう!」
これには驚くが、ケントに掴まれた腕は全く動かない。そこはもうさすが騎士見習いをしているだけあった。ここは素直に「分かりました」と応じることになる。
ストンとベンチに腰を下ろすと、ケントは開口一番で尋ねたのはこれ!
「足は疲れていませんか? よかったらマッサージをしましょうか?」
これには拍子抜けし「へっ?」と間抜けな返事をすることになる。
「学院からここまでは相当な距離です。通常、令嬢は馬車に乗るはず。三日も毎日この距離を歩いたとなると……相当足は疲れているのでは!? 大丈夫ですか!?」
これには「なるほど」だった。まさかいの一番で私の足を心配してくれるなんて……。
(ケントらしいというか、やはり彼は優しい……!)
「足はご心配に及びません。私は孤児院出身ですし、元は平民ですから。歩くのは得意な方です」
「そうでしたか。そう言われると安心です」
そこで言葉を切った後、ケントはこんなことを言い出す。
「足腰が強い令嬢……素晴らしいと思います」
「……?」
「ポロロック男爵令嬢なら、自分と散歩しても『足が痛い』『足が疲れた』とならないですよね。それは……些末なことかもしれません。でもそういう小さなところの積み重ねで相手を好きになったり、無理だと思ったりする気がします」
そう言われるとそれは「確かに」と思えた。
恋愛結婚したはずなのに。結婚して生活を共に始めると、些末なことが気になる。気になることが蓄積し、相手が変わってくれることを望み、変化がないと……。小さなことの積み重ねで限界が来て破局することもあるのだ。前世ではそんな失敗をしている友人や親族の姿を目の当たりにしていた。
「それに想像できました」
「想像……? 何をですか?」
「その……ポロロック男爵令嬢と手をつないだり、キスをしている自分をです」
「!」
急にケントは何を言い出したのかと思ったが……。
「ベヴァリッジ公爵令嬢から言われていたのです。手をつなぎ、キスをしたいと思える相手。それこそが友達として好ましく感じているのとは違う、異性への好意であると。そしてポロロック男爵令嬢とは……」
そこで顔を赤くしたケントが私を見る。
「自分、恋愛上手というわけではなく、とても不器用です。でもポロロック男爵令嬢からの好意はとても嬉しく思います。いきなりの婚約ではなく、まずお付き合いからお願いできませんか。自分が本当に、ポロロック男爵令嬢に相応しい人間だと思っていただけたら……婚約について双方の両親に話しませんか」
誠実過ぎるケントの言葉。しかも私がストーカーして告白の流れだったのに。いつの間にか彼が交際を申し込む図式になっている! さらに本当に自分でいいのか、交際を通じて判断して欲しい、それでOKなら婚約を……そんなふうに考えてくれているなんて!
ケントの提案に対する答え、それはもうこれ一択だ!
「はい、ぜひそれでお願いします!」
お読みいただきありがとうございます!
脳筋と天然のケントとポメリア。
意外にもお似合いだったようです~
続きは今晩公開しますー!
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