Dead or Alive(死ぬか生きるか)!?(9)
ポメリアは転移者であり、自身がヒロインなのに、それに気がついていない。私をヒロインだと思っている。自身のことをモブだと思い込んでいるからこそ、攻略対象の一人であるケントを好きになることは、間違いだと思っていた。
そこでいくら「細かいことは気にせず、ダイセン侯爵令息に告白しても問題ない」と伝えても、自身の転移前の知識もある。首を縦には振らないだろう。
そんなポメリアを納得させる方法、それをエリックはこう言ったのだ。
「言葉では納得出来ないのだと思います。行動で示すのが一番です」
言葉では納得しない。それはその通り。代わりに行動で示す……。行動で示す、それって……。
「わたしとベヴァリッジ公爵令嬢が交際していることにしましょう」
「えっ!」
「王太子であるわたしの婚約者になる予定だと分かったら、もう君に誰も手を出せなくなります」
それは……確かにその通りだった。
婚約者候補に上がるだけで、たとえ私に片想いしている令息がいても、それは諦めるしかなくなる。なぜなら婚約するかもしれない相手が、王太子だからだ。この国で平和に暮らしていきたいなら、王家を不用意に敵に回す必要はなかった。
「ベヴァリッジ公爵令嬢が三人の中から一人を選んだとなれば、ダイセン侯爵令息はいわばお役御免です。ポロロック男爵令嬢も気兼ねなく彼に想いを伝えられるのでは? それにこの配役、わたしでないと出来ないと思いませんか?」
それはいろいろな意味でその通りだった。
『王太子』という身分は、ある意味絶対な切り札だからだ。
仮に幼なじみであり、次期公爵家当主のカッセルを私が好きだったとする。もしライバルがいて、その貴族令息がカッセルより先に動いたら……。カッセルは「僕も彼女が好きなんです!」と、名乗りを上げるだろう。貴族令息の中で、次期公爵家当主の肩書は強い。勝算は十分にある。
ところがライバルが王太子となったら……。
「やめておこう」「諦めよう」になる。
たとえ次期公爵家当主であっても、王家に盾つくのは得策ではない。というか次期公爵家当主だからこそ、これからの王家との関係性を踏まえ、手を引くしかないはず。
それぐらいの切り札なのだ、『王太子』は。
それを踏まえると……。
さすがの勘違いしているポメリアも、私が王太子と交際しており、婚約するかもしれないとなったら……。ケントが私の眼中にないと理解できる。その状況で「ポロロック男爵令嬢、ダイセン侯爵令息を好きなら、想いを伝えるべきです」と、そっと肩を押せば……。流れに乗り、またここが乙女ゲームの世界であることから、ポメリアはケントとハッピーエンドを迎えるはず。
だがしかし!
「殿下と交際している……そんな嘘、許される気がしません」
「わたしが許可するのですから、問題ないです」
「そ、そんなことはないかと。王太子である殿下の交際は、王家にとっての一大事になると思います」
するとエリックはくすくす笑いながら左肩のマッサージを始める。
「わたしもこの年齢です。恋の一つをしてもおかしくありません。父上にもわたしから話しておくので大丈夫ですよ」
(本当に!? そんなにゆるっとしていいのかしら!?)
「結局、私と付き合い、破局……殿下の外聞が悪くなりませんか?」
「破局するとは限らないではないですか」
「!?」
「ともかくベヴァリッジ公爵令嬢にとっても、私にとっても、悪い結果にはならないようにしましょう」
そう言われても半信半疑だったのだけど……。
マグノリアの香り、そして心地の良いマッサージ、繰り返されるエリックによる説得。気がつけば「分かりました。では殿下と私は交際している……ということでお願いします」と答えていた。
◇
週の始まり月曜日。
この日、公爵邸は朝から敷地の落ち葉を掃くので大忙し。
なぜなら、エリックが私を迎えに来ることになったからだ。つまりは「私たち、付き合っています!」のアピールのため、一緒に登下校をしようとなったわけ。
「ま、まさかカトリーナが王太子殿下とお付き合いを始めたとは……」
「ブライト公爵令息も含めた、学院の学友だと思っていたのよ」
両親はビックリすることこの上ないが、このまま婚約したら僥倖と思っているのだ。ゆえにエントランスまで見送った私にエールを送る。
「「くれぐれも失礼がないように! 仲良く笑顔で!」」
そこに白馬が引く馬車で登場したエリックは……。
「ベヴァリッジ公爵、ベヴァリッジ公爵夫人、おはようございます! 実は昨日、日曜日にわたしが告白し、カトリーナ嬢とお付き合いさせていただくことになりました。後からのご報告になり、申し訳ないです。現在はまだ非公式での交際ですが、カトリーナ嬢次第で、公式な交際へ進めるのではと期待しています」
朝から寒さが吹き飛ぶような王子様スマイルを見せるエリックに、両親は大喜び。
「カトリーナにはわたしたちからも言って聞かせますので、殿下のお気持ちを優先いただいて大丈夫ですよ!」
「ええ、そうですわ、殿下。カトリーナは恥ずかしがっているだけで、すぐにでも殿下と婚約したい。そう思っているはずですわ!」
両親は完全に舞い上がり、前のめり。
だがエリックは……。
「いえ。わたしはカトリーナ嬢の気持ちを尊重したいのです。無理に婚約者に据えるような気持ちはありません。相思相愛の二人で結ばれたいのです」
「まあ、殿下! なんてお優しい……」
「カトリーナ! お前は果報者だ! 普通はこうはいかないのだぞ。殿下の御心に感謝の気持ちを忘れてはいけない」
実際両親の言うことは事実だと思う。
そもそもエリックはポメリアの恋の応援に付き合い、まさかの偽装結婚ならぬ偽装交際に協力してくれているのだ。王太子という身分でありながら。とても寛容であり、優しく、父親の言う通りで「普通はこうはいかない」と思うのだ。
「それではカトリーナ嬢、行きましょうか」
「はい、殿下」
当たり前のようにエリックのエスコートで彼の馬車に乗り込むことになった。
お読みいただきありがとうございます!
この世界での盤石な生存を得るため
ポメリアとケントをゴールインさせる!
そのためのまさかのエリックとの偽装交際がスタート……!
明日も2話更新頑張ります=3
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