彼女の視点(6)
「ベヴァリッジ公爵令嬢、お招きいただき、ありがとうございます!」
馬車からバラの花束を抱えて降りると、私を迎えてくれたベヴァリッジ公爵令嬢は、なんと純白のドレスに着替えていたのだ! その姿はまさに女神そのもので、輝いて見えた。
(う、美しいわ……。この世界に転生できてよかったこと。それはこの美の女神に出会えたことと言っても過言ではないかも!)
あいにく転移した際、身一つであり、スマホも手元にないのだけど。もしあったら連射で写真を撮りまくりだったと思う。
「あの、私は制服のままですが……」
「気にしないでちょうだい。学院から直接ここへいらしたのだから。それより、このいい香りの秋バラはプレゼントかしら?」
「はい! 我が家のバラ園で栽培したもので、香料を抽出するためのバラです。よって香りがとってもいいんです。……よかったらベヴァリッジ公爵令嬢の寝室にでも飾ってくださいませ」
バラの花びらが散りばめられたベッドに横たわるベヴァリッジ公爵令嬢を想像してしまう。この純白のドレスでその姿は……絶対に絵になると思った。
「嬉しいわ、ありがとうございます」
ベヴァリッジ公爵令嬢に喜んでもらえたことで、緊張が緩む。さらに案内された応接室で出されたスイーツと紅茶はどれも絶品!
『がっついて食べてはいけないよ。お上品にするんだ、ポメリア』
そう出発前に父親から言われていたが、いざズラリと並ぶスイーツと紅茶を見てしまうと……。
(自制するなんてできない!)
食べ方だけは上品にしている。でも食べる手を止めることはできない。なぜならスイーツはどれもこれも美味しく、しかも味付けにもバリエーションがあり、飽きないのだ!
(何よりも、ポロロック男爵家では食べたことがないスイーツばかり。この外はサクサク生地で、中にはバタークリームがたっぷりのスイーツ。何というのかしら!? 本当に美味しいわ!)
こうしてたっぷりのスイーツを満喫した結果。
「……沢山いただいたせいでしょうか。なんだか満腹で眠くなってしまいました……」
「ふふ。それはリラックスできている証拠よ。侍女とメイドを下がらせるから、良かったら横になってくださっていいのよ。十五分ぐらい休むと、すっきりしますわよ」
「……そんな……ベヴァリッジ公爵令嬢がいらっしゃるのに、昼寝、なんて……」
口では「昼寝なんて」と言っているが、脳の方は「眠い、眠い、眠い!」を連呼している。しかも私の隣へ移動してきたベヴァリッジ公爵令嬢からは、プレゼントした秋バラに負けないいい香りがしているのだ。
「ポロロック男爵令嬢、よろしかったら私が膝枕をしましょうか?」
「えっ!?」
「十五分後。起こして差し上げるから、どうぞ」
「で、でも……ベヴァリッジ公爵令嬢は白の美しいドレスを着ていらっしゃるのに……私の頭を載せるのは恐れ多いというか……」
純白のドレスに頭を載せることもそうだが、女神の膝枕を想像し、眠いのに興奮しそうになる。
(ベヴァリッジ公爵令嬢の膝枕……きっと極上の寝心地だと思う。しかも彼女のつける香水のいい香りをかいだら……。リラックス効果も抜群のはず……)
「あなたのそのシルクのような髪、とても美しいわ。むしろドレスの糸くずが付いてしまわないか心配……」
遠慮する私に、ベヴァリッジ公爵令嬢は視線を伏せたのだ。
(た、大変! 女神を悲しませたら罰が当たる!)
私は慌てて「ひ、膝枕、お願いします!」と横になる。
(ふわあ……これが女神の膝枕……!)
想像通りでいい香りもして、私は昇天しそうになる。
「!」
ベヴァリッジ公爵令嬢は膝枕をしながら、私の髪を優しく撫でてくれたのだ……!
(ご、極楽……)
私は目を閉じ、このまま夢の中へと思ったが。
「!」
驚きすぎて声が出ない。
ベヴァリッジ公爵令嬢は私を膝枕していたはずなのに、気づけば私は仰向けになっており……。
「ポロロック男爵令嬢は肩こりに悩んでいませんか?」
(な、なんで知っているの!?)
もうビックリですぐには反応できない。
「こうやって触れるだけでも、もう肩ががちがちなのが分かります。学院では高位身分の貴族令嬢も多く、緊張しますよね。それもあり、肩こりはどんどん悪化しているようですね。でも定期的にマッサージすることで、改善はできます。まずは胸鎖乳突筋と斜角筋に、ゆっくり圧をかけていきますね」
そこからはもうまるでプロのマッサージ師に施術されているような状態になる。つまりはベヴァリッジ公爵令嬢のマッサージで、肩がどんどんもみほぐされていく。それに合わせ、私はだいぶ奇声をあげていたけれど……。
次第にそのマッサージは優しいものへと変わっていく。そうなると私は完全にリラックスして……。眠りに落ちる。
「ハッ」として目覚めると、実に爽快な気分になっていた。
「ベヴァリッジ公爵令嬢、あなたは……何者なんですか!? あなたがされたマッサージ、それは……」
「これは古式マッサージと言われています。古代、この大陸では巨大な浴場が作られ、入浴文化が花開きました。その際、マッサージも誕生したと言われています。ですが入浴が禁忌となる時代がありましたよね。そこでマッサージも廃れてしまったのですが……。当時のマッサージを紹介する本を見つけ、試してみたのです。効果はありましたか?」
「あ、ありました! 大ありです! そのベヴァリッジ公爵令嬢の手は、神の手だと思います」
運命だと思った。
私が乙女ゲームの世界なんかに転移してしまったのも、きっとベヴァリッジ公爵令嬢の神の手と出会うためだったのだと思えた。
「お喜びいただけて嬉しいですわ。どうぞ」
グラスに入った水を受け取り、ごくごく飲みながら考える。
(私は……一生独身でいい。ただ、ベヴァリッジ公爵令嬢のそばにいたい。そして一か月に一度でいいから、マッサージをして欲しい……!)
空になったグラスを見つめる。
(どうしたらベヴァリッジ公爵令嬢のそばにいられるだろう?)
そこで思いつく。
この世界では、高位貴族に行儀見習いとして仕えることができる。
(そう、そうだわ! 私、ベヴァリッジ公爵令嬢の侍女になる! 住み込みで食事つきだから、給金は少なくてもいい。その代わりでマッサージを……)
「ポロロック男爵令嬢、肩こりの改善のために、私のマッサージをこれからも受けますか?」
「受けます!」
かなり食い気味で反応していた。
でも……それは仕方ない。
「マッサージ、してさしあげてもいいのですが、条件があります」
「分かっています! 学院を卒業したら公爵家へ行儀見習いとして仕えます! 私、ベヴァリッジ公爵令嬢の侍女になります! 給金は半分でいいので、その代わりにマッサージを……」
するとベヴァリッジ公爵令嬢がくすくすと笑っている。私は前のめりすぎてひかれている……と顔面蒼白になってしまう。
「条件はただ一つ」
「は、はい……」
「これからもずっと、クラスメイトとして私と仲良くしてくれれば、週に一度のマッサージは施術してさしあげますわ。もちろん無料です」
「します、仲良くします! 一生、ベヴァリッジ公爵令嬢とお友達です。裏切りません、いつまでも!」
転移前から苦しんでいた肩こりに光明が差し込んだのだ。
(彼女の神の手は私のもの……)
私の身と心、それはベヴァリッジ公爵令嬢に捧げると決めた。
お読みいただきありがとうございます!
裏切りません、いつまでも!――何かのスローガンのようですが、これにて天然系ヒロインは見事悪役令嬢に陥落したのでした~
めでたし、めでたし(?)
ううん!?
神の手を巡り、攻略対象三人とヒロインの四つ巴のバトルが繰り広げられる!?
ここからが本当のDead or Alive(死ぬか生きるか)!?
ということで最後に勝つのは誰なのか――
もう少しお付き合いいただけたら……嬉しいです!
その後を書いたら読んでいただけますかね?
リアクションでお気持ち聞かせてくださいませ☆彡






















































