彼女の視点(5)
心臓が止まるかと思った。
まさかベヴァリッジ公爵令嬢が頭からホワイトシチューを被るなんて!
(だって彼女はこの乙女ゲームの世界の主人公なんだよ。それがあんなふうに……)
ただ、ホワイトシチューを被ってもなお、ベヴァリッジ公爵令嬢は神々しかった。だが本人はショックだったようで、その場で気を失ってしまったのだから……。
保健室へ運んだりで、大騒ぎだった。
(私があの三人の男子と関わるから、トラブルが起きるのよ。私はあの女神のように美しいベヴァリッジ公爵令嬢の邪魔をしたくないのだから、あの三人はなんとしても回避しないと!)
ホワイトシチュー騒動の後、さらに気を引き締めて過ごすことになる。
幸い、ベヴァリッジ公爵令嬢は騒動以降も普通に登校しているし、ホワイトシチューを被ることになった件について何か言ってくることはない。
(そもそも私は何もしていないから、何か言われることはないはず)
さらに令息三人は不思議と私と接点を持つことなく、逆にベヴァリッジ公爵令嬢のそばで見かける機会が増える。
(よかった。ベヴァリッジ公爵令嬢と三人の令息の誰かが上手くいくこと。それがこの世界の正解なのだから)
安堵で胸を撫で下ろし、そして……。
(ああ、肩がガチガチ~!)
昔から肩こりがひどかったけれど、この世界に転移しても治ることはない。むしろいろいろあって緊張の連続で、肩こりはさらに酷くなった気がする。
(というか、この世界にマッサージがないのが辛い……)
マッサージは医者主体で、予後の回復で稀に行われるようなもの。元の世界のような概念のマッサージは、残念ながら存在していなかった。
転移前の私は週一でマッサージ通いをしていたぐらい、肩こりに悩んでいたのだ。ゆえにこのマッサージなしの世界にはガッカリしている。
そこで肩に手を置き、首を回していると……。
授業終了の鐘が鳴る。
そしてそのタイミングで、声をかけられた。
「ポロロック男爵令嬢」
「な、何でしょうか……」
制服が汚れるトラブルの発端は、いつも三人の令息と接点を持った時だった。ゆえにベヴァリッジ公爵令嬢に話し掛けられ、ビビる必要はないはずなのだけど……。
発端は令息三人の誰かだけど、実際に制服を汚す事態は、ベヴァリッジ公爵令嬢が起こしているように思える。もちろんそれは、彼女の意志ではないと思う。彼女がヒロインゆえに、その行動をサポートしようと、この世界が邪魔者に対して行っているペナルティだと私は考えている。
脳ではそう理解しても、いざベヴァリッジ公爵令嬢を前にすると、緊張してしまうのだ。
でもそれは仕方ない。制服が汚れる件以前で、ベヴァリッジ公爵令嬢は美し過ぎるのだ。その美しさに、緊張してしまう。
そんな私にベヴァリッジ公爵令嬢は聖母のような微笑みで話を続ける。
「ポロロック男爵令嬢、覚えているかしら? 私ったらうっかり自分からシチューを被ってしまったでしょう?」
(う、その件!? もう時効だと思っていたのに! いや、私は何もしていない……!)
何もしていないが、ここは神妙な面持ちで「はい」と返事をすることになった。
「あなた、あの時、ハンカチを貸してくれたわよね?」
「! はい、そうでした」
「あのハンカチ、屋敷でメイドに洗ってもらったの。綺麗にして返すつもりだったのよ。でも……洗ったらボロボロになってしまって……」
そこからベヴァリッジ公爵令嬢が提案してくれたことは、まさに夢のよう。
すっかり私は渡したことさえ忘れていた安物のハンカチ。しかも私の下手くそな刺繍入りのハンカチのことを、ベヴァリッジ公爵令嬢は忘れていなかったのだ。そしてハンカチがボロボロになったお詫びとして、公爵邸へ招待してくれるというのだ! しかも私のために、特別なスイーツとお茶を用意してくれると言う!
この提案に「ノー」と答える選択肢はない。
何せ公爵邸はその豪華さから、第二の宮殿とまで言われ、この王都では有名だった。そして私のための特別なスイーツとお茶を楽しめるなんて!
「……せっかくなので明日はいかがかしら?」
かくして私は明日、ベヴァリッジ公爵令嬢の屋敷を訪問することになったのだ!
この日、学院から帰宅し、両親に報告すると、二人はビックリ!
「ベヴァリッジ公爵令嬢に招待された、だなんて! どうしましょう!」
「何か気の利いた手土産を……いや、明日だろう!? 時間がなさ過ぎる!」
二人は頭を悩ませ、最終的に……。
「我が男爵邸は学院まで馬車で一時間という距離にある。しかしその分、敷地は広い。香料のためのバラ園は、今まさに秋バラで満開だ。とても香りがいいから、これを手土産にするといい!」
こうして放課後のタイミングに合わせ、学院に摘み立てのバラを届けてもらえることになった。このバラの花束を手に、私は公爵邸へ向かうことになる。
お読みいただきありがとうございます!
頭からシチューをかぶる悪役令嬢。
何気にこちらはドジっ子だった……!
そして天然系ヒロインは何も疑うことなく公爵邸へ……
そこには魔(神)の手が待ち受ける……!
もう1話今晩更新しますね~
少々遅い時間での公開です!
(裏の作業:仕事終わってから校正して入稿)
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