王太子視点(4)
ベヴァリッジ公爵令嬢がわたしの隣に腰を下ろした。
本来なら心臓がドキドキし、全身の血流もよくなりそうな事態だった。だが今のわたしは、彼女がそばにいることに安堵し、脱力したい気持ちが勝っている。
その脱力したわたしは眠気を伴うリラックス状態で、複雑な思考が上手くできない。
つまりは本能的に行動することになる。
その結果……。
見上げるとそこには、輝くようなホワイトブロンド、煌めくアメシストのような瞳、触れたくなる潤いのある唇のベヴァリッジ公爵令嬢の顔が見えている。
(ミルクのような肌に口づけをしたい……)
まるで甘えるように、彼女の腰に腕を回し、抱きついてしまう。
その瞬間、マグノリアの甘い香りが鼻孔をくすぐり、わたしはうっとりしている。
(ベヴァリッジ公爵令嬢の香水……甘い……)
そこで彼女の手が私の髪を優しく撫でてくれたのだ!
彼女のその細い指がわたしに触れていると思うだけで、甘美な気持ちが込み上げてくる。喜びで全身が震えそうになってしまう。
だが次の瞬間。
「あっ……」
わたしは短く声をあげていた。その後立て続けに「あっ、あっ、あっ……」と声を漏らすことになる。
「殿下。頭にも筋肉があるんですよ。頭皮は薄いので筋肉の存在を忘れそうですが、ちゃんとあるんです。前頭筋や後頭筋、側頭筋などで、表情筋や首の筋肉とも連動しています。頭の筋肉が、姿勢の維持や頭を支えることにも影響するんです」
ベヴァリッジ公爵令嬢が解説をしてくれているが、わたしは乙女のような声を出すことしかできない。彼女の指がわたしの頭を刺激し、その結果、この声が漏れている。
「頭の筋肉が凝り固まると、頭痛、眼精疲労、肩と首のこりが起きやすくなると言われています。場合によっては自律神経の乱れにつながり、疲れがとれにくい、ストレスを強く感じやすくなることもあるのだとか」
そう言いながらベヴァリッジ公爵令嬢により、頭の筋肉に与えられる刺激は……たまらなく気持ちいい。
「今、前頭筋をマッサージしています。こうすることで、血流が良くなり、筋肉の緊張感も改善されますよ。リラックスできると思います」
彼女の言葉通りで、わたしは完全にリラックスし、瞼が閉じる。
「殿下の場合、常に緊張されているので、頭の筋肉だけではなく、全身の筋肉をほぐす必要があります。そのままリラックスいただいている間に、ゆっくりほぐしていきますね」
ベヴァリッジ公爵令嬢は頭のマッサージを終えると、首、肩へと手を移動させていく。わたしは次第にリラックス感が強まり、気付くと眠りに落ちている。そして目覚めた時には――。
体が軽くなっているように感じる。
「殿下、目覚めましたか」
「ベヴァリッジ公爵令嬢……!」
ゆっくり体を起こし、ソファに座り直すと、彼女はグラスに入った水を渡してくれた。ごくごくと飲み干すと、全身に力がみなぎるように感じる。
「ベヴァリッジ公爵令嬢、体がとても軽く感じます。これはあなたの……マッサージのおかげですね?」
「そうですね。あとは殿下が私を信じて、身を委ねてくださった結果かと」
微笑むベヴァリッジ公爵令嬢が眩しくて仕方ない。
同時に。
彼女への気持ちがますます募るのだが……。
彼女に思いっきり、ときめきたいのに。
(体は完全にリラックスしていて、気持ちを昂らせることができない……!)
「ベヴァリッジ公爵令嬢はどこで覚えたのですか、このマッサージ」
「公爵邸の書庫で見つけた古代文化の本です。見よう見真似でしたが、殿下がリラックスできてよかったですわ。あとこちら、今回ブレンドしたハーブティーのレシピです。よかったら王宮に戻ってからも、緊張を緩和させたい時に召し上がるといいと思います」
「ありがとうございます」と応じて、彼女の渡してくれる便箋を受け取る。
とても美しい文字だった。
「ハーブティーは……とても香りも良かったです。香りでもリラックスはできるのでしょうか?」
「ええ、できますよ。マッサージの時に香を焚くのもおススメです。リラックスしたい時は香りを上手く活用した方がいいです」
「お詳しそうですね。……その香りのこともお聞きしたいですし、マッサージもまたしていただきたいのですが……」
上目遣いでベヴァリッジ公爵令嬢を見ると、彼女はふわっとした優しい笑顔になる。その笑顔を見ると、わたしは少年のような心地で、胸がキュンとしてしまう。
「私、これでも公爵令嬢なんです」
「……! 失礼しました。公爵令嬢のあなたにマッサージをして欲しいと請うなど、大変失礼な申し出をしました」
「いえ。それだけ気に入っていただけたわけですから、嬉しい限りです」
そこでベヴァリッジ公爵令嬢はわたしの隣に腰を下ろす。
「殿下がこれからもずっと、同級生として私と仲良くしてくださるなら、週に一度のマッサージはお任せください!」
何を言い出すのかと思ったら……!
(同級生として仲良くするならマッサージをしてくれるというのか……!)
そんな条件容易過ぎて、本当は無条件で引き受けてもいいが、形ばかりに提案したようにしか思えない。
(というかわたしと仲良くすることを望むなら……)
その仲良くを男女の友情と優等生に理解するつもりはない。これから毎週、ベヴァリッジ公爵令嬢に会えるなら、少しずつわたしの気持ちを伝えていけば……。
この時の私はまだ気づいていない。ベヴァリッジ公爵令嬢の愛を得ようとする人間が四人もいることを……。
お読みいただきありがとうございます!
王太子視点、終わってしまった……!
次はヒロイン視点(5話予定・執筆中)です
明日の更新をお楽しみに〜
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