王太子視点(2)
カトリーナ・マリアンヌ・ベヴァリッジ。
ベヴァリッジ公爵の娘であり、王立ミディ学院の令嬢の中では一番高位の身分だった。さらに才媛で知られ、成績は学院の女生徒の中では彼女が群を抜いている。そして彼女の名を広く知らしめているのはその美貌だろう。
髪は輝くようなホワイトブロンドで、瞳は煌めくアメシスト。その頬はサンゴのようであり、唇は朝露を受けた薔薇の花びらのように潤っているという。さらに令嬢としては身長が高く、首や手やウエストは細いが、胸は豊かで、どんなドレスも見事に着こなす。
身分・頭脳・容姿――すべて恵まれたベヴァリッジ公爵令嬢は、学院内でも高嶺の花として知られていた。
正直。
国内でわたしの婚約者を選ぶなら、筆頭に名が上がるのがベヴァリッジ公爵令嬢だと思う。この国に公爵家は五つ存在しているが、他の公爵家では既に娘が結婚していたり、逆に幼過ぎたり。年齢的にも釣り合うのが、ベヴァリッジ公爵令嬢だったのだ。
とはいえ、わたしは自身の婚約者を自ら選ぶことはできないと思っていた。ゆえにベヴァリッジ公爵令嬢の存在を認識していたが、わたしと婚約する未来を想像したことは一度もなかった。というかそもそも他の可能性がある令嬢でも、婚約する未来を想像したことはない。だが今回、彼女から呼び出しの手紙を受け取ったのだ。
条件面では十分に王太子であるわたしの婚約者になれる令嬢。
急激に彼女のことを意識するようになってしまう。
といってもベヴァリッジ公爵令嬢とは同じクラスではない。
だから……。
「エリック王太子殿下、B組に何か用ですか? 誰かお探しなら、呼びましょうか?」
「いえ、大丈夫です。カール令息がいたらと思ったのですが、急ぎではないので……」
休憩時間にベヴァリッジ公爵令嬢がいるA組までわざわざ足を運んでしまい、女生徒から気を遣われてしまう始末。しかも顔見知りのカール令息も席を外しているので、すぐに撤退することになったが……。
王立ミディ学院の、ピンクにグレーのチェック柄のハイウエストスカートに、グレーのブレザーを着たベヴァリッジ公爵令嬢の姿を一瞬確認することができた。
(……噂通り……噂以上で美しい人だ)
まるで名画に描かれる女神のようで、もっとその姿を眺めたい気持ちになっている。だが既にB組に背を向け歩き出しているわたしには、それが叶わない。
代わりで思い出すのは、彼女のそばにいた二人の令息のことだ。
一人はカッセル・エリオット・ブライト。ブライト公爵家の嫡男で、優等生で知られている。いつもテストではわたしを追いかける二位の秀才だ。そしてもう一人。あれはケント・ポール・ダイセン。騎士団長のダイゼン卿の子息だった。
カッセルもケントも実に熱っぽい目でベヴァリッジ公爵令嬢のことを見ていたと思う。
するとなんとも言えない気持ちが沸き上がって来た。
(ベヴァリッジ公爵令嬢は今日の放課後、わたしに告白するつもりなんだ。そしてその家柄からして、わたしが「イエス」となり、ヴァリッジ公爵が正式に父上に……国王陛下に求婚状を提出してくれれば……。間違いなく、ベヴァリッジ公爵令嬢とわたしは婚約するだろう)
三拍子揃ったベヴァリッジ公爵令嬢をお断りする理由など考えられなかった。つまりベヴァリッジ公爵令嬢はわたしの婚約者になる確率が高い。それなのに他の令息が彼女のそばにいるのは……。
そこでわたしは深呼吸を行う。
(まだ、ベヴァリッジ公爵令嬢から正式に告白されたわけではないのだ。いろいろ先走って想像してはならない。それにまだ彼女ときちんと会話したわけではないのだ。噂レベルではなく、自分の目で彼女の人となりをまず確認することが重要。他の令息に奪われたくない――というのは本能に基づく衝動に過ぎない。ここは冷静になるべき)
そう落ち着いて考えることができるのに。
放課後までわたしのソワソワした状態は治まらなかった。
◇
ベヴァリッジ公爵令嬢がわたしを呼び出した場所は、今は使われていない旧校舎だ。
過去、何人かが旧校舎を指名し、わたしを呼び出している。
旧校舎は月に一回、建物の維持のため、清掃が行われていた。でもその清掃の時以外で、人が近づくことはない。告白をしているところを誰かに見られたくない……という乙女心は理解できる。だからこそ、どんな場所を指定されようと、学院の敷地内なら足を運ぶようにしていた。
それに学院の敷地内であれば、近衛騎士なしでもわたしは自由に動くことが出来たのだ。ここであれば安全が確保されているからと。
少し早足になりながら、わたしは旧校舎に入った。
旧校舎に入るとすぐに大きなエントランスホールがあり、過去に呼び出されたのはこの場所だ。しかし今回、ベヴァリッジ公爵令嬢がわたしを呼び出した場所は……。
アトリウムだ。
アトリウムは吹き抜け構造の中庭で、天窓から光を得て、その下には水盤が置かれていることが多い。
エントランスホールの大きな柱の案内図を見て、アトリウムの場所を確認する。
(なるほど。ここか。少し奥まった場所だな)
わたしはそのままアトリウムを目指し、歩き出し――。
天窓の陽光を受け、淡く輝く大理石の床。中央には水を湛えた水盤が鎮座している。周囲には精緻な彫刻が施された柱が並び、壁を彩るのは秀麗なモザイク画だ。
その何とも神々しい空間で、自身も淡い陽射しを受けているのはベヴァリッジ公爵令嬢。
深呼吸したわたしはゆったりと余裕のある表情を浮かべる。
誰もが求める完璧な王太子として口を開く。
「ベヴァリッジ公爵令嬢……まさか君に呼び出されるとは思いませんでしたよ」
お待たせいたしました!お読みいただき本当にありがとうございます!
もう急ぎ足で帰宅して作業しました~
ということで気になる女子がいる教室をウロウロ。
王太子が実は(やはり?)乙女だったことが分かる回でした〜
続きはまた明日更新しますねー!
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