1-7 遺跡の真実
遺跡から出ると、逃げたはずの青年が、しょんぼりとした様子で座り込んでいた。
「あっ、お姉さん……!無事でしたか!?」
青年は慌てた様子で立ち上がり、セラフィナの元へと駆け寄った。
「ちょっと……あなた、逃げたんじゃなかったの?」
「外までは逃げたんですけど、お姉さんのことが心配で……」
青年は心配そうにセラフィナを見つめている。
セラフィナは、呆れたようにため息をついたが、その表情は優しかった。
「あたしは大丈夫よ。あなたが無事で良かったわ」
「助けてくれてありがとうございます。もう少し遅かったら、どうなっていたことか……」
「そうね……」
セラフィナは黙り込んだ。落ちていた革の手袋はこの青年のものかと思っていた。
けれど、青年の手を見てみると、左右にしっかりと手袋がされている。
(サイズや色も少し違うし、この人のものではないわね)
つまり、他に人がいたことになる。
「あなた、この革の手袋の持ち主は知っているかしら?」
セラフィナは拾った革の手袋を青年に差し出した。
「手袋?」と言いながら受け取った青年は、まじまじとよく観察している。
手袋の表面、内側、としばらく眺めていたが、誰のものかはわからなかったようだ。
「最近、遺跡付近での行方不明者が多いので、その中の一人かもしれません」
青年は、自分もそうなるところでしたが、と自嘲気味に笑う。
そもそも、なぜ遺跡へ行くのだろうか。行方不明者が多いと言われているなら、普通は行かないはずだ。やはり、あの遺跡にはなにかあるのだ。
「あなた、リュカスの街の人?良かったら夕飯を一緒に食べない?聞きたいことがあるの」
「もちろんです!あっ、僕が払いますよ!助けてくれたお礼です」
セラフィナは情報料として自分が全額出す、と言ったが、青年に押し切られてしまった。
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になるわ」
セラフィナがそう言うと、二人は並んでリュカスの街へと歩き出した。
遺跡から街はそう遠くない。なにせ、街の高台から遺跡が見えているのだ。
一時間もあれば街につく。その間、二人の間には何故か微妙な空気が流れていた。
(この人、全然喋らないわね……何か気がかりなことでもあるのかしら)
青年は先程までとは打って変わって、セラフィナのことを見ようとしなかった。自分が遺跡に入っていたことが不都合なのか、どこか落ち着きがない。
けれど、セラフィナは今は追求しなかった。
そうこうしていると、もう街の入り口だった。もうかなり暗いが、街を出たときと変わらず、人は多く賑わっている。
二人は人混みをかき分け、食堂の前にたどり着いた。
「ここのハンバーグが絶品なんですよ……もう食べられないかと思った!」
そう言った青年の顔は明るく、目が輝いている。
(子どもみたいね)
そう思いつつ、青年と向かい合って席につく。メニュー表を見たが、ハンバーグが絶品という言葉が忘れられない。
「お姉さんは何を食べますか?僕はハンバーグにします!」
悩むことなくセラフィナは言った。
「あたしもそれにする」
青年はふふっ、と笑いながら、店員にハンバーグ2つと注文した。
「そういえば、お姉さんはお名前なんて言うんですか?僕はロビンって言います」
「あたしはセラフィナ。ただの通りすがりの魔法使いよ」
元勇者パーティとは言わなかった。今はただのお掃除係だからだ。
「いいお名前ですね、気品のある感じがぴったりです」
気品……?あるのだろうか。
と、そんなことは置いておいて、ロビンには聞きたいことがある。
「ロビン、あなた、どうして遺跡にいたの?」
「あ、やっぱりそれ聞かれますよね……えーと……」
ロビンは口ごもり、言い淀む。何か言いたくないことがあるのだろう。
「どうして行方不明者が出てるって噂の遺跡に、わざわざ出向いたのかしら。何か宝でもあるの?」
ぎくり、と顔をこわばらせるロビン。
呆れた顔のセラフィナ。
「あなたねぇ……宝のために命かけてるの?やめなさいよ、そんなこと」
「本当に仰るとおりで……」
ロビンは項垂れ、落ち込んでいる。
ただの宝探しというわけではなさそうだ。
セラフィナは理由を聞いてみることにした。
「なにか、お金が必要だったの?」
「母が、病気なんです。でも薬は高いし、あまり効かなくて……どうしても治してあげたいんです」
セラフィナは、なるほど、と口元に手をやる。薬が効かないのであれば普通の病気では無いのかもしれない。聖女と謳われたミリエルであれば、治せるだろうか。
「あたしの知り合いに聖女がいるんだけど、その人に治してもらったらどう?」
「せ、聖女!?聖女ってまさか……ミリエル様のこと、ですか!?」
「あら、知っていたの」と驚くセラフィナ。ミリエルのことは知っているのに、なぜセラフィナのことは知らないのか……。
「知り合いって、もしかしてセラフィナさんってすごい人だったりします?」
「あたしは、元勇者パーティの魔法使いよ」
ロビンは、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。そんな実力者に助けられたとは夢にも思っていなかったのだろう。
「知らなかったのね、ミリエルはやっぱり聖女だから有名なのかしら……」
セラフィナは後半になるにつれて段々と声が小さくなっていってしまった。この魔法使い、魔法は派手なのに名声はあまりないようだ。
「あ、すみません……魔法使いがいるってことは知っていたんですけど、お名前までは存じてなくて……」
「いいわよ、別に……」
空気が少し重たくなってしまった。
セラフィナは俯き、少し不貞腐れている。それを、あわあわとしながら、何を言えばいいかと口をパクパクさせているロビン。
すると、タイミング良く、絶品と噂のハンバーグが運ばれてきた。
「あっ、ほらハンバーグ!来ましたよ、食べましょうよ!」
「そ、そうね!」
セラフィナはフォークとナイフを持つと、ハンバーグに切り込みを入れた。
じゅわっと溢れる肉汁たっぷりの、少し大きめのハンバーグ。湯気とともにデミグラスソースの香りが昇ってくる。
一口大に切ったそれにフォークを突き刺し、口へと運ぶ。
「あつっ……んぅ〜!!美味しい……!」
あつあつのハンバーグは、噂に違わず絶品だった。これは、また食べたい。そう思った。セラフィナは食べながら今日の目的を思い出す。
「あ、忘れてたわ。食べるのもいいけど、聞きたいことまだあるのよ」
「うん?何ですか?」
「あの遺跡って、なんなの?どういうもの?」
そう、知りたいのはこれだ。宝があるとのことだが、ダンジョンには見えなかった。
「あ~、あれはですね、元魔王軍の宝物庫、らしいです」
「元魔王軍の、宝物庫……」
セラフィナは反芻する。そりゃあ宝もあるわけだ。問題はその宝が"元は誰のものか"だ。
魔族が人間から奪ったものなのであれば、取り戻してあげたい。だが、元々魔族のものだったら?人間がそれを奪いに行っている、それは人間が悪だ。そもそも、盗もうとしているそれ自体が悪なのだが。
「その宝物庫にある宝って、元は誰のものなの?」
「さぁ……そこまではわかりませんね。ただ、噂によると、ある日一人の女盗賊が、宝を盗んで帰ってきたんです。それからというもの、行方不明者が続出しているんですよね」
「あー、なるほど。完全に理解したわ」
つまりこういうことだ。
あの遺跡は魔族の宝物庫、そして石像は宝を守るための安全装置。
女盗賊が宝を盗んだことにより、安全装置が働くようになった。石像は何かを探すように動いていた、それは盗まれた宝だ。人間が盗んだとわかっているから、人間が入ると宝を持っていないかチェックしていた。
それが、人間がわからしたら襲われることと同義。何人もの人間が命を落とすこととなる。つまり、解決策としては⸺。
「……今のあたしは世界のお掃除係。散らかした人には、ちょっとだけ話を聞かせてもらわないとね」
セラフィナはそう、呟いた。
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