1-2 旅立ち
眩しい朝日がカーテンの隙間から、部屋中の宝石をキラキラと照らしている。
セラフィナは、ふぁあとあくびをして起き上がった。
コップに水を入れ、ぐびぐびと飲み干すと、朝食の準備を始める。
食パンを薄くスライスしたものにハムとチーズを挟んだ簡単サンドイッチだ。
もぐもぐと食べながら今日の予定について考える。
「えーと、たしか昨日聞いた噂では西の村では黒い霧が出たって話よね。ファルマ村より先にある村かしら」
黒い霧、魔王の残党、呪われた土地。
聞いた噂を思い返してまずどこから行くのか目星をつける。
「全部気になるけど、やっぱり村が大変なことになっているならまずそこからね」
セラフィナはサンドイッチを食べ終えると、手早く食器を片付け、宝石をいくつか手に取った。
自分の大切なものだが、宝石のままでは役に立たない。そんなにお金がないわけではないが、旅をするというのは思った以上にお金がかかる。
どこかの街で売れれば路銀になるから、と宝石を収納魔法に取り込んだ。
収納魔法は便利なものだ。魔力によって容量が変わるが、空中からぱっと物を出したり仕舞ったりできる。
この魔法が書かれた古文書を見つけたときは皆で大騒ぎしたものだ……セラフィナは懐かしさでいっぱいになった。
身支度は昨日のうちに済ませてある。セラフィナはすぐに着替えて、扉の横に立てかけてある杖に目をやった。目の色と同じ、緑の宝石があしらわれたキレイな杖。
収納魔法で仕舞えるのだが、杖だけはしまったことがない。魔法使いの証として常に持っておきたいのだ。
セラフィナは杖を手に取り、扉に手をかける。
ふと、立ち止まってしまった。
誰もついてこない旅。声をかけても返ってこなかった返事。
「寂しいとかじゃないわ。違うけど……まあいいわ、昔だって1人で迷宮に突っ込んだことあったもの」
なんとかなる、そう自分に言い聞かせ、扉を開いた。
⸺数時間後
セラフィナはファルマ村を越え、さらに西へと進んでいた。ファルマ村までは馬車だったが、今は徒歩だ。
杖を片手に野草をかき分け進んでいく、目指すはホプの村だ。
だいぶ森の中を進み、セラフィナはふと足を止めた。
見渡せば、木々の揺れる音すらしない。風もやんでいる。
「なんか……静かじゃない?動物もいないし」
いるはずの動物や鳥たちの姿が見えない。
これはおかしい、と考え込んだ次の瞬間。
セラフィナは黒い霧に包まれた。