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無頼MENの討伐隊

~おことわり~


自誠、礼央、どちらエンドともとれるお話。

書籍版ネタバレは無いようにしたつもりですが、WEB版では出てこなかった「厄介な客」の名前のみ、書籍版から拝借しています

満ち欠けし 形を変えていく月


そんな月の明りを 雲が覆い隠した 暗い夜のことです

郊外のアジトに賊達が集まり 集会を開いていました


その場には 曹氏という 急速に落ちぶれつつある男もいました

元々は役人で 権力を振りかざし 高級妓楼の朱櫻楼などを相手に調子こいていた男です 

しかしある日 うっかり大きな肥桶に落ちてから 彼の運気はダダ下がりでした ウンにまみれたはずなのに


その後腹いせに 子飼いの部下に金を握らせ 客の失火を装って朱櫻楼を燃やしたりもしましたが 胸はすくことがなく 逆に最近などは 失職の危機に陥る始末


なぜなら 今年から彼の周囲だけ 都から来る監査がとんでもなく厳しくなるとお達しがあったからです

もろもろの不正行為は ばれないようにうまくやってきたはずなのに 


本来 やる気のない役人が1人来るだけなのに 今年は優れた文官が20人以上 まとめて来るそうです 徹底的な聞き取り調査と がさ入れをするとお達しがあったので 近いうちに様々な罪が発覚し 厳しく処罰されてしまうでしょう


そこで曹氏は考えました 

そうだ 子飼いのあらくれものやその仲間たちを集め 派手に強盗をしてから 国外に高飛びしてしまおう


そう思い号令をかけると 思った以上に人数が集まりました 子飼い以外にも多くの無法者が集まり その数ざっと30名 なんでも 皇帝が変わってから治安は良くなる一方で 特にこの地域一帯は 悪人には大変生きにくくなっているからだそうです


大人数に気が大きくなった曹氏は思いました ターゲットは朱櫻楼にしようと

再建されて以来 飛ぶ鳥を落とす勢いで大繁盛の朱櫻楼 最近など元寵妃まで在籍しているそうで 実におもしろくないと思っていたところでした


もちろん朱櫻楼にも用心棒はいますが こちらは多勢

明日にでも 派手に強盗略奪をして そのまま他国へとんずらこけばいいのです そうだ上級妓女も攫ってしまおう



そんな経緯で ずさんな計画を立てた彼ら 

今は酒で気も大きくなり いい気分です



ところがどっこい




「う…うぉえー!」

「な なんだか 気持ち悪い……」


宴もたけなわと言ったところで 半数以上の部下が急に苦しみ始めました 食中毒でしょうか 


いやいやまさか そんなはずはありません

食材を用意したのは同じ賊徒です 


宇航という 新入りの ぱちりとした目と 柔らかそうな頬を持ったまだあどけない少年が「()()()()()()()() ()()()()()()()() ()()()()」と言っていたのに 


そんなことを考えていると 荒々しい羽ばたきと共に 一羽の烏が飛び込んできました

真っ黒な 異様に尾の長い とても大きな烏です


「うわあ 篝火を倒したぞ」

「早く消せ 火が回る」

「あちちち」


その勢いと どう猛さに 賊達は悲鳴を上げています


しかし災難は まだまだ終わりません

場が混乱した瞬間に 突然 烏のような黒装束を纏った 屈強な男達が現れました


「ぐへぇ!」

「なんだおまえたぐへぇ!」

「て てきだぐへぇ!」


黒装束の男達はとても強く 問答無用で賊達を殴り 昏倒させていきました

訳が分かりませんが とにかくまずいことはわかります


曹氏は慌てて逃げ出そうとしました 

しかし 脚が動きません


「な……っ!?」


曹氏の脚には 細い糸が絡んでいました

驚いている間に 他の賊達は全員昏倒させられ 意識があるのは曹氏だけです


「こいつで間違いないな」

「ええ これが あの子にも下劣な嫌がらせをした男よ」


声のした方を向くと 磨いた黒曜石のごとき瞳を持つ 王者のような迫力を持った男がいました

そして隣には 看板妓女のような美しさで 色香があふれる外見をした人物が立っています 

しかし、その声は明らかに男のものです 


それは 朱櫻楼の楼主でした。


「き貴様! こんなことして済むと思っているのか!?」

「それはこっちの台詞よ」


それから楼主は 古参の上級妓女や この件にやたら乗り気な 優秀な新人の手を借りて方々から情報を集め 過去の失火は曹氏の手引きだと突き止めたこと そして今回の襲撃計画についても 把握していたことを語りました


「再建に忙しくて 原因究明に時間がかかったけど もともとあの失火は 少々おかしいと思っていたのよ まあ お人好しが過ぎるあの子なんかは 何も疑っていなかったけどね」

「こ この場で殺すつもりか……?」


震え上がる曹氏に 楼主は

「まさかぁ そんなことするわけないじゃない」

と笑顔で答えます


それから真顔になると 一段と声を低くして言いました


「アンタには大きな借りがある 利子付きで しっかり返させてもらうわ」





その後 簀巻きにされた曹氏と賊達は 楼主と面識のある貧民窟の頭領と その部下たちによってドナドナされていきました


新しい皇帝により街の治安は向上し 不穏分子も一掃されたので これでもう 朱櫻楼に火の粉が降りかかることはないでしょう


ひと段落してから楼主は思いました

小悪党の討伐にこれだけの人員が出るなんて やっぱりあの子は 二度目の場所で見事に花開いたわね と


いつの間にか雲は晴れ 顔を出したのは まるで円鏡のような月


「私も一度光を失った...... だからこそ二度目は 大切なものを きちんと守っていかないとね」

 

月明かりは つぶやく楼主を 美しく照らし出していました


~本話の前日譚~


「ってな感じで、曹氏って客は厄介だったからさー。もし来ることがあれば注意するようにって、楼蘭に手紙を書いていたのよ。」


「……その手紙、どうか私にお預けください。『必要な方に情報が届くように』手配しておきます。」


「ありがとう、夏蓮。あとね、今度こっそり、朱櫻楼に挨拶に行きたいなって思っているの。」

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