第四話
「どうだスッキリしたか!」
「……はい……先輩のおかげで気持ちの整理がつきました。もう私は後ろを振り向きません」
スッキリした顔になったコリンは本当にケヴィンを諦めきれたようだった。涙を流しケヴィンとの想い出を全て出し切ったのだ。
「そうか!そりゃあ、良かったぜ!でも驚いたな!胸は貸すって言ったが、おもいっきり叩かれるとは思わなかったな!ハッハッハ!」
「ご、ごめんなさい。つい叩きたくなりまして……」
「ハッハッハ冗談だよ!そんな攻撃なんて利くわけないだろ。さぁ、もう遅いから送っていく」
いつのまにか周りが暗くなっていた。あれから結構な時間が経っていたようだ。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。あっ!?」
何故かすんなりと受け入れられた自分に驚いているようだ。普段は婚約者のケヴィンを優先に考え、こう言った誘いは断っていたのに。
そして2人は歩き出した。無言で歩いていると。アバンが意を決し、恥ずかしそうに語り出した。
「俺にとって、コリン嬢は可愛いし綺麗だ」
えっ!こんな歯の浮いたような言葉は絶対言わなないはずなのに……あっ!……そうか!アバン様は私を励ましてくれてるのね。だって私はケヴィンに……。
「でも、ケヴィンが……」
「野郎は嘘つきだ」
コリンの言葉を遮りその先を言わせなかった。クズなケヴィンを思い出させないように。
「えっ!」
「俺がこれからコリン嬢が可愛く綺麗な令嬢だと証明してやる」
「そんな無理です」
コリンは俯き悲しそうな顔をした。
「だから、そんなな顔をするな」
「ならどんな顔をすればいいんですか」
「コリン嬢は笑ってる方がいい」
「……私なんて」
「俺が何度も何度もいってやる!綺麗だし、可愛い、それに最高な令嬢だってな!だから笑ってくれ」
不敬にもアバンが一生懸命励ましてる姿がおもしろく見え、コリンは小さく笑ってしまった。
「ふふっ、ありがとうがとうございます」
自然とそんな言葉が出た。
「そう!その顔だ!ハッハッハ!」
「ふふっ、アバン先輩は優しいですね。私が生徒会にの仕事に手間取ってる時に何度もに助けてくれましたし。今日だってアバン先輩に助けてくれたから、今笑っていられるんです。おかげで自信が持てた気がします」
コリンはスッキリしたように笑顔をアバンに向けた。
「そ、そうか!役に立ててよかったぜ!やっぱコリン嬢は笑った方がいいな!……よし!俺は決めたぞ!」
「何を決めたんですか?」
「ハッハッハ!欲しいのが出来ちまったんだよ」
その目はコリンをしつこく生徒会に誘った時の目とまったく同じだった。
「また獲物を見つけたんですか?」
「そうだ!俺は狙った獲物は逃がさない!絶対にな」
「ふふっ、そうでしたね。アバン様なら大丈夫です。応援してますね!手に入られるようにって!」
「……そうか!……俺は必ず成功させる!その時は一緒に祝ってくれよ」
「はい!」
「はぁー、……ここまで言っても気付かないか」
どうして先輩落ち込んでるんだろ?と、思っていると我が家の馬車まで辿り着いた。
「もう着いちゃいましたね。今日はありがとうございました」
頭を深々下げた。アバンには感謝しても感謝しきれない程の恩ができてしまったのだから。
「おう!また俺が必要になったらいつでも呼びな!」
アバンは優しい顔をしながら頭を撫でてくれた……温かい……でも、
「ちょっ、恥ずかしいです」
「悪りぃ!ついさっきの癖でやっちまったな。特にコリン嬢にはやりたくなっちまうんだ。じゃあ、またな」
「はい、お気をつけて」
コリンはアバンの帰って行く後ろ姿を見ながら撫でられた頭を名残り惜しむかのように自分の頭にそっと手を乗せた。アバンの残った温もりを感じるために……。
そしてアバンは急に後ろを振り向き、コリンに大きく手を振りながら後ろ向きで帰っていった……途中で柱にぶつかりながら……
「うふふ」
あんなに格好よかったアバンがおかしく笑ってしまった。アバンの以外な一面を見てコリンはケヴィンに傷つけられた心が修復されていくような気がした。
もうこれ以上心の傷が広がることはないだろう……頼もしい先輩のおかげで。
◆◆◆
我が家に到着し、着替えもせず父と母の元に向かった。
トントントン!父と母のいる執務室の扉を叩いた。
「誰だい」
「コリンです」
「おぅそうか!早く入りなさい」
最近忙しかった娘がわざわざ仕事場に顔を出してくれて喜んでいるようた。
「失礼します」
「あら!どうしたの目が真っ赤じゃない」
母がコリンの目を見て驚いた!
「……‥」
あちゃー!後にすればよかったわ、と後悔するコリン。
「泣くような辛いことがあったのかい」
父は心配になり尋ねた。これはただ事ではないと……
「実は……」
コリンは今日あった事を全て話した。
「けしからーん!!ケヴィンは……奴はコリンを好きじゃなかったのか!?許せん許せん許せーん!!」
父は憤慨し大絶叫だ!
「落ち着いて下さい」
母は父の背中をさすった。冷静になるようにと。そして、冷静になった父が急に落ち込み始めた。
「ワシは何てことをしてしまったんだ!くっ、すまなかったコリン……ワシが両思いだと思い婚約させたばかりに……コリンに悲しい思いをさせてしまった。くっ…」
父は涙を流しながら謝罪した。
「そんなことはありません!私はケヴィンのことが好きだったから……だからお父様のせいではありませんわ!」
父にまで悲しい想いをさせてしまっコリンは心苦しくなり、父を擁護した。
「コリン!」
父は娘の優しさに触れ感動した。
「お父さま!」
コリンも父の優しさに感動した。
お互いの気持ちが繋がり、2人は両手を広げ抱きつこうとした!だが……、
バシッ!バシッ!とリズミカルに2人の頭が叩かれた。
「この馬鹿親子!今はそんな茶番してる場合じゃないでしょ!これからどうするか話を進めなさい!」
「「はい」」
さっきまでの雰囲気はなくなってしまった。母には誰も逆らえないのだ。
主導権が父から母に代わった。
「それで、コリンはどうしたいの?」
「……婚約を解消にしたいと思っております」
「そうね。でも、本当にいいの。コリンはケヴィンを好きだったでしょ。私は婚約破棄して欲しいけどね」
「はい、好きでした。だからケヴィンを自由にさせてあげたいんです。だって、ケヴィンは私のこと地味だって、それに好きじゃないって。それに私は愛のない結婚は嫌です!私はお父様とお母様みたいな愛のある夫婦になりたいんです」
「あら!」
「お、おぅ」
父と母は顔を見合わせ照れている。チュッチュしそうな雰囲気だ。
「コリンの気持ちは良くわかった。でも破棄じゃなく解消にか……。ワシは不貞したケヴィンを許せんから婚約破棄したい。だが、今の所ケヴィンの不貞を働いた証拠がないからな。すまんなコリンよ。じゃが、必ず婚約を解消させるからな!なぁカンナよ」
「そうね、わたくしも賛成。私の娘を馬鹿にする男は地獄に落ちればいいのよ」
母の口が悪くなってるがアバンの口の悪さを毎日のように聞いているコリンは気にしていないようだ。
「ありがとうございます。お父様、お母様」
「よい、よい、ワシから侯爵に話しておく。何をしてでも解消してもらうさ。元々コリンと奴の婚約は政略でもない。だから侯爵と縁を切れても問題ないしな。……だから泣かないでおくれ。私とカリンであの男よりいい男を探してやるからな」
いつのまにかまた涙が出ていた。全て出し切ったと思ったがまだ、ケヴィンに対する気持ちが少し残っていたようだ。
「……はい、よろしくお願いします」
父は娘を優しく包み込みコリンの頭を優しく撫でた。ふと、アバンの顔が頭の中でよぎった。
『あぁ、そうか……アバン様はお父様に似てるから安心できたのね』
と、コリンは再びアバンの優しさを思い出したのであった。
◆◆◆
それからコリンは傷心の身と言うことで学園を休んだ。
母と一緒に趣味の読書を楽しんでいると……
トントントン!
「父だ!入るぞ」
「はい、どうぞ」
「良い知らせを持ってきたぞ!奴との婚約は解消となった」
「本当ですか!」
「あら!よかったわ」
「ああ、向こうはゴネてたけどな。これ以上ゴネるなら婚約破棄にし、もっと慰謝料をとると脅してやったわい!お前の息子の不貞の証拠をもってな、とハッタリをかましといた!そのハッタリが利いてすぐに解消となったわい!ハッハッハ」
「そうですか……その場にケヴィンはいなかったのですか?」
「いなかったのう。寮に使いの者を出したんだがいなかったらしい。どうせ、不貞相手の女と遊んでるだろう。学園に入学する前はあんなんじゃなかったのにな」
「そうですね。学園に入ってからクラスメイト達と遊んでから変わりましたわ」
「元々、そう言う男だったのかもな。まぁ、早めに分かってよかったじゃないか。あんな男と結婚したら大変だったぞ」
「そうですね。私も前を向いて新しい出会いを探します」
「おう、おう、そうか!今日婚約が解消されたから明日には釣書が沢山くるぞ!」
「私に沢山来ません……でも地味な自分を卒業したいんです!綺麗になりたい!お母様、お願いします」
「あらあら、コリンもやっとオシャレをする気になったの。じゃあ、私にまかせなさい。とびっきりの美人さんにしてあげるわ!まず、そのダサいメガネを外しましょう。そして化粧も。ふふっ、腕がなるわ!」
「あっ、そうか!もうメガネ外してよかったんだ!あと化粧もしていいんだ!今までケヴィンの言われた通りしてたけど、もう関係ないわ!」
そう、コリンはケヴィンから呪縛から解かれたのだ。
そしてコリンは母にダサいメガネを捨てられ、コリンに似合った化粧を施した。
「はい、完成よ!思った通り素敵ね」
「おぉう!綺麗だよコリン!変な虫が寄って来そうで心配になってきたぞ」
母と父は娘の綺麗になった顔を見て大満足している。
そして、鏡に写った自分を見たコリンは……
「こ、これが私なの!全然違う!」
と、目をまん丸くして驚いた。まるで別人だと。
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誤字報告ありがとうございます
次回はケヴィン視点です