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第三話

 慌てて立ち去ったコリンを見送り、ケヴィンはクズな考えをしていた。



『はっはっは!逃げやがった!いいざまぁだ!これで僕が上だとわかっただろ!』


 この時のケヴィンは婚約者であるコリンの絶望した顔を思い出し優越感を抱いていた。コリンは自分より優秀でストレスが溜まっていたのだ。学園に入る前は父から比較され、学園に入学してからは生徒達に比較された。そしてコリンは学年で優秀だと皆から持て囃され、高位貴族の先輩達からもチヤホヤされ許せなかった。

『自分より目立ちやがって何様だ!僕が伯爵を継ぐんだぞ!お前はただの僕の横で大人しくしていればいいんだ!』


 今のケヴィンはコリンをぐちゃぐちゃに出来た快感が身体中を巡っていた。またこの快感を味わいたい!次は何して絶望させてやろうと思いながらラクスと口付けをしていた。そしてケヴィンはクズな考えを閃いた!


『コリンを優秀だと思ってる奴らの前で婚約破棄したらどうなるんだろ……きっとさっきみたいな顔するんだろうな。ふふっ、僕に泣きながら婚約破棄しないでって、奴らの前で懇願するんだろうな。だって僕のこと昔から愛してるんだから。あぁ、楽しみだ。またコリンの絶望した顔が見れる……待っててね、君に再び絶望を味合わせてあげる。そしてドン底まで落としてあげる……そしたら僕に一生逆らえないよね。……あぁ、これで君は完全(・・)に僕だけの()になるんだ。僕の言われた通りしていればいいんだよ、愛しのコリン』



 こうして歯止めが利かないクズに成り下がってしまったケヴィンは、これからドン底に落とされるコリン。ケヴィンはいつまでもコリンが無性に自分を愛してくれる。そう思っているケヴィンの誤算で次期侯爵になる将来が崩れてしまうなんて今のケヴィンは知る由もなかった……



◆◆◆



 コリンは誰もいない教室まで逃げ込みうずくまっていた。



「うっ……う、う、悔しい、悔しい……悔しくいよ……でも……好きなの、愛してるの……ケヴィンのことが……う、う、うっ」


 声を押し殺し泣いていると……

 バタン!扉が開いた。


「どうしたんだ!!」

 誰も来ない教室だと思っていたコリンは驚き顔を上げた。

 そこにはアバンが険しい顔で立っていた。

「先輩……どうしてここに」


「ちょうどこっちに用事があったんだ。そしたら慌てて走っていったから心配で付いて来たんだが……もしかして泣いてるのか?」


 アバンもしゃがみ込みコリンの顔を覗き込んだ。


「泣いてなんかいません……ちょっと疲れて休憩してただけです」

 苦し紛れの言い訳をした。


「はぁー……、そんな訳ないだろ。俺だからって騙されると思うな!何があったか教えてくれ!俺が何とかしてやる……もしかしてさっきメイリーン嬢が話していた婚約者のことか。クソォ!俺が話をつけにいってやる!!」


 アバンが怒りを現らわにした。アバンは確信しているようだ。コリンを泣かせたのはケヴィンだと。そして、コリンを泣かせた元凶に鉄槌を下しに行こうと腰をあげた。だが、足を動かせなかった。なぜなら、アバンの足にコリンが足にしがみついてたのだ。それも必死に。


「駄目ーっ!先輩が行ったら大変なことになっちゃいます。私は大丈夫ですから行かないで!」


 コリンは必死に止めた。屈強な体をしたアバンが貧弱なケヴィンに暴力をふるったら一溜りもないだろう。それにケヴィンを傷つけて欲しくない気持ちの方が大きい。まだあんな醜いケヴィンでも完全に嫌いになれていない。まだ好きだった頃のケヴィンを引きずっているのだ。

 王太子の幼馴染である彼が注意しに行ったら学園中に知れ渡ってしまう。そしたら侯爵に迷惑をかかってしまうのだ。ケヴィンを許せない気持ちはあるが、いつも優しくしてくれた侯爵には迷惑をかけたくない気持ちがあった。


 必死の形相で止められ行くのを諦めたアバン。これ以上コリンを悲しませたくなかったのだ。


「わかった、わかった、だから足を離せ……ふぅー……じゃあ何があったか教えてくれるか?」


 一呼吸し怒りを落ち着かせた。

 コリンはアバンの足を離し、泣いていた理由を話した。


「……実はさっき空室でケヴィンが……ラクス様と2人で……口付け……」


 最後まで言えなかった。2人の熱烈な口付けを思い出して再び胸が苦しくなってしまったのだ。


「大丈夫かっ!ちゃんと息をしろ!ゆっくりゆっくりだぞ」


「はぁーーふぅーー……はぁーーふぅーー……」


「落ち着いたか」


「……はい……ありがとうございます」


「無理やり聞いて悪かったな。もう言わなくてもいい……コリン嬢の言いたいことはわかった。……コリン嬢には悪いけどあの野郎はクズだな!今からぶっ殺しに行きたいぐらいだ」


「そ、それはやめてください」


「冗談だよ。で、これからどうするんだ?まだ婚約者を諦めきれないのか」


「……はい、ケヴィンに浮気されても、まだ婚約者でいたい気持ちはあるんです。でも、これ以上私の心が傷ついたらたぶん生きていけません……だから……このままでは駄目だと……」


「そうだな……俺もコリン嬢の苦しい姿を見たくねぇし死んでも欲しくねぇ!だから、さっさとそんな野郎とは婚約破棄した方がいい。君の為にも……」


「……そうですね……これから両親に今日あったことを知らせたいと思います……そしたら……ケヴィンを諦めます。だって、ケヴィンには私じゃなく愛している令嬢が……だから諦めないと……うっ、う、う」


 涙を堪え我慢した。このままではさっきと同じになってしまうと思ったアバンは……



「泣きたい時は泣け!我慢するな!俺の胸を貸してやるから!だからおもいっきり泣け!そしたら涙と一緒に嫌な気持ちなんて吹っ飛んじまうからさ。全て俺が受け止めてやる!そんなクズ野郎なんてこっちから捨てやれ!」

 と、アバンは自分の胸をポンと叩いた。全て受け止めてやると、そしてコリンは泣きながらアバンの胸に飛び込みアバンの胸を叩きだした。ドス、ドスドスドスドス!


「なんでなんでなんで、私を裏切ったのよーっ!そんなに可愛い女がいいのかーっ!」

 今までの想いを吐き出すように。

 ドスドスドス!


「悪かったわね可愛いくも綺麗じゃなくて!地味で悪かったわね!」


 可愛いと言ってくれていたあの頃のケヴィンを忘れるために。

 ドス……ドス!


「でも、それでも……好きなの……う、う、う、うぇ〜ん」


 でも、忘れられない……だってケヴィンが好きだから。



 叩くのを止め、アバンの胸の中で泣き出した。まるで子供のように……


 そしてアバンは、そっとコリンの頭を優しく撫でた。


 それはコリンが泣き止むまでずっと続いた。

 そして……






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