第5話 邂逅
第5話 邂逅
王都リベリスは城郭都市である。
都市を囲むように、堅牢で高い城壁がそびえ立っており、東西南北の4カ所に巨大な城門がある。
都市に入るには、城門で検閲を受け、身分を証明することが必要であり、不審者は入れないようになっている。
都市に入るにあたり、一般民には納税の義務はないが、この地で売買を行う商人や他国の貴族には入都税を納める義務があるそうだ。
北門へと続く列に並びながら、そんなことを教えてもらっていた。
「身分証明ってどうしたら良いの?」
「ああ、レンは心配ないよ。今回は私たちが保証人になるから。」
「そう、心配はいらないわ。今回はライトの言う通りだし、ギルドで冒険者登録を済ませたら、冒険者証が貰えるの。それが今後、身分証明になるのよ」
「ふーん、そうなの?」
しばらく待っていると、ようやく僕達の順番である。
ライトとディアの二人は、門番と挨拶を交わし、身分証明となる冒険者証を見せた。
何やら門番は少し驚いた表情をみせたが、すぐに僕の保証人手続きを済ませてくれた。
城門をくぐり王都内部に入る。
王都の中心部のやや北側にリベリス王宮があり、それを大きさの異なる楕円が何重かに取り囲むようにして区画整備されている。
内側から、近衛騎士や貴族の住居区画、一般騎士の居住区画、貴族向けの商業施設の区画、教育施設や教会関係の区画、一般商業施設の区画、一般市民の住居区画となっている。
冒険者ギルドや武器屋、(魔法)道具屋は、その区画整備の規則から外れている。冒険者が王都に帰ってきた際に、すぐにギルドに立ち寄ることができるよう配慮されており、冒険者ギルドは南門近くに本部を、北門近くに北支部を構えている。
そして利便性を考慮され、ギルド近くに武器屋と(魔法)道具屋が並んでいる。
「レン、冒険者登録には都市の南側にあるギルド本部へ行く必要がある。歩くとかなり時間がかかるが、おまえは王都が初めてだし、のんびりと歩いて行こう。それにな、能力鑑定する前に、教会によって女神様に挨拶する習慣があるんだ」
この世界では、12歳になるとみんな自然に職業を習得する。
しかし普通はそれを自分で選ぶことや確認することはできないのだ。
もちろん、この場合の職業というのは、職業といっても実際の生活で就く職業ではなく、魔法使いとか戦士とかいわゆるclassのことだ。
だから魔法使いclassであっても、薬草やポーションを売る道具屋の主人という職業に就く人もいるし、戦士classであっても浮浪者となってしまうものもいるのだ。
まあ浮浪者は職業ではないのだが。
「レン、冒険者に向いたclassになれるよう女神サリア様によーくお願いするんだよ。」笑いながらライトが言う。
「うん。サリア様にしっかりとお願いしなきゃね。」
「サリア様は、サリア教の主神で、この世界を創造したといわれているすごい神様なのよ。覚えてた?」とディア。
「そうだったよね、母さんに教えてもらったよね。ちゃんと覚えているよ。へへっ、御利益が期待できそうだね。」
「ふふ、そうね。レンの能力は冒険者向けであると思うけど、特殊な能力が多いと思うわ。ありふれた職業ではないかもしれないわよ。」
「うん?そうかな…、ちょっと楽しみだね。どんな職業になるのかな?あーなんかドキドキしてきたよ。」
そんな会話をしながら都市を見て歩いた。
都市は人であふれ、とても活気づいている。
人間族のみならず、エルフやドワーフといった亜人と呼ばれる種族の人々、さらには猫族、犬族、熊族など獣人族の人たちもいる。
あたかも映画の世界に迷い込んだかのような、とても不思議で現実味がない風景だった。
人々の営みを見ながらしばらく歩き、僕たちはサリア教会リベリス本部に到着した。
教会は、とても大きく荘厳で、神秘的な雰囲気が漂っている。
開け放たれている大きな扉をくぐり、しばらく歩くと、外の喧騒は消え、内部は物音一つなく静まりかえっていた。
清廉な空気に包まれながら、視線を前にやると、視線の先には、優しげに微笑みかける、美しくも気高い女神の像が鎮座していた。
僕は呆けたように女神像の前まで歩いて来ると、自然と跪き、そして目を閉じてお祈りを捧げた。
心の中でサリア様に呼びかけた途端、閉じた視界の中で突然何かが光ったと思うと、僕の意識は白く何もない不思議な場所に飛ばされていた。
そして先ほど見た女神像よりも、遙かに美しい女神様が僕に微笑みかけていた。
「ようこそレン、よく来てくれました。私はサリア、この世界の創造神の一柱です。今あなたがいるこの精神世界では、今のあなたは長く存在できません。故に手短に話をします。よく聞いておくのですよ。」
「あなたは転生者です。異世界で死んだあなたを私が呼び寄せました。本来は転生時に話をするはずでしたが、女神ベスによってその機会を失いました。故に、あなたを見守りながら、この機会が来るのを待っていました。あなたには、特殊な能力を与えました。それはあなたが潜在的に望んでいた能力です」
「あなたにはいずれ大切な使命を託したいと思っています。しかし今はまだその時ではありません。しばらくは、この世界で自由に生きてください」
「あなたは前世について知りたいと思うでしょう。あなたの前世は、あなたにとってかけがえのないものであり、そしてその記憶や知識は、この世界でもとても役立つものです。だた、あなたの前世における人生の幕は、とても不幸な形で下ろされてしまいました。それを知ることは、あなたの心に深いダメージを与えかねません。故に、もうしばらく、前世の記憶は封印したままにしておきましょう。それではまた、いずれ会いましょう」そう言いながらサリア様が右手を挙げると、女神様に質問する間もなく、僕の意識は精神世界を離れ、この世界に戻ってきた。
「レン、どうしたの?ちゃんとお願いはできた?」
「えっ、あ…うん、大丈夫だよ」
「そうか?じゃあ次は冒険者ギルドに行くか」
「…うん」サリア様との邂逅という不思議な体験とその意味を考えながら、僕は教会を後にした。
初投稿です。ぼちぼち頑張ります。よろしくお願いします。