第21話 アイアン・ゴーレム
第二層のボス戦です。
第21話 アイアン・ゴーレム
第二層後半部に出現するモンスターは、それまでとは一線を画す強さである。
魔法に耐性を持ち、逆に魔法攻撃を得意とし、仲間を呼ぶこともある下位悪魔であるレッサー・デーモン。
硬いうろこに覆われて物理攻撃が効きにくい上に、ブレス攻撃を仕掛けてくるレッサー・ドラゴン。
呪文攻撃やエナジードレイン攻撃、その上に麻痺攻撃と、多彩な攻撃を仕掛けてくるアンデットの上位種ヴァンパイア。
素早い動きから、毒攻撃や麻痺攻撃を仕掛けてくる、大蛇の体に人のような顔を持つモンスターのラーミアなど、そのどれもが強敵であった。
また、第二層後半部の迷宮は、テレポーテーションの罠が多く設置されており、一筋縄では攻略できないようになっていた。
しかし、隠し扉の向こうに、第一層へと飛ばされる一方通行のテレポーテーションを発見してからは、地上への帰還が安全かつ大幅に短縮できるようになり、残りの魔力をあまり気にせず攻略をすすめられるようになった。
また、時々落ちる宝箱から、強い武具を収得し、パーティーの装備が充実していったことにより、危なげなく戦えるようになっていった。
そして、第二層の後半部分の攻略をし始めてから、約三ヶ月たったころ、ようやく第二層のボスへと挑戦できるようになっていた。
第二層のボスはアイアン・ゴーレムである。
全身を金属で覆われたアイアン・ゴーレムは、通常の鋼鉄製の武器では傷をつけることもできない、物理防御に秀でたゴーレムである。
また魔法攻撃にも高い耐性を持ち、魔法攻撃も通りにくい。
アイアン・ゴーレムに傷をつけるには、鋼鉄以上の強度を持つ、ミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネといった貴重な金属が必要だと言われている。
また、体長2.5mからなる巨体から繰り出されるパンチは、想像を絶するほどに強力で、硬いうろこに覆われたレッサー・ドラゴンでさえ、数発で死に至らしめることができるという強敵である。
唯一の弱点は関節部分であり、ここを的確に攻撃することで、相手をダウンさせ、頭部にある魔石を破壊することで死に至らしめることができる。
僕はアイアン・ゴーレムの特徴を思いだしながら、昨日のブリーフィングでのことを考えていた。
「魔法は効かない。まだ達人の域には至っていない僕やリンの剣は通じないと思って良い。おまけに盾で相手のパンチを受けることもかなり厳しい。とても厄介な相手だよ。しかし動きはそれほど速くない。レンの関節部分への攻撃が、唯一の効果的な攻撃手段となると思う」
「僕が引きつけている間に、膝関節を手刀で攻撃してほしい。ダウンが取れたら頭部の魔石に一斉に攻撃する。それが一番良い方法だと思うよ」
「メンデス、君がアイアン・ゴーレムを引きつけると言うけど、盾で受けられないのに大丈夫なの?」
「ああ、盾で受けるとかなりのダメージを食らうだろうな。そこは後衛陣に回復してもらわなければならないな。頼んだよ」
「もちろんよ」
ブリーフィングではそれで話を切り上げたが、本当に大丈夫なのだろうか?
ソロでの攻略なら他にも手はありそうだけど・・・。
「みんな、じゃあ行くよ!」メンデスの声で我に返った僕は、魔力を練って右示指の先にチャージしつつ、進んだ。
アイアン・ゴーレムは一体で現れた。
メンデスの負担を減らすには、できるだけ早くダウンを取る必要がある。
僕は素早く走りながら、ステルス・スキルを発動し、さらに時空間操作スキルを使った。
時空間操作スキルは、レベルアップとともに時間に干渉する能力が上がり、相手の動きは以前よりさらに遅く感じるようになっていた。
まずは、攻撃を仕掛けようとしている相手の右肘関節部にめがけて、魔弾を発射した。
しかし、走りながら発射したため、魔弾は関節部を外れ、ダメージを与えることはできなかった。
しかし、腕をはじくことはでき、メンデスへの攻撃を、一発無効化することができた。
まだ、時空間操作スキルは継続している、以前よりもスキルの継続時間が延長しているようだ。
しかしそれを一旦中止し、そのまま速度を落とさず死角に入った。
メンデスはアイアン・ゴーレムの重い攻撃を盾で受け止めている。
しかし、盾で受け止めるたびにダメージを受けている様子で、レイリアは回復呪文を唱え、メンデスを支えている。
時空間操作スキルを使うと、以前にも増して、時間の流れがゆっくりと感じられる。
元々動きの速くないアイアン・ゴーレムを相手にした場合、かなり小さな的であっても正確に攻撃することが出来る。
僕は再び時空間操作スキルを使用すると、一気にゴーレムに近づき、その膝部分に正確に手刀をたたき込んだ。
手刀は、関節部にある魔石と共に足を破壊することに成功し、アイアン・ゴーレムは大きく体勢を崩した。
それまで防戦一方だったメンデスだが、そのチャンスを見逃すことはない。
一気に攻撃に転ずると、流麗な動きから、自分の背の高さまで下がってきたアイアン・ゴーレムの頭部の魔石を長剣で貫いた。
パーティーはそれぞれの役割を全うし、強敵であるアイアン・ゴーレムを危なげなく撃破することに成功した。
それは、アイアン・ゴーレムが僕たちにとって相性の良い相手だったからだろう。
それでも、ボス戦での勝利は誇らしいものだ。
アイアン・ゴーレムが煙のように消失するとともに、宝箱が現れた。
「やった!宝箱なのです。開けるのです」リンは、言葉とは裏腹に慎重に宝箱の罠を探っている。
しばらく宝箱と格闘した後、解除に成功した。
宝箱の中には、鎖帷子と盾が入っていた。
「やった!ダブルだ!」
ダブルとはまれに見られる現象で、一つの宝箱に二つのアイテムが入っている現象である。
喜ぶパーティーメンバーの横を通り抜け、中身を確認した僕は、すかさず鑑定をしてみる。
ステルス機能が付与された『闇夜の鎖帷子』と防御力の高い『支えの盾』であった。
「支えの盾はメンデスに丁度良いね。闇夜の鎖帷子は僕かリン向けだけど、リンが使ったら?」
「いいのですか?」
「うん、僕にはステルス・スキルがあるからね」
「じゃあ今日はここまでで切り上げよう」メンデスはさすがに疲れた様子で、そう言うと、第一層へと続くテレポーテーションへと向かった。
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